5 キミカお葬式会場(リメイク) 1

朝起きて今まで起きたことが夢だったんじゃないかって思う事がある。
それはフロイト的に言えば夢であればよかったのに、という願望って事になるのだろうか。全身大火傷を負った事も、その後にロボットだか人造人間だかに改造され命が助かった事も、それが全部実は夢であって、家族と一緒に暮らしていた時の事を思い出して、いつになったらこの夢が覚めるのだろうと思う事がある。
しかし起きた部屋は今まで寝起きしていた自宅の部屋ではなくて、その違和感のまま廊下へと出てから階下に降りると家の構造が違うことや雰囲気、匂い、それから朝食を作ってるのが母親じゃなくて巨大な肉の塊(デブ)だって事も、それら全てがリアルに頭の中に流れ込んできて否が応なしに現実世界を肯定しなければならなくなる。
そう、今、俺は居候の身なのだ。
ニュースでは数日前の俺が遭遇した事故やら、多脚戦車らしきものが街の中を暴走している件についてコメンテーターが何やらグダグダと自分の意見を言っている。このニュース番組の映像には無かったけれども実はこの後、美少女(おれ)と多脚戦車の戦闘シーンがあるはずなのだが。
俺の家では朝食は決まって和食だったのも、今の家で感じる違和感の一つになっている。
俺をロボット…いや、サイボーグのようなものに改造したマッド・サイエンティスト、えっと名前はなんだっけ?この肉の塊さんは…まぁデブだからデブでいいや。そのデブが作る朝食は洋食スタイルでテーブルの上には大きな皿の上にポテトサラダが盛られててコーヒーと牛乳と、そしてテーブルナプキンが敷かれ、サッカーボールよりも小ぶりな(それでも十分巨大な)米粉パンらしきものがその上にある。デブことケイスケはその米粉パンをナイフでそぎ落としてバターを塗りながらモグモグと平らげていた。
ちょうどケイスケが牛乳を飲もうとしている時に俺と目が合って、「あ、キミカちゃ…ブホッ」と牛乳をテーブルナプキンの上に撒き散らす事態となっていた。これが挨拶なのだろうか…随分と俺の家の挨拶と違っているが。
「変わったおはようの挨拶だね…」
「ノーブラでパジャマ着てしかも下にはパンツ一丁って!!童貞独身むっつりスケベなボクチンには刺激が強すぎるんですォォォ!!」
などと叫ぶ。
そうなのだ。
今の俺は買ってもらってたパジャマは上だけ着用し、ノーブラでパンツ一丁の姿なのだ。偶然にもそれがアニメなどで寝起きでセクシーな格好をしてるヒロインに酷似してしまっていたとは、俺は意図せず気がついたら男を挑発するような格好をしているという事なのか!これはゆゆしき事態だぞ!
っていうかブラジャーという下着は寝ている最中も身体にまとわりついてきて違和感があるんだよね。かといってTシャツを貰ってるわけじゃないからとりあえず全裸にパンツという男の子の時のスタイルで寝てて、さすがにおっぱいブルンブルンしたままケイスケと朝食を食うわけにはいかないのでパジャマ上だけは着ておいたっていうのが事の発端なのだが。
「朝ごはんは〜?」
「スルーですかぉ!」
そうは言いつつもケイスケはベーカリーの機械の中からサッカーボールを、いや、サッカーボール大の米粉パンを引っ張り出してから、それに包丁で切り込みを入れて俺に渡した。バターと共に渡した。
「どうも」
と俺がそれに手を伸ばした時にも、まだケイスケは俺を見下ろすような位置に居て俺がバターをパンに塗って食べるところまでジッと見つめてくる。顔を赤らめて今にもハァハァと息を吸い吐きするように…。
その視線の角度を計算すると、同感考えても俺の胸元を見ているような気がするのだけれども気のせいだろうか。
「の、ノーブラ・ラブラブ」
「おい」
確かにちょっと刺激が強すぎる感は否めない…。俺も自らの胸元を見てみると、確かにそこには柔らかなおっぱいが(柔らかそうな、じゃなくて、実際に触ってるから柔らかな)白い胸の谷間をチラチラさせながら存在し、成長途中の身体と言いながらも既に乳首だけは大人であることを誇張しているように、パジャマの布地にチョコンと膨れている状態であるのが見える。
鏡がここにあったとしたら俺は自らの身体を見て興奮してしまいそうだ。
「はぁはぁ…」
って、何ケイスケは自らの股間に手を持っていってモゾモゾしてんねん!
「おいやめろ」
「?」
「あたしでオナニーするのをやめてください」
「もっと煽ってくださいにゃん…」
「おいいいいいい!!」
俺はそのぶっといデブの腕を掴んで変な動きを止めようとしたんだが、その俺の動きがまた萌えるんだか可愛いんだかセクシーなんだか知らないけれども、余計に興奮しているようだ。もうこれは見せないほうがいい…。そうか、女の子が顔を赤らめてセクシーな部分を男から隠そうとするのは、こういう男の反応がなんだか気持ち悪いからなんだな…つまり、俺と同じで男脳な女の子は恥じらいながら隠してしまう…のか?
俺は腕で少なくともぽっこりしている乳首の部分だけは隠して、ケイスケをジト目で睨みつつ、サッカーボールのような米粉パンを食べていた。
ニュースでは俺や俺の家族が巻き込まれたテロの犠牲者達の通夜や葬式の様子が映されていた。通り魔事件などが起きた時に献花がされるけれども、今回の場合はあの首都高の車専用道路に献花がされてるのかな?
いや、立ち入り禁止になっているんだな。
献花は俺や俺の家族が死んだあの首都高の下、支柱の下に添えられていた。
場面は変わって葬儀の状況を映している。
ふと、俺は自分や自分の家族の葬式も行われるっていう当たり前の事を気付いたのだ。家族が全員亡くなった時は誰が葬儀をするんだろうか?やっぱおばあちゃんおじいちゃんが父方、母方で葬儀を出すんだろうか…。
なんとなく、俺も行かなきゃいけないんじゃないかって気持ちになった。
確かに、今の俺は身体は女の子ではためには関係者じゃないような感じなんだけど…でも、なんか今、行かないと両親の葬式に出れなかったっていう人間になりそうだ。あぁ、なんかそれは嫌だな。
「葬式行ってきてもいい?」
「え、ちょっ」
「ダメ?」
「でも、今のキミカちゃんは部外者じゃないんですかぉ?」
「そうだけど…」
家族葬だったら入れないですにぃ」
「あぁ、そうか」
「行ってみるだけ行ってみますかにぃ…。ただ、姿形が変わったキミカちゃんはこれからは別の人間として人生を歩むべきだと思うんですが。少なくとも過去の知り合いに会ってベラベラと話して『感づかれる』っていうことだけは避けて欲しいと思っていますにゃん。後々面倒なので」
「そりゃ…わかってるよ」
過去の知り合いとの決別…つまり、過去の自分との決別か。