153 今度こそ 7

さっきコーネリアと共に散っていったのが最後の俺の同時操作キャラだった。つまり、もうこれが最後ってことだ。
「伏せろォォ!!!」
メイリンが叫ぶ。
ウィィィーンッという機械の回転音の後、ガガガガガガと雷が近くで鳴り響くような凄まじい音が響く。窓ガラスが吹き飛ぶ。鉄片が飛び散る。その中の一つが俺の太ももに突き刺さってくる。
メイリンの運転するトラックがドロイドの攻撃を受けた後だった。ミラーには俺達を追いかけようとしてくる日本兵と米兵、ドロイドの姿があった。
「撒いた?!」
「まだだ!」
地下の検問所のような場所を突破する。政府管轄のビルだからそういったものがあるんだろうけれども、殆ど機能はしていない。ただの障害物として俺達のトラックのフトントによって粉々に吹き飛ばされる運命だったようだ。
そのまま地上へと飛び出るとそこには街がある。
日本よりもさらに猥雑に人が屯している中国の一都市の情景が無理矢理にでも目に飛び込んでくる。俺達のトラックはトロトロと走っていたミニカーを反対車線へと押しやり跳ね飛ばしメイン道路へと流れていく。
「し、信号!!赤!!」
「そんなもの、ただの飾り!」
一斉に歩行者やバイク、自転車が横断歩道を渡ろうとしている中に俺達の乗ったトラックが走り抜ける。案の定、フロントに自転車が乗り上げ、運転していた中国人のNPCがワケの分からない言葉をペラペラと並べながら宙へと飛び上がる。
さすがはCall of Dirty…戦場であるガウロン以外にもリアルと大差ない作り込みだ。もし寝ている最中に電脳が勝手にゲーム内にログオンしてしまっても、現実なのかゲームなのか夢なのか判別するのは難しいだろう。
「それより、なぜ、キミカ、お前のメイド服、メイファンに着せてる!」
そう。
俺はメイファンが着ていた軍服。
メイファンにはメイド服を着せている。
「万が一にも間違ってあたしのほうを狙ってくればいいかな、って思って」
「卑猥だ!」
「メイド服は卑猥じゃないよ!」
「そのメイド服、胸を強調する服だから、メイファンにはまだ早い」
ったく、ゲームの中の偽物の妹に兄貴面したところでなんも救いはないぞ。
「キミカ、うしろつけられてる!」
軍用車両はまだ着てないよ?」
「いや、政府車両」
「え?」
政府車両?中国政府の車両か?
黒いバンが3台ほど並んで走ってる。どう考えても俺達を追いかけて着てる。道路を並走する一般車両を邪魔だドケドケとでも叫ぶように、体当たりでどかせながら距離を縮めていくのだ。
時計を見た。
既に40分は経過している。
日本と米軍の援軍が来るだけじゃなく、中国政府もこれを機にと一部が内部分裂をしてメイファンを狙ってきてるってことなのか?でも、メイリンは驚いたような素振りは見せてないぞ?
もうそれはわかっていたってことなのか?
「撒くぞ!!」
「どうやって?!」
「中国式だ!」
メイリンがそう言った瞬間、助手席のメイファンがシートベルトをぎゅっと握ったのが見えた。あぁ、そうですか、そういう事ですか。
衝撃に備えるために俺は両足を助手席にくっつけた。
メイリンが急ブレーキを踏む。
トラックの急ブレーキで後ろを走っていた一般車両が下敷きになる。ぺしゃんこに押しつぶして俺達が乗るトラックがその上に乗り上げる、と同時には窓から身体を乗り出して政府車両のボンネントと運転席に向けてサブマシンガンを放つ。飛び散る鉄粉、ガラス、血飛沫。一台大破。
再びアクセル全開だ。
メイリンは中国雑技団顔負けの凄まじいハンドル捌きを足だけでやってみせて、身体と手は窓から乗り出して俺達を通り過ぎていった政府車両に向けて銃弾を放つ。なんていう鮮やかな殺しの手口なんだよ、君、ゲームやったの今日が始めてだよね…って、あぁ、そうですか、リアルのほうで経験があるって事ですか。
「キミカ!ゴールは近いのか?!」
「ちょっとまって」
俺はHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)で現在地点を確認する。ゲームプレヤーなら使えるはずだけれども、メイリンはその使い方がわからないのだろう。俺は代わりに今の位置を地図で確認する。
GPSが中国製であるところまでは再現されてなくてよかった。
おそらくもうそろそろゴール地点だ。
「この大通りをそのまま走り抜けて、右に曲がってから川を渡ったらトンネルがあって、そこがゴールだよ!そこで地図が途切れてるからエリア外」
「それならこっちのほうが近道」
ん?!
おいおいおい!!
そっち道路無いって!!
メイリンはハンドルをクルクルと回転させて、俺達の乗るトラックは弧を描いて行く。どこへ行くかって?目の前には横浜中華街みたいな、どう考えても車が通るところじゃなくて歩行者天国みたいな場所が…。
一斉に避け始める中国人NPC
その中を突き進むメイリン
果物屋の野菜を宙へとはじき飛ばして、スイカやら見たこと無いフルーツやらがゴロゴロとトラックの中へと侵入してくる。屋台のテントを引き裂く、洗濯物を引っぺがす。もう暴走トラック状態だ。
その時、一瞬、歩行者天国の真上を何か黒いものが…ビルの間を黒いものが通り過ぎた。一瞬だけだったがもうそれが爆撃機だってことはアホでもわかった。メイリンがアクセルを全開にして暴走をさらに強めようとしたからだ。
ビルが…降ってくる。
ミサイルがビルに命中してコンクリートの塊を俺達の上に降り注がせてくるのだ。クソッ!TAKESHIの野郎ゥ…に位置がバレたぞ。
ガラスやコンクリートの瓦礫に埋もれる商店街。
人々も逃げ惑ったり死んだり、死んだ人を悲しんだりと芸が細かい。
「伏せろ!!」
再びメイリンの伏せろだ!
これ以上何が起きるってん…ウワァァァァァァ!!!
フロントガラスが吹き飛んだ。屋根が剥がれる。鉄がアルミホイルみたいにクシャクシャになる。ヘリだ。俺達が進んでいる真正面に米軍のヘリがご登場だ。しかも、メイリンは自分で俺に伏せろとか言っておきながら、伏せたままの状態でさらにアクセルを強く踏んだ。
「ぎゃー!」
俺は叫んだ。
「(中国語で何か叫ぶ)」
メイリンも叫んだ。
トラックの上に積んである『大した意味のない高射砲』が、その役割を果たす時がきた…高射砲の弾を撃つことは無かったが、ヘリのコックピットに砲塔を突き刺したのだ。
商店街を抜けるのとヘリを砲塔が突き刺すのは同時だった。
メイリンは急ブレーキを踏む。
ヘリは勢いで俺達のトラックから離れて、道路を転がって対向車線の車数台に体当たりを食らってた。
「あと、少しか?!」
「あと少し!!」
マップは既に川の側まで着ている。
ゴールまで後少しだ。