153 今度こそ 3

地下の搬送口にはトラックが何台か停車しており、生活物資や兵器を運び入れる環境が整っているようだった。もちろん、リアリティを追求するCall of Dirtyではこれらのトラックもちゃんと乗れる…が、
「さっきから何してるんだよ!」
と俺が注意するのはコーネリアだ。
奴め、何やら兵器の箱をトラックに詰め込み始めたのだ。
「HeHeHe…モシ負ケル事ニナルノナラ、トラックニ爆薬ヲ積ンデ自殺シテヤルノデース…」などと悪質なイタズラをやろうとしてる。
Call of Dirtyでの普段のコーネリアはサブマシンガンを持って飛び回り走り回り敵陣の中へと突っ込んで行って、文字通り逝く。が、それだけではなく装備品の手榴弾を死ぬ間際に周囲にまき散らして死ぬのだ。
もうその時点で仲間も敵もみんな大爆死。
そうなってくると巻き添え食らって死ぬ仲間もどうせ死ぬならとコーネリアの真似をするようになる。…つまり、手榴弾のピンを抜いていつでも爆発できる状態のバカが敵陣の中に突っ込んでいく。自爆テロも真っ青の戦法なのだ。
いつしか殉職野郎のレッテルを貼られているコーネリア。しかし本人はまったくそれを気にすることもない。勝てばいいのか?と言われればそうではないと思う。きっと無茶やって敵も見方も死にまくる状況が面白くてしょうがないんだと思う。勝つためなら他にもいくつも手段があるんだから…。
それはさておき。
俺が同時に制御しているスナイパー部隊はビルの中をひっそりと移動していた。窓は全部割れてて吹き込む風がカサカサと音を立てて室内に転がっている黄ばんだ紙を転がしている。廃墟マニアが喜びそうな雰囲気…。
だがそれらは何年も内戦状態が続く中国を如実に表しているものの一つ。度重なる戦争によってここを含め多くの都市は人が住めない土地になってて、何年も放置され続け、文明の香りが薄れていくのだ。
Call of Dirtyの制作陣がこういった場所をチョイスしたがるのはわからないでもない。もっと危機感を持つのならアメリカの住宅地などで戦闘が行わえる事を
さて。
準備にかかろうか。
俺は孤独なスナイパーなのだ。
こうやって影から影へ、闇から闇へと渡り歩いて、陽に当たる場所にいる『平和』を凶弾によって破壊する。もちろん、連中は誰がどこから撃ってきたのかわからないだろう。戦場っていうのはそういうもんだ。誰が誰を殺したかは…分からない。
だがその中で一つだけ例外がある。
それがスナイパーだ。
『狙撃』にはその行為自体に始めから名詞が付いちまってる。
だからスナイパーだけは捕虜になれない。
自分達の仲間や指揮官を殺した仇として、必ずその場で殺される運命だ。
だが、俺はそれでもスナイパーをやめることはできないのだ。
こちらにまったくダメージが与えられれず、敵はどこから撃ってきてるのかわからないという混乱の中、一人、また一人と仲間を失っていく。この焦燥、混乱、絶望、そして死…まるでカゴの中の小動物をいじめている感覚。
(ボスンッ!)
再び俺のライフルが火を吹いた。
戦車の脇に隠れていた日本兵のヘルメットが吹き飛んで真っ赤な血の霧を周囲に放出する。
慌ててる…慌ててるぞ。
きっとTAKESHIは「ふざけぇるんじゃねぇぞォ人間風情がァァァ!!正々堂々勝負しろォォァァァ!!」とか吠えてるんじゃないのか?
ティヒヒヒ…。
ん?
クソッ!!
気づかれたぞ!
何故?!俺の位置を特定するなんてそれって弾道計算をしてるようなもんじゃないのか?どこから弾が飛んできたのかをあれだけの僅かな時間んで計算したとしか思えないじゃないか…そんなの人間に出来るはずが…。
いや。
出来るんだ…。
人間じゃないから。
部屋の中に銃弾が飛び込んできて弾痕を残す。
俺は背中を曲げて情けなくババアのような猫背で室内を慎重に移動する。この隣の部屋に移らないと、隣の部屋に移って廊下に出て階下に移動しないと、今いる場所は今に爆撃されるぞ。クソッ!!
何せ、この部屋と隣の部屋は何かのタイミングで崩れて3階下まで谷間になってるんだ。まさか崖みたいなところから撃ってくるなんて思いもよらないだろう。
一瞬だ。
一瞬だけ、奴に俺の姿が見えるだろう。
この崖をジャンプする一瞬だけ。
よし、気合を入れろ…一瞬だけ、ダッシュしてジャンプして着地するまでの一瞬だけ、その間に奴がこちらを見ていないことを祈って…。
俺は部屋の中で距離をつけて、隣の部屋までジャンプした。
その時だった。
(パンッ!)
俺の目に見えていた隣の部屋の『着地地点』はもう見えなくなった。
「クッソォ!!」
殺られた。
あのわずかにジャンプしていた0.02秒ぐらいの間に狙いを定めて撃ってきやがったぞ糞野郎が!!
コーネリアもメイリンも俺が突然叫ぶのでびっくりしたようだ。
「殺られた…」
という俺の一言を受けて、何で俺が叫んだのか理解したようだ。
「敵のスナイパー、優秀」
「そうだよ…コンピュータだからね…」
どおりで日本軍の兵士が戦車の周りに少ないと思ったよ。あれは囮だったんだ。戦車はまさに囮そのもので、とりあえずそれだけだと怪しいからと兵士も居させたんだ。で、残りがどこへ行ったか?
スナイパーを片付ける為に周囲のビルへと入り込み始めたに違いない。
それは俺のスナイパーとしての能力が生かせなくなることを意味していた。ビル内のエンカウンター戦になるのだ。