153 今度こそ 2

時間だった。
モブは要人護衛の要(かなめ)、俺達がこのゲームで要人を連れてエリア外へと脱出出来れば勝利で終了となる。しかし途中で殺されれば例え生き残っていても負けで終了だ。今、そのモブが俺達の前に現れたのだ。
そう、歴史上に実在した人物…メイリンの妹のメイファンが。
「メイファン!」
この時のメイリンの表情をどう表現したらいいか難しい。何年も家族に会っていない、そして二度と家族に会えないと理解してる人間が、どういう偶然か家族に会った時の驚きと悲しみと喜びが入り交ざった表情。
そこで俺達は理解した。
本当に妹だったんだ、と。
でも、そこには感動の再開シーンは無かった。
メイファンはあくまでモブ。決められたセリフを話すだけだし、何か起きてもAIに組み込まれたルーティンに従って動くだけなのだ。
中国語で語りかけるメイリンに対して彼女は無反応だった。
それはメイリンも薄々気づいているのだ。だからもうそれ以上は話しかけないで、自らはアサルトライフルを装備し、ハンドガンをメイファンに渡した。
「十分に近づけないと脱出は出来ない」
それは十分に理解してるぞ。
(ドゥンッ)
空気がビリビリと揺れるような激しい衝撃波が起る。
これでも向かい側のビルにミサイルが打ち込まれた程度だ。直撃を食らったらどうなっていることか…。俺が同時操作してるスナイパー部隊が米兵・日本兵のビル区画侵入に反応して狙撃して食い止めてたので、おそらく苛立ったTAKESHIは爆撃要請をしたのだろう。適当過ぎるビルにミサイルを撃ってきた。
が、感度はかなり良いようだ。
瓦礫によってスナイパーの一人を移動させなければならなくなった。
「仮に十分に近づけたとしても突破されたらダメなんだよ。どれだけガウロンの中で食い止めるかなんだ」
マコトがメイリンに説明する。
「わかってる。こっちにこい」
「?」
メイリンを先頭にして俺達は薄暗い住宅地とも政府管轄地とも戦場とも思えるような混沌としたビル内を移動していく。もうそこら中に個人所有の様々な生活用品が転がってて、その上に弾薬やら銃痕やらがある。おそらく何度か襲撃を受けた後にもどこからか住民がやってきては新たに生活を始めたんだろう。
これぞまさにカオス。中国っぽいところだ。
「どこに行きますの?そっちは倉庫があるだけですのに」
「倉庫じゃない」
『倉庫』という札が掛けられた扉の横には物資の運搬用とは異なる小さな扉が設置してあり、コードやらがボロボロと飛び出た中に、aiPadのような形のパネルが無造作に置かれている。で、メイリンは何故かその中華の偽物aiPadのようなパネルを手に取ると文字を入力し始めたのだ。
コードの中にある小さなランプが点滅を始める。
するとカチリと音が響き、倉庫隣の小さな扉が開いた。
「まさかこんな隠しマップがあっただなんて…」
「司令室がここにある」
マジ…かよ!!
俺は南軍の司令室は見たことがあるが、あれに比べれば本当のしょぼくて、しかもそれも暫定的な司令室として用意された感があるので至る所に生活臭が漂っていた。っていうか誰か生活してたのを無理やりどかせて司令室にしたような雰囲気である。例えばいましたがテーブルの上で家族と夕食を採っているのを全部どかせて、子供のおもちゃとかも床に投げ捨てて機器類を置いていたり、その機器類にラーメンだのソーメンだのがボロボロと乗せられてたり、テレビなどがつけっぱなしだったり、洋服が脱ぎっぱなしだったり。
再び中華aiPadのようなパネルをポチポチと操作する。
それはどこかその辺に転がっていたやつだ。
ホログラムがテーブルの上に表示された。
モノクロでガウロンや周囲のビルの前衛などが表示されるが性能的には十分らしい。ミサイルの軌道までちゃんと計算されてビルに命中する演出などはケイスケの研究所や家にあるものと同じレベルだ。
「ガウロン、地下からしか攻められない」
メイリンは地下通路のホログラム表示に切り替える。
まだ誰もそちらへは侵入してきていない。
しかし…しかしである。
俺達は何度もシュミレーションしたけれど日本軍も米軍も地下からも空からもどんどん侵入してきてビルはアリの巣みたいな状態になっていったんだぞ?
あれは何だったんだ?
「おかしいよ?あたし達がゲームしてた時は上からも下からも攻めてられてパニック状態だったんだから!」と俺は反論する。
「ゲートを閉める」
「え?!」
メイリンは再び中華aiPadをポチポチ操作する。
「こ、こんな裏技があるんですの?!」
「既にこの隠しマップが出てきた時点で裏ワザモード突入っぽいね…」
ホログラム表示ではいくつもあるガウロン上層のゲートが同時に閉められる様子が表示されている。ってことは少しは時間が稼げるのか?でもTAKESHIの事だから爆撃でもしてくるんじゃないのか?
「もし屋上から爆撃された…?」
マコトがメイリンにそう聞くと、
「屋上、爆撃すると潰れて、ドロイドで掘り起こさないと無理」
「なるほど」
その手があったか…。
「ゲート無理にこじ開ける、爆発する仕組み」
マジかよ!!
「だから地下だけに兵力を集中させる」
「No」
「何故か?」
メイリンの案を否定するコーネリア。
「敵兵力モ分散サセルノデス。屋上ハ防御ガ手薄ダト思ワセテオキマショウ」
「しかし…それは決死の作戦になる…」
「ま、まぁ、ゲームの中だから決死でもいいんじゃないかな?で、誰が行く?あたしのスナイパーはほうぼうに散らばってるから2人ぐらいしか向かわせれないけど。行く人〜?」と俺は聞いてみると、
「わたくしが行きますわ」
ナツコが手をあげる。
「ぼ、ボクも行くよ!陽動は任せて!」
「決マリマシタネ」
作戦は決まった。
マコトとナツコは陽動で屋上近辺で敵と交戦。
俺とメイリン、コーネリアは地下から侵入してくる敵を倒す。
ただ、スナイパー部隊が周囲のビルに隠れてるからガウロンへ侵入するのも手は焼けるかもしれないな。実際、こうしている間にも俺の同時操作で既に5人は敵のチームの兵を消している。
「最後は戦車だけがやってくるかもね」
「地下ヲ瓦礫デ通リ辛クサセテ戦車ノ侵入ヲ阻ミマショウ。ツイデニ爆弾モシカケテオキマショウカ!!」
「OK」
さて。
作戦開始だ!!