152 NEED de NEET 6

約束の日が訪れた。
決戦の日だ。
俺とコーネリアとマコトは散々に例のマップでコテンパンにされてきたから奇妙な脱力感と武者震いが混雑している状態に陥っていた。むしろこれは武者震いじゃなくて本当に震えてるんじゃないかっていうぐらいに。
俺達にこのマップを勧めたナツコまでもが「TAKESHIが間違って中国軍側を選択したら勝てそうですのにね」とか言い出す始末だ。
柏田重工兵器研究所の廊下を俺とメイリンとコーネリア、マコト、そしてナツコが歩いている。そんななかでナツコがそう疲れた声で吐き捨てるように言うもんだからメイリンが反応してくる。
「敵AIが中国軍選んだら勝てる、どういうことだ!」
などと怒っている。
こいつだけが元気だ。
「い、いえ、言葉の綾ですわ…」
言葉の綾レベルじゃなくてストレートに中国軍が弱いって言ってあげようよ、もう。実際に戦場に降り立ったらどれだけ不利な状況なのか、嫌でもわかるんだからさぁ…。
あの日、電源が落ちた例のオフィスに到着した。
電源が落ちたからか暫くの間は研究所の施設がは使えず、会社的にはお休みにしていたみたいだ。どういう理由でお休みにしていたのかは気になるところ。
そんな中、1台だけ元気に動き続けているパソコンがある。
TAKESHIこと戦車AI野郎がハッキングしてずーっとゲームをやり続けているCall of Dirtyのインストールされたパソコンだ。まるで『俺のプレイを見て!』とでも言わんばかりに奴のプレイ動画が再生され続けている。
ナツコがマイクを持って奴ことTAKESHIに語りかける。
「約束の日ですわね」
スピーカーから声が発せられる。
「まぁぁぁちぃくたびれたぜぇ…あんまり待っているもんだからケツに根が生えて糞した時に逆流して口から糞を吐き出しそうになったぜぇ?」
「TAKESHI。今回のCall of Dirtyはこちらがマップを指定するという話には了承してくださったと聞いていますわ」
「そっちがァァ…マップを指定してくるっていうことはぁ…俺様はどっちのチームでプレイするか指定できるって事だよなぁ?」
クソッ。
やっぱそう来たか。
抜け目ない奴だ。
「え…えぇ…中国軍がとてもプレイしやすいですわよ?」
え、ちょっ、おまッ…。
「ふぅぅむ…九龍城砦(ガウロン・センジャーイ)か。中国の歴史の中で指導者がここで死を遂げているのはググったらわかる事だからよォ…ここは史実に基づいてェ…俺様はアメリカ軍と日本軍のチームを選択するぜぇ…史実に基づくってことはァ…俺様が…これから処理に導くチームは史実でも勝利してるって事だぜぇ?」
「チッ…」
いやいやいや!チッ…じゃないでしょうが!!
なにAIをハメようとしてるんだよナツコは!
「勝つことしか考えてないのかよーッ!!」と、俺はキーボードをキーワードクラッシャーの様に叩きながらTAKESHIに向かって物申す。
「お嬢さんンン…勝つことこそが正義ィ…勝つことこそが至高の喜びィ…勝つことこそが生きる価値ィィ…そんなことはァァ…幼稚園生の頃からァァ…叩きこまれているはずなんだがなぁ!?お前等のようなリア充よろしくお外で元気に遊び回ってる連中にはァ!!…ネットゲームの厳しさってもんが理解できてないようだなぁ?こちとら遊びでネトゲしてんじゃぁねぇんだよ!!」
確かに今の状況は遊びじゃぁないね。
こいつに勝利したら電源が復旧する、この今の『状況』は。
そんな会話を俺達がしている間にもメイリンは物珍しいのかパソコンのディスプレイをジッと見つめている。それは持って帰ってはダメなもんだぞ?
「それではさっそくやりましょう。準備はよろしくて?」
「いいよ」
「OK」
「うむ」
「いつでもいけるよ!」
それぞれに返事をすると俺達はHUDをハブへと接続して、それぞれが椅子に深く腰を下ろし、HUDを頭に被った。
電脳空間が俺の前へと広がってくる。
何度も何度も、この週は飽きるぐらい練習をした『九龍城砦(ガウロン・センジャーイ)』の建物の中だ。
さて、メイリン、コーネリア、マコト、それからナツコもいるな…って…みんなメイド服なのかよ!!
「同じモブデータ使ってるの?!」
「えぇ、そうですわ。お兄様モブパッチしたものをそのまま使っていますわ…だってわたくし、元に戻す方法知りませんもの」
とメイド服姿のナツコが言う。
「そういえばキミカちゃんの分身はどこなの?」
マコトが問うので、そろそろ他の『俺操作』のキャラを続々ログインさせるか…フヒヒ…。
「What?」
と何が起きるのかわからない雰囲気を出しているコーネリア。
見て驚くなよォ?
はい、キミカログイン。
またまたキミカログイン。
「What…the…」
またまたまたキミカログインしました!
「キミカちゃんがいっぱい!」
「ど、どどど、どうなっていますの?!」
ログインログインログイン!!
オラオラオラオラオラオラオラオラ!!
「おい、キミカがいっぱいだぞ!」
「「「「「フヒヒ」」」」」
キミカの複数同時操作、銘じて『キミカ・シスターズ』は同時にドヤ顔で「フヒヒ」と不敵な笑みを浮かべた。その数20名。
「同時ニ操作デキルノデスカァァァ?!」
「「「「「そうだよ」」」」」
よし。
では作戦に従って手伝いを残して他のキミカ・シスターズはそれぞれのポジションにつくとするか。
「散!!」
キミカ・シスターズは殆どがスナイパーライフル所持でこのガウロンの周囲のビルディングの中へと潜伏するのだ。ビルからビルへとジャンプして散っていくシスターズの面々。それぞれが俺と同じぐらいの高スキルスナイパーなのだから勝率は今までよりも上がっているはずだ。
しかし、それにしても…。
メイリン!さっきからなにゴソゴソしてるんだよ!」
何が気になるのかメイリンは部屋の中をウロウロし始めるのだ。
「ここはどこだ?」
「どこって、ここはガウロンだよ!さっきガウロンマップやるって言ってたじゃんか!!ほら、早く武器を準備して!」
「…」
部屋の中にある机やらタンスやらを開けて中身を見ているメイリン
「ここ、仮想空間だから何も持って帰れないよ?」
「ここ、いつのガウロンか?」
「いつ…のって?」
俺とコーネリアは顔を見合わせた。
それにはマコトが答えた。
「5年ぐらい前のじゃないかな?」
さっきまで机の引き出しの中をガサゴソしていたメイリンの手が止まる。
「私が居た、ガウロンだ」
引き出しの中から取り出していたのだろうか、ハンドガンを手に持っているメイリン。それはソ連製のシャル・クォーツっていう奴だ。中国軍の兵士の標準装備になっているハンドガンだった。