152 NEED de NEET 5

強い…。
何が強いかって、近代兵器が強い。
このマップの恐ろしいところがわかった。そしてどうしてガウロンが九龍城砦(ガウロン・センジャーイ)と呼ばれているのかがわかったのだ。
この建物は非常に硬い造りをしてて、しかも内部にバリア発生装置があるのだろうか建物の奥側へ進めば砲撃はまったく無効になっている。が、一歩建物から外に出たら、または、俺がさっきしたように窓の側でなんちゃってスナイパーを気取ってしまえば砲撃で死んでしまう。
つまり、このマップは立て篭もる中国軍側にとって建物の内部で戦って始めて互角の戦いが出来る、が、逃げ出そうとすると死を覚悟しなければならない。建物の中で消耗される中国軍側の戦力をどのように維持し、そして日本軍、米軍の戦力を消耗させるかにかかっているのだ。
「Hey!!!ナンデコノ兵士ドモハドンドン『バンザイ突撃』シテイクノデスカー!!」とコーネリアは味方でAI操作の中国軍の兵士に向かって叫ぶ。アサルトライフルを連射しながら叫ぶ。
「突撃っていうか逃げてるじゃん!!こういうところまで史実通りなのかよォ!!」俺も叫ぶ。アサルトライフルを連射しながら叫ぶ。
既に今日は土曜日。そしてもう50回戦ぐらいはこなしてたと思う。
俺達は地下通路で地下から侵入してくる日本軍と米軍のドロイドと交戦していた。その圧倒的な戦力差の前に上の階へと逃げ出す中国軍のAI兵どもは上の階にいる日本兵、米兵を引き付けながら死んでいくのだ。
もう包囲されるのは時間の問題だ。
「キミカちゃん!上からも侵入してくるよォ!!ぎゃ!」
マコトのメイド服に銃弾がズドンズドンと命中して穴が開いてとてもリアルに血しぶきがあがる。南無参!!
「モウ負ケデス!コウナッタラ、最後ノ手段デーッス!」
「え、ちょっと、何を、」
「ツイテキナサーイ!!」
コーネリアはメイファンの身体を肩に抱えた。通常なら重力の法則によりコーネリアほどの小柄な女性が同じぐらいの身長の女を抱えて走るなんてありえないが、ゲームの中ではさすがにそこまで規制は掛かっていない。いくらCall of Dirtyがリアリティ溢れるFPSだったとしても。
そして俺の前にはメイド服姿の金髪ツインテール姿の女の子が同じぐらいの身長の女の子を抱えて走りだす姿が移り始めたのだ。
「オラオラオラオラ!!」
ショットガンをぶっ放して出口を塞いでいたドロイドのバリアを弾き飛ばしたコーネリア、次にドロイドの武器の部分の同じように吹き飛ばす。
いつものコーネリアじゃんかよ!!
ショットガンの弾が切れると今度はサブマシンガンに切り替えて日本軍の兵士に向かて放つ。血しぶきがあがって兵士は倒れる。
「あぁッ!くっそー!」
俺も立ち上がる。アサルトライフルで背後から迫ってくる米軍の兵士どもを片づけ上がらもコーネリアをフォローしつつ、地下道を進む。
「敵ガイマセンネ!」
「うん!」
走る走る。
もう少しで出口だ。
これは初勝利なるか?!
と、その時だった。
出口のほうに巨大な蜘蛛の脚のようなものがズーンとアスファルトに突き刺さるのが見えたのだ…。ヤバイ。これはヤバイぞ。
「Oh!!Fuck!!」
言うが早くその巨大な蜘蛛…多脚戦車は身体を屈めて俺達の前に「やぁ」と言わんばかりにセンサーをちらつかせ、そして腕のガトリング砲を放ったのだ。
(バーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ)
機銃掃射。
俺とコーネリアとメイファンの肉塊が地面に散らばった。
「だめだー!!」
俺は電脳とゲーム仮想空間を接続しているジャックを取り外して、椅子から立ち上がって、そのままベッドへとダイブした。
「キミカちゃん、やっぱダメだった?」
「うん、ダメだったァ…」
項垂れる俺を前にコーネリアからの電脳通信。
『今日ハモウ寝マス…』
『おやすみ…』
『Good night…』
まったく勝機が見いだせないまま既に土曜日の日付変更が行われ、日曜日になっていた。テストプレイでも1回も勝ててないのに本番で、しかもめちゃくちゃ強い相手を前に勝てるのか?
「あぁ〜…もうダメかもわからなんね」
「諦めたらそこで試合終了だよ!」
「戦車に人間が勝てるわけないじゃんか…だいたい、この試合ってプレーヤーで勝てた人本当にいるのかな?」
「海外では他のプレーヤーが死んでいる最中に逃げ切ったって記録があるけれど…でも、これって単純に日本軍、米軍のプレーヤー達が遊びで中国軍の兵隊を殺しまくっている最中に要人を脱出させたってだけっぽいね」
「つまり要人を本気で殺そうとしていたケースでは勝てた実績はない…と」
「うん…」
「くっそォ…ドロイドバスターに変身出来たらあんな糞ドロイドが100体同時にかかって来たって勝てるのに!!」
「仮想空間ではさすがに変身できないしね…ボクの能力も仮想空間では使えないし。さすがに今回はお手上げかなぁ…」
「ん?!」
今、俺は何か閃いたぞ。
能力?
ドロイドバスターの能力ゥ?!
そうだよ。
なんで今まで俺は気づかなかったんだ?
俺は今までこのゲームで被弾するケースは爆撃されて辺り一面が炎と爆風に包まれるパターンか機銃掃射されるパターンでしかありえなかったんだよ。そう、殆どの銃撃も狙撃も、俺は回避し続けてきた。何故か…それはアカシック・レコードの能力の一つである『フォーキャスト』っていう未来予測があるからだ。
アカシック・レコードの能力だけなら仮想空間内でも使える。
つまり…。
「他のAIの兵もあたしが操作しよう…」
「え…キミカちゃんが同時に操作するの?!」
「あたしの能力の一つである『デリゲート』でアカシック・レコードに脳の処理を代理させて、他のプレーヤーの分も同時に操作できるのだ」
「そうか!その手があったね!」
「これで途中でビビってAIが逃げ出すってことは無くなるし、AI、1人1人の兵力もあたしと同じレベルにまで引き上げられる…けれども、それで始めてMPU(量子演算ユニット)を持ってるTAKESHIとほぼ同じレベルになるってことか」
「でも勝利への希望の光が見えてきたじゃないかァ!」
「う、うん…」
俺の両肩をガシッと掴んで勝利への希望の光りに興奮するマコトを前にして、俺はとりあえずは頷いてみたけれども、まだ不安はかき消されることはなかった。
相手は強い。
しかも条件も悪い。
今回の連中でいけたのは地下道出口まで…ここから道路を走ってエリアを抜け出さないといけないのだ。果たしてそれが俺達に可能なのだろうか。