152 NEED de NEET 1

「人間様の、」
(パーンッ)
『You dead』
「本気を、」
(パーンッ)
『You dead』
「てめぇに、」
(パーンッ)
『You dead』
「味あわせてやる!!」
(パーンッ)
『You dead』
「くっそォォォがぁぁぁぁ!!!!!!」
さっきから10回連続でヘッドショットをキメられて死にまくってる俺。もう周囲も痛々しい目で淋しげな俺の背中を見つめているじゃないか、やめろ!
「たっぷりと苦汁を舐めさせられてますわね…」
ナツコが冷めた声で言う。
仮想空間の中にその声が響くが、残念ながらそれを聞いている俺は死体となって横たわっている。その死体に向けて銃弾を撃ち込みまくるクソ(4X20D、改めTAKESHI)
「こんなの絶対おかしいよ!!」
死体の状態で叫ぶ俺。
「どこまで殺れられも立ち上がるその勇姿に、俺の銃弾をティロ・フィナーレしちゃったりしてェ〜…あたしってほんとバカって言うまで俺様はァ…銃弾を撃ちこむのを止めなァァぃぃ…。それが俺様のジャスティス」
などと言いながら軽くステップを踏んでいるTAKESHI。
許せない。
マジで俺は怒ったぞ…!!
俺はメールソフトを立ち上げて4X20D宛てに「リスポーンポイントで待機してんじゃねーよカスが!!」ってメッセージを50通ぐらい送りまくった。
「あんまり調子に乗ると電源をブチ切るぞこらァ!!」
モニター前で叫ぶ俺に、
「電源を切られて困っているのはこっちなんだけどね…」
と誰かが言った。
「キミカさん、もう負けを認めるしかありませんわ」そう言って振り返り、ナツコは研究者諸君に向かって「本社に報告しましょう」と言う。
俺は涙目になってモニターを指さしながら、
「だってコイツ卑怯なんだもん!リスポーンポイントで待機しててログインしたら殺しにくるじゃんかよ!!!」
「そうは言っても、それもゲームのルールの一つですし…」
「本当の戦場なら死んでる!!」
「ま、まぁ、それを言ったら始まりませんわ。あくまでゲームで決着をつけようと相手が言っているのは事実ですわ。この条件下で負けたんだから負けは負けですし、だからと言ってキミカさんは別に弱いわけではありませんことよ?」
ぐぬぬ…」
「あぁ〜…それじゃぁ、あと一回、挑戦してみます?」
「よし!」
と俺はモニター前に再び腰を据えて戦いを始めようとするも、何度も何度も何度も何度もやられまくったあの痛々しい記憶が脳裏を掠めてゲーム開始できない…。
「作戦を…練り直そう…」
「え?」
「とにかく今の状態は不平等だよ!ゲームのルールには従うけど、とにかくこちらが少しでも有利な状況で戦わないとダメだ」
「このまま放置していくんですの?」
「ちょっと一旦戻って色々考えてから再戦するよ。ネットでも情報収集して。本社に報告するのはそれでもダメな時にすればいいじゃん?」
ナツコはそれでもいいかと研究員達の顔色を伺う。
色々と思いが交錯するが、やっぱり怒られたり報告書書いたりするよりかは俺が勝手丸く収めるところに賭けたいという気持ちがあるのだろう、みんな黙って頷いてくれた。
「わかりましたわ。今週末の日曜日に、再戦ですわ。これで負けたら報告っていうことで…」
というわけで、俺は一旦、このゲームは持ち帰りということにした。4X20DことTAKESHIも再戦には意欲的でラストチャンスをやろう、などと調子こいている。しかし、正直な話、俺はコイツに楽勝できる自信がないのだ…今の時点では。そして、家に帰ってからMap Proの前でウーンウーンと唸りながら様々な攻略サイトを見た。これから孤独な戦いだと自分に言い聞かせながら。
FPSでの対戦は単純に上手い下手を決めるのはチームデスマッチルールがいいのだが、はっきり言うと相手はコンピュータだけあってめちゃくちゃ精度が高い。俺が今日、奴と一緒に殺り合ったのはその『チームデスマッチルール』だった。
2チームに分かれて戦い、俺は敵対するチームのうちの一人。
奴は俺を集中的狙ってもいたが、同時に俺のチームメイトも殺しまくっていた。なにせチームメイトがまったくもってクソの役にも絶たないFPS初心者みたいなAIばかりだったからな。盾にすらならなかったよ。
それを知ってて戦っているとしたら卑怯すぎるだろうっていう。お前ゲームを楽しむ気とかあるのかよっていう。
こんな時…つまり、圧倒的に相手が上手な時に勝てるルールっていうのはいわゆるデスマッチ要素以外が絡んでくるルールだ。例えば要人護衛などのルールだと銃撃戦で相手方の要人を殺してしまえばどんなに仲間が殺されようと点数にはならない。しかし…ハードルはデスマッチよりも高くなる。
運の要素も絡んでくるだろう。
とりあえず今日やったゲームで再び戦場へとログインしてみるか。
…。
ログイン完了。
アラブのどっかの都市の中で、周囲にはネトゲのプレーヤーが武器を持って「Let's Go!!」だの「Let's kick ass」だの言ってる。
そうやって血の気の多い連中は一気に敵陣へと雪崩れ込んでいくのだが、俺のような冷静沈着な人間は黙って物陰に身体を芋虫のように丸め、居座るのだ。
そうして、じっと期を待つ…。
それはまるでヘビが林の隅でジッと周囲の景色に溶け込んで、マヌケなカエルがやってきた時に一飲みで食ってしまうかのように…。
きた。
マヌケなカエルが。
調子にのってピョンピョンとジャンプしながらはしゃいでサブマシンガンを撃ちまくっているバカだ。名前を見たら案の定、コーネリアだよ!!
俺は奴がジャンプしたタイミングで頭を狙って、
(パンッ!)
血しぶきがあがってコーネリアの死体が地面に転がる。
コリもせずにまたサブマシンガン撃ちまくりながらピョンピョン飛び跳ねてる。そうやってさえいれば弾が当たらないとでも思ってるのかァァァーン?!
(パンッ!)
再び死体が転がる。
そろそろ来るぞォ…。
来た!!
「YOU MOTHER FUCKER!!!!!」
このメールが50通ぐらい来たぞおい!!
そんなにメール送ってる暇あったらゲームをやれっていう!!
「ヘェェェェーッイ!!!キミカ!!ドコデ芋ッテルンデスカァー?!ビビッテ出テ来レナイChicken野郎ジャナイデスカァァァァァーン?!」
「通りの車の中で芋ってるよ♪」
そして、奴が通りの車の中を覗きこんだ瞬間に、
(パンッ!)
「Fuuuuuuuucccccccckkkkkkkk!!!!」
ティヒヒヒヒ…。
これだからスナイパーはやめられないぜェ…あぁ、ふとした瞬間にまた思い出してしまった…今日の嫌な思い出を!!そうだったよ、俺は今その対策を練ろうと思ってたんだ。まったく、ちょっとした隙に集中力が途切れてしまうよ。
とりあえずはコーネリアにも相談してみるかぁ…。