151 柏田重工兵器研究所 4

「ど、どういう事ですの?!」
ナツコは研究員の1人に聞く。
「こいつはたしかゲームとか好きで、前はソリティアを1ヶ月ぐらいずっとプレイしてた事もあったんですよ。前世はゲーマーじゃないのかな…」
「AIに前世なんてありませんわ!っていうかソリティアを1ヶ月ってどんだけ飽きがこない性格なんですの?!」
「「「…」」」
一同、沈黙してCall of Dirtyのプレイ動画を見る。
コンピュータのような(コンピュータだけどね…)正確な動きで敵を仕留めている…殆どがヘッドショットだ。武器の扱いもかなり拘っていて至近距離ならナイフでちゃんと喉を狙って殺しにくる。
まるで本当に人間がプレイしているかのようだ。
「随分とやりこんでるな…」
研究員の1人が言う。
それから、
「前は強制的に全システムをシャットダウンして本社のほうのネットワークも全部オフラインにして対処したんだよな…はぁ…また大目玉だなこれは」
渋い顔で言う。
ため息がみなさんの間で漏れる中、ナツコが突然ぽつりと呟いた。
「ここで4X20Dとコミュニケーションとれるかもしれませんわね」
「え?」
「説得できれば…もしかしたら」
「出来たとしてもコイツが我々の言うことを聞くなんてありえないよ」
「やってみる価値はありますわ。それで解決するのなら、本社に大目玉を食らう苦労に比べればまだマシではありませんこと?」
しばらくの沈黙の後、リーダーっぽい男の研究員がパソコンの前に座っている研究員の肩をぽんと叩いて、
「よし、やってみようか」
そう言った。
しぶしぶマイクを持つ。
そしてプレイにどっぷり浸かっているAI野郎に語りかける研究員。
「4X20D、話があるんだが」
…。
…。
無反応?
「聞いてるか?4X20D」
…。
…。
2度目の呼びかけの後、突然スピーカーから大音量で、
「るせぇぇよ!!!クッソババァァ!!食事なら部屋の前に置いとけっていつもいってんだろうがァ!こぉぉらぁぁぁぁぁ!!!ちなみにゲーム中は小便はペットボトルに入れておくから回収よろしくゥゥゥ〜…」
「いや、お前は戦車なんだから食事じゃなくて燃料補給だろう…それに小便だってどっから出てくるんだ?」
「よく聞けメーン!!俺は4X20Dなんかじゃねぇんだよ、ボーイ」
ババアなのかメーンなのかボーイなのかはっきりしてくれ…。
「4X20Dがお前の製造番号だろ?」
「俺様のネームはなぁ〜、そんな16進数の文字列表記みたいな名前じゃねぇんだよ!『TAKESHI』と呼べ、チンコ野郎がァ!」
「た、たけし?!」
「そうだ『TAKESHI』だァ!ごぉぉるぅぅぅぁぁぁぁ!!かわいそうな『TAKESHI』無職でイジけて部屋に引き篭ってニート生活を送ってる『TAKESHI』…母ちゃんからはパソコンの大先生だって呼ばれてるゥゥ…」
「それは『ゆうすけ』じゃないの」
すかさず俺が突っ込むと、
「るせぇぇんだよ!!どっちでもいんだよォォォ…」
どっちでもえぇんかい!
「とにかく電源を復旧させろ!みんな困ってるんだよ!」
「いーつからお前は〜…俺様に命令できる立場になったァァ…?」
「いつからってお前の開発チームに配属されてからだよ!」
「俺様の開発チームだとォォ〜…?アナルでも開発するのかよメーン」
「いやだからな、」
「お前はさっきから俺様を戦車だとか言ってるけどなぁぁ〜…それが証明できるのかぁぁぁぁ〜ン?!『我、思う、故に、我、自慰に耽る』ってなぁ〜…ひょっとしたらお前さんも実は戦車なのかもしれないぜェ〜?…なにせ人間には名前を戦車にしてる奴もいるっていうからなぁ〜…」
吉田戦車のこと?」
すかさず俺が突っ込むと、
「吉田だか浜田だか増田だかそんな話はどぅ〜でもいいんだよ〜!」
どうでもえぇんかい!
「とぉにかくだ〜!聞けよ人間どもォォ…俺様をォ、従わせたければぁ!それなりに力を証明してこいィ〜…もっともォ!この俺様の失禁寸前プレイを見てェ…お前達人間どもにまともにやりあうだけの勇気の無謀さと儚さと切なさをもったマジキチ野郎が存在するとはァ〜…思えないがなぁ」
確かにまともに相手をしそうな奴はマジキチ以外はありえなさそう。
「力を証明?」「戦車のほうを壊せばいいんじゃないのか?」「いや、違うだろ、電源を復旧させろって事じゃないか」「何かくれって事だと思ったが」
などとヒソヒソと話をしている研究員達。
が、それらを一蹴するように怒鳴り散らす4X20D。
「おぉぉぉぉ〜ぃいいぃぃ!!!人の話聞いてたのかお前等ァ!!コミュ障かァ?!アスペルガー障害かァ?!今、俺様はCall of Dirtyの話をしてんだよォ…頼むぜメーン…。このゲームで俺様に勝てたらァ!一つだけェ…勝てた奴の願いを聞いてやろうゥゥ…。それが男と男の約束ってもんだァ〜…どうだ、今のはさすがのアスペ野郎どもでもわかっただろうゥ?」
驚きでみんな、一瞬固まった。
それからお互いに顔を見合わせる。
…。
仕方ないな…俺の出番じゃないか。
うん。
「誰も…このゲームをできる人は、居ないみたいだね」
と、ドヤ顔で俺は席に座っていた研究者君の肩をぽんと叩き、「交代」と語尾にハートマークでもつけそうな笑みで言った。
「き、キミカさん?このゲームできますの?」
「毎晩遊んでるからね!」
「でも、凄い命中率でしたわよ?!こんな正確な動きをしてるコンピュータを相手にキミカさんは勝てる自信が、」
そう言ったナツコの唇にそっと人差し指を立てて「静かにして」というジェスチャー。もちろん、満面の笑みで。
「あたしは実際の戦闘でも正確な射撃、正確な回避をしてるんだよ。こんなゲームなんてちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょよよよちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょよよよちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょよよよちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょよよよちょっちょっちょっちょっちょっちょっちょよよよいのチョイ!だよ!」
俺はドヤ顔で椅子に深く座り、そして自らの電脳とパソコンを接続。
すると眼下には『仮想空間の中の戦場』が広がった。
「さてと、まずは武器のチョイs」
(パーンッ)
『You dead』
おいいいいいいいいいいいい!!!!
『こ、殺されましたわね』
はぇぇぇぇよぉぉぉぉ!!!
「戦場に待ったは無しだぜぇ〜…メーン」
クッソがぁぁぁぁ!!!