151 柏田重工兵器研究所 3

突然鳴り響くチャイムの音。
学校で言うところのお昼ご飯の時間ということだろうか。
「ではそろそろお昼にしましょう」
というナツコ。しかし他のメンバーについては「自分は今取れたデータの整理に向かいます」などと言いながらどこかへと消えていった。
俺とナツコと俺の影武者だけがその場へ残された。
「あまりいい食事はありませんけれども」
と一言言うナツコ。
案内された食堂は俺達の学校のカフェテリアに通いなれた人が見たら不安に感じるほどに簡素な造りで、並べられた白いテーブルと黄色の椅子、そして奥にジュース用の自動販売機、その隣にカップラーメンの自動販売機があった。
ある人はカップラーメンを食べてある人は自宅から持ってきたであろう弁当やらを食べている。
俺は不安げにナツコに、
「お弁当とかは…?」
と聞くと、
カップラーメン…がありますわ」
俺の不安が的中する結果となった。
「う、嘘…でしょ?」
カップラーメン美味しいですわよ。パンもありますわ」
「そういう意味じゃないよ!!」
「しょうがありませんの、ここは外と物資やりとりは基本的に研究に使う機材のみで、ジュースやカップラーメンは月に一度業者が、」
「月に一度ゥ?!」
俺と俺の影武者は自販機の周囲を道端に落ちてるクソでも見るような目で睨んで回った。カップラーメンはともかくとして、月に一度の搬入ってことは最長でも一ヶ月前のパンがここに並んでいる事になる…にしてはテカテカと光輝くパン、まるで出来立てだ。この色合を担保する為に様々な化学調味料は得体のしれない合成物質が使われてると思うと、食通の俺は口の中にアレルギー反応が現れそうだ。
「私は朝ごはんをしっかり食べてきたのでお昼は要りませんわ」
などと言うナツコ。
俺だって知らされてたら朝ごはんしっかり食べてくるよ!!
「いいよいいよ、あたしはキミカの部屋の中に食料があるから」
「便利ですわね…キミカの部屋は」
ドラえもんの4次元ポケットよりも便利かもしれない。この部屋の中にスペースシャトルみたいなものがあるし」
と、俺は今しがたキミカの部屋の中にあるアサルトシップ…の中にある冷蔵庫…の中にある冷凍食品のチャーハンを取り出してから、それをキミカ部屋…の中にある、アサルトシップ…の中にある、電子レンジ…へと放り込んで、3分待ってからそれを取り出してテーブルの上に広げた。
「便利ですわね…本当に」
「ふっふっふ…」
「あ、キミカさん。アンドロイドは食事ができませんのよ?」
「え?あたし、本人だけど?」
「えぇ?!き、気づきませんでしたわ!今まで、わたくしはアンドロイドの影武者さんと話をしていたという事なのですの?!」
「ふっふっふ…だから影武者と言うのですよ」
と影武者から発言した。
「わからなくなりますわ!!」
「もう影武者を学校に行かせてあたしはスタバでドヤってようかな?」
「キミカさんならそれが本当に出来てしまいそうで恐ろしいですわ…」
などと話している時だ。
突然、食堂の電気が消えるのだ。
「ん?停電?」
「その…ようですわね」
それから停電の時に緊急時のバッテリーから供給される電源へと切り替わる。暗いけど食事が出来ない程ではない。ただ、このフロア一面が赤の色で照らされてまるでエッチなお店に来たような気分になる。
「停電は珍しくないの?」
「今までありませんでしたわ。この研究施設は国の方針で隠蔽されてて、外部とは通信も行えないのですのよ?もちろん、電力会社からも供給されてるわけではありませんから自家発電ですわ」
「へぇ〜…」
それから30分ぐらい経過。
ご飯も食べ終わった。
「それよりキミカさんのデータ、この停電の中では解析出来ないのではないかしら…ちょっとわたくし、見てきますわ」
「ん?あたしも行くよ。ここで待っててもしょうがないし」
食堂を出てからしばらく廊下を歩いて、カーゴやら倉庫やら工場っぽいところを歩いて、ようやくオフィスらしき場所に出る。と、何やらみなさんある一箇所の机に固まってて画面を見つめている。赤く染まっているフロアの中で大人たちが一箇所に集まってゴソゴソしているのは異様である。
「なにがおきてますの?」
ナツコがそう聞くと、
「誰かが4X20Dのネットワーク回線をオンラインにしたようで…またエナジーコントロールパネルを占領された」
「あら…今日のテストでは使わないはずでしたのに」
4Xなんちゃらが占領?
「なんなの、それ」
タチコマのようなものですわ…戦車AIで自我をもたせたようなものがありまして、それが暴走してコンピュータ・システムに侵入してしまったのですわ」
「なんでそんな無茶苦茶なものに自我を…」
「たしかウイルスに…」
と、ナツコが言いかけた時だ。
赤い非常用電源の証明が落とされた。
もちろん、目の前のパソコンの電源もオフに。
「うわッ!やられた!」
と研究員の1人が言う。
「補助電源のほうもやられましたわね」
「まいったなぁ…せっかくデータが取れたのに、消えてなきゃいいんだけどな」と苦虫を噛み潰したような顔をして悔しがっている研究員。
「まぁ、あとは私達の仕事ですのでキミカさんには帰ってもらってもいいです?」そうナツコが聞く。
「あ、はい。結構ですよ…ん?」
研究員はそう答えたが、オフィスの一番奥にあるパソコンに視線を釘付けにしている。壁添に設置され、モニターの上に汚い字で『共用ネット端末』と書かれた紙が汚らしく貼られているパソコンがある。
何故かそれだけが電源がついており、何か動いている。
「なんだぁ?」
ぞろぞろと研究員達がその周囲に集まる。
な、なんだろうか?
見覚えがある画面だな…。
ん?
これって…Call of Dirtyのパソコン用観戦画面じゃないか。
「誰だよゲームを会社のパソコンに入れてる奴は」
研究員の1人はいそいそとそのパソコンの前に設置されている椅子に座り、ゲームを終了させようとする。が、操作が出来なくなっているようだ。何をやっても無反応…にしても、これ、誰がプレイしてるんだ?
「あの、これ、プレーヤーの名前…」
ナツコが指差す。
HUDの部分には『4X20D』の名前が表示されてるぞ。
研究員達はお互いの顔を見合せている。
「まさか…」
机の下のダンボールの中に乱暴に突っ込んであったスピーカーを机に置き、コードをパソコンに接続する研究員…と、突然、Call of Dirtyのプレイ音(主に銃声など)が響き始める。
しかし、聞こえたのは銃声だけではなかった…。
「ぶぅぅぅるぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁ!!!こぉのォ、俺様のォ、華麗なるプレイを見てェ…あまりの興奮で失禁してついでにケツの穴からも汚らしい黄金ブツでも排泄しとけやぁ!!人間どもォォォ!!」
研究員もナツコも一斉にその声を聞いて同じキーワードを叫んだ。
「「「4X20D!!!」」」