151 柏田重工兵器研究所 2

「これはキミカさんなら気に入ると思いますわ!」
と目を輝かせて言うナツコ。
早速だが、次の武器が運ばれてきたのだ。
形状はなんていうのだろうか、輪投げで使う輪の大きな奴っていうのかな、直径が1メートル以上はありそうなその黒い輪っかは中心部に向かって線がいくつも入ってて光沢は漆黒で美しい。
ナツコは何やらリモコンのようなものを輪っかに向けている。そしてポチッとボタンを押すと輪っかは緑色の輝きを外周から放ち出すのだ。そして、それは浮かんだ。文字通り、フワフワと宙に浮かんだ…。
「グラビティコントロールで浮いてるみたい…」
「反重力コイルの素体と同じものを使用していますの」
「何これ?乗るの?」
「いえ、違いますわ。これ、ブーメランのように使いますのよ?」
ぶ、ブーメランだトゥ?!
にしては、巨大過ぎないか?
「いま、キミカさんの電脳と同期させますわね」
ん?電脳ゥ?!
暫くすると俺の視界には『Accept?』というメッセージが表示される。どうやら書かれている英語をチラッと読む限り、遠隔で操作可能な機器を電脳と紐付けてもいいか?って聞いてきてるみたいなのだ。
「キミカさん。これ、周囲の緑の光はレーザーブレードになっていますので、間違っても触れないでくださいまし。腕が斬れてしまいますので…」
まじかよ…。
とりあえずは電脳と紐つける事を受領する。
ん?
輪っかの前に軌跡が表示されてる…。
「これって、軌跡の方向を自分で制御して、そっちに向かってブーメランが飛んでいくように制御できるってこと?」
「さすが鋭いですわねキミカさん!まさにそのとおりですわ!」
と、ナツコが言った後、ドーム状の壁の一部が開いて中から蜘蛛タイプの多脚戦車が現れた。なるほどね、この武器使って奴を倒せってことか。
そのチャクラム状の輪っかを『内側』から持って走りだす俺。そして多脚戦車との射程距離に入った。
「てやァ!」
チャクラムは俺の手から放たれる。身長ほどもある巨大な輪っかは回転しながら多脚戦車タイプのドロイドの背後まで軌跡を描いて飛ぶ。と、そこで俺に向かって戻ってくる。もちろん、途中でドロイドの足を綺麗に斬りとって。
バランスを崩して倒れるドロイド。
空を飛んでいる俺は空中でチャクラムを足でキャッチ。
そのままブンブンブンと足を使って回転させて、再び発射。今度はチャクラム自体の自走機能は使わず俺のグラビティーコントロールで。空中を弧を描いて飛んでいく輪っかは、そのままドロイドの身体の真ん中を通りすぎて真っ二つに斬り裂いた。ドロイドはさっきと同じで防御用のバリアーはあるのだろうけれど、チャクラムの威力が高いのだろうか貫通した。
ここで自走機能を起動。
戻ってくるチャクラムを空中で手でキャッチ。
「もう使いこなすなんて、素晴らしい学習能力ですわね…」
「ふっふっふっ」
「これはどうされますの?」
「使うよ!これは気に入った!名前はなんていうの?チャクラム?」
「リッパーと呼んでいますわ」
『リッパー』ね。
「意味は?」
「『ジャック・ザ・リッパー』の『リッパー』ですわね」
「なるほど…」
そうこうしているうちにも次の武器が運ばれてくる。
「今度は攻撃する為のものではありませんわ。捕獲用ですわね」
ほほぅ…。
持ってきたのはハンドガン。ただ経口は普段使われている軍や警察のものなどとは異なりかなり大きい。航空機に搭載されている機関砲のソレぐらいはある。そしてこれは普通の人間でも扱えるレベルなのだろう、ナツコが手にとって実演してくれるみたいだ。
「え、ちょっ、大丈夫なの?」と俺が慌てて聞くのは、ナツコのハンドガンの向け先が作業服を着たオッサンだからだ。
「捕獲用ですので」
言うが早くトリガーを引くナツコ。
ポスンと軽い音が聞こえると黒い玉が発射され、そこからロープのようなものが作業服を着たオッサンに巻き付く。どっかの部族が使ってるボーラ?って呼ばれてる、縄の先に錘がついてるあれを連想させる。ただ、その錘は地面に向かって勝手に突き刺さり固定させる。
「なるほど…捕獲用ね。対人オンリーだね」
「これはそうですわね」
どこからかボールタイプのドロイドがゴロゴロと転がってきて、俺達の前で手足を展開する。ビルなどの狭い通路で使われる防衛用ドロイドだ。
ナツコはポケットの中からモンスターボールみたいなものを取り出して、「こっちのほうは…対ドロイド用ですわ」と言い、ボールのスイッチを押す。
キュィーンという音が鳴り響いた後、ドロイドに投げつける。
白い粘り気のあるチーズのような塊が展開される。
そのままドロイドの足にまとわりついた。
…が、すぐにそのチーズのような塊は凝固する。
「これで動けなくなりますの」
「ふむふむ」
「これはいかがです?」
「あたし的には捕獲とかはあまりないけれども任務の中でそういうのがある時は役に立つかも?頂いておくよ」
「ちなみに名前は日本語で長々しいので愛称で、対人捕獲用は『ボーラ』、対ドロイド捕獲用は『とりもち』ですわ」
まんまだな!
さて、次の武器は何かな?
何やら俺の身長よりも高い(長い)槍のようなものが運ばれて来るぞ…ふむふむ。これも普通の人間では扱えない重量はありそうだな。
「前にお兄様から依頼を受けておりました、対大型ドロイド用の兵器ですの。今はキミカさんはグラビティーブレードを愛用されてると思いますけれど、こっちは遠隔攻撃になりますわね」
「いいねいいね!何?ミサイル?!」
「ミサイルではありませんわ…この槍は表面が電磁ブレードのように超振動で鉄も切り裂けるものなのですけれども、中には過密弾薬が入っておりますの。ですから斬り裂いたり、投げて突き刺して爆発させる事が出来ますの。しかも電磁ブレードを作動させたまま投げることでドロイド内部まで貫通して内部から爆発、という使い方ができますのよ。まぁ、250キロぐらい重量がありますから、キミカさんがドロイドバスターに変身した後じゃなきゃ使えませんけれども…」
「すごいじゃん!!いいねいいね!」
グラビティーコントロールでその槍の一本をとって軽々しく手でぶん回したり足を潜らせたり肩の上で回したりする。で、腰の位置で固定して、「はぁ!」とポーズをとる。
「250キロの鉄の塊を軽々しく…凄まじいですわね」
「で、これ、テストしないの?」
一向にドロイドが出てこないので俺は待ちわびている。
「すいません、このドーム内ではちょっと威力が大きすぎて、実戦で使って見ることをおすすめしますわ。一応、電脳との連結はさせておきますわ」
再び俺の視界に『Accept?』の文字が。
それにしても、ドーム内で爆発させて危険って、ここ野球場ぐらいの広さあるのにどんだけ威力高いんだよこれ…。
「くれぐれも、近くに一般人がいるところで使わないようにしてくださいまし。巻き込まれて死んでしまいますわ」
「う、うん…」
「そして…最後のは武器ではありませんけれども、まだ実験段階のものですわ」
「ほうほう…」
「キミカさんは『チャフ』と呼ばれるものをご存知ですか?」
「あ、うん。戦闘機とかがミサイル追尾された時に、存在を誤魔化すために空中に飛散させるあれだよね」
「ですわ。今からご紹介するのは、人が使うタイプの『チャフ』ですの」
「おぉぉ!!!」
「なんていいましょうか…キミカさん用ですわね。持ち歩く事は普通できませんので…。キミカさんなら『キミカ部屋』っていう異次元空間に格納しておくことができると思いますわ」と言いながら側に運ばれてきた木箱の蓋を開ける。
そこには…。
「あたしが入ってる!!」
チャフってレベルじゃねぇ!!!
俺とそっくりに作られてる『影武者』みたいなのがいるぞ!!
「キミカさんが遠隔操作できる様に設定してあるアンドロイドですの」
「いいねいいねいいねいいね!!」
「戦闘時にこれを使えば姿を誤魔化せるかと…」
「セックスもできるの?!」
という俺の発言にスーツ組、作業服オッサン、ナツコドン引き。
「いえ…そういう方向にはコストかけていませんから…」
「残念…」
しかし俺が触ってみる感じだとおっぱいは柔らかいようだ。
「これも、セッティングしておきますわ」
俺の視界に再び『Accept?』の文字が。
ふむ。
いいね…なんとなく、パワーアップした感があるよ!
さっそく俺は遠隔操作で目の前の影武者アンドロイドを動かしてみる。視界も共有できるっぽい。これはいたずらに使えそうだぞォ…(ゲス顔
「き、キミカさん、器用ですわね…」
「ん?」
「自分自身の身体を動かしながらも、影武者も動かしてるなんて、普通の人間ではできませんわ…」
「あぁ、これね」
そう、さっきから手を動かすだけでなく、立たせて俺と一緒にポーズとったり踊ったり格闘させたりしてるのだ。
「あたしの能力である『アカシック・レコード・デリゲート』っていうのを使ってるんだよ。処理をアカシック・レコードに代理してもらえるっていう」
「なんですの?!その力は…!!キミカさんはグラビティーコントロールとディビジョンコントロールしか使えなかったのに」
「フヒヒ…人は成長するのだよォ…君ィ…」
と、俺はアンドロイドのほうに話させてみた。
「ど、どっちがキミカさんかわからなくなりますから止めてくださいまし」
「「ふっふっふっふっ」」
俺と影武者は肩を組んで笑った。