151 柏田重工兵器研究所 1

今日は柏田重工兵器研究センターへと招かれている。
ナツコは以前から件の会社でかなり重要なポストに所属してて、日本の兵器開発の一端を担っていたらしい。そのせいでなのか何度か他国に拉致された経験も持つ。それでも本人は兵器開発を仕事のようにやってるのは、ケイスケとナツコの父親が元々は軍でも重要な位置づけにいた人で、そして兵器メーカーとの繋がりは切っても切れないからなのだそう。
そんなナツコの誘いで俺が使う事になる武器を作ったので使って欲しい…と言われたのだが、部屋の中にチェーンソーが置いてあるような人なのではっきり言うと俺は信用はしてないのだ。まともな武器は作れるのかと…。
柏田重工の研究所は島根の山の中にある。
道が整備されてる工場とはうってかわって、研究所のほうは舗装がもう何年も整備されてないような、それこそ廃墟マニアや廃道バイカーなどが好んで来そうな酷い県道を進んだ先にあった。
元々は牧場で牛でも飼っていたんだろう、そんな感じの柵が並んでいる奥に研究所への入口があった。
「この牛小屋の中が研究所への入口なの?」
「そうですわ」
兵器研究所には設計図などもあることから他国へ知られては困るものがあるのだろう。工場と違って警備だけではなく入り口がどこなのかすらもわかりづらくしてる…あ、ちなみに、殆どの軍事兵器に関する工場は地上ではなく地下にある。一つは爆撃を避けるためだとか衛星軌道上から監視を避けるためなどなど理由はある。日本の場合はそれに加えて地震への耐久性という面で地上よりも地下のほうが安全らしい…ってのも付け加えられる。
草刈機を手に雑草を刈り取っているオッサンの側を通って牛小屋みたいな長細い建物の中へと入る。随分前に牧場の経営はストップされたのであろう、獣臭い匂いはほとんどしない。奥には不自然にも地下へと降りる階段があって、エレベーターシャフトらしき巨大な扉が待ち構えていた。
作業服姿の男が2名ほど扉の中から出てきて、俺達を中へと案内した。
シャフトは地下へと続いている。こっちは人が出入りする専用の入り口なのか、兵器やドロイドを運搬するにはやや小さめのシャフトではある。
静かな音を立てながらエレベーターが加工していく。そして、10分程度経過した後、いよいよ柏田重工地下秘密研究所へと到着したのだ。
スーツ姿のおっさんがニコニコしながら俺に話かけてくる。
「お穰ちゃんがあの有名なドロイドバスター・キミカなのかな?」
っておいいいいい…子供に話し掛けるような態度やめてくれよォ…。
「キミカさんは私と同い年ですわ…」
「あぁ、それは失礼。ついつい、あまりにもお若く見えたので」
とフォローになってないような反省の弁を述べるスーツのおっさん。
案内された場所は倉庫でもカーゴでもなく、ドーム状の形状をして芝生や岩、土、砂などなど、自然環境を再現したような空間だった。大きさで言うところ、野球ができるぐらいの広さはある。
地下にこんなものがあるとは…。でも、見たところドームの壁のほうには弾痕が残っている事からすると演習場にも見える。
「ここで私が開発した兵器をキミカさんに試運転していただこうと思っているんですの」などと目を輝かせながら言うナツコ。
「ナツコが作った兵器だからなぁ…まさかチェーンソーとかないよね」
「ぎぃくゥ!」
いまギクッって言ったぞ。声に出して言ったぞ。
「チェーンソーは『グラビティ・ブレード』と被るんだよね…」
「ま、まぁ、とりあえず使ってみて欲しいのですわ。気に入らなければ使わないっていう選択肢もありますし」
あぁ、案の定、チェーンソー形状のものが運ばれてきたぞ、しかも…大人二人が重たそうに持ってくるではないか。
「それ、変身してからじゃないと持てなさそう…」
「キミカさんならグラビティコントロールで持ち上げる事もできますわ!」
ますます使いづらそうだな…。
と、ここでドロイドバスターへと変身。
作業員やらスーツ姿のおっさんどもの歓声が聞こえる。
チェーンソー形状のもの…刃らしきものやチェーンらしきものはついてないが、形状的には、まんまチェーンソーのそれを持ってから、
「で、これでどうすればテストになるの?」
と俺は聞く。
「あっちにドロイドを出しますので、それを斬ってもらえればいいですわ」
…。
別に俺が斬らなくても誰か斬ればえぇやん…なんてツッコミや野暮なのか。俺は無言で「あっち」と指さされた方へと歩いて行く。木々の間からオイルの匂いが漂ってくる。ドロイドの部品の一部が沢山転がっている…。
「ぉぉぅ…」
人間の姿に近いドロイドだ。
全長2メートルぐらいか。首は無く、巨大な腕で斧のような武器を持って歩いている。一見するとキコリのようにも見える。が、俺を見つけるやいなやフルスイングで斧をぶん回しながら攻撃を仕掛けてきた。
華麗に身体をバク転させて攻撃をかわす俺。
クセでついついグラビティブレードで攻撃をしそうになった。危ない危ない…で、これがチェーンソーのエンジンスイッチだね。
「ぽちっとな」
何か高速でチェーンソーの刃だかチェーンだかがある部分が振動してる。振動?!あまりの振動に周囲の空気も合わせて震えてるぞ。
そうか…これは超高速で何かが振動することで分子間力がどうのこうので物体を切断するようになっているのか。俺は今までグラビティブレードばっかり使ってたから本来ならドロイドはこういった武器をメインに使っているんだと今、改めて思い出したよ。
再び斧が俺に振り下ろされる。
それにあわせてドロイドの腕めがけてチェーンソーを当てる。
(ヴォン)
という空を斬るような音。
一瞬、ドロイドにバリア形跡が現れた後、腕が吹き飛んだ。
なかなかの切れ味だ。
今度は自らの身体をスライディングさせるようにドロイドの足元に滑りこませると、その体勢から起き上がり、弧を描くようにチェーンソーをあてがう。
ドロイドは身体をSの字に切り刻まれて、地面へと沈んだ。
「実に素晴らしい!」
と白衣の格好をしたオッサンが言う。
同じく白衣の格好をしたナツコがやってくる。
「素晴らしい戦闘能力ですわ、あいかわらず」
と言ってる。
「まぁ、グラビティ・ブレードがあるから別にこれはいらないわ」
「…」