149 簀巻きラバー 1

昼休みのクラスにて、ナノカとユウカを中心に女子達がきゃーきゃー言っている光景を目の当たりにした。
どうせ男性ファッション誌の読者モデルにでも黄色い歓声を上げているんだと嫉妬の念を放ちながら聞いていたら「その布団の間から溢れる白い素肌」だとか「美しいクリーム色の柔らかな髪」だとかなんとなーく男性ではなくて女性の事について語っている手紙か何かをみんなで見ているようなのだ。
ナノカもそこにいることからひょっとしてレズモノの小説でも読んでるんじゃないかと思って俺は気になって気になって人だかりの間からチラチラと小さな身長の体をジャンプさせて覗いてみる。
ラブレター…か?
「あ、キミカっち」
ニヤニヤしながらナノカがそのラブレターらしきものをヒラヒラと風になびかせて俺の名を呼ぶ。
「どしたのそれ?」
「ふふっ。なんかユウカ妹がラブレター貰ったんだって」
「マジ…で…」
ラブレターだとゥ?!
たしかにユウカ妹は姉とは遺伝子が根本的に異なっているのだろうか、可憐で華奢な体と小さなおっぱいに太陽の光が滅多に当たらない中で育成されてすべすべとした美しい肌とクリーム色の髪を持った美少女ではあるけれども、それを確認できるのはあの『簀巻き』とも呼べるファッション布団を取り除いてからだ。
常日頃から布団に身体を包み込み、遠目に見たらそこから足が2本出ていて器用に箸を持ったり鉛筆を持ったり自転車を運転している様子が伺えるのだ。
一体どこに心を揺らすものがあるのだろうか、いやない(断定)
ユウカ曰く、昔から妹は恥ずかしがり屋で自分の視界から人が見えない状態なら自分も人から見えないであろうというFPSの素人スナイパーみたいな考えからか布団を身体にグルグル巻きにして人目を避けている。でも、実はそっちのほうが余計に人目を集中させるのは言うまでもない。本人も最近それを意識しているのだろうか布団の上に洋服を着るというとりあえず周囲に溶け込んでみました的な事をし始めてはいるが、そのせいで『ファッション布団』っていう言葉まで生み出されるほどアンダルシア学園の名物になっている。
それは、クラス委員長という目立つ立場にいるユウカにしてみれば目の上のたんこぶどころか目の上のクソ状態。噂が上る度に自分は関係ありません、妹はいませんという徹底ぶりをしているのだ。
「妹がソファに横たわって呆けてて、布団から手紙みたいなのが覗いてたからこっそり拝借してきたのよ。まさかラブレター貰ってるなんて」
とユウカはエヘラエヘラ笑う。
「人のラブレター取るなんて相変わらずビッチだな、ユウカは」
(シュッ)
俺は華麗にユウカのボディブローをの拳を回避した。
「ビッチじゃないッつゥの!」
「暴力ハンターイ!」
クラスの女子の1人がラブレターを取って言う。
「それで、返事はまだしてないの?」
「うん、まだしてないっぽい。うーんうーん唸ってたから」
「ま、極度の人見知りだもんね、ユウカ妹は」
と、そこで俺が間に入って話す。
「相手の男子はどんな子なの?」
「見に行ってみようか?!」
え。
俺はそういうつもりで言ったんじゃないんだけども…なんか余計な詮索が二人の恋の間に障害物として入り込む予感がビンビン丸。
「そっとしておいてあげようよ」
俺はそう言うも、
「いいじゃん!見るだけだから!」
などとクラスの女子は言うし、ユウカもまんざら興味がないわけでもないっぽいし…ったく、女子は色恋ごとが好きだなぁ…。
…。
それから昼休みの時間の一部を使って、普段、ユウカ妹がぼっちで佇んでいる場所に行くことになった。そういう1人で居る時は影から彼女を好いている男子が見ているらしいのだ。
あんな姿をしているからやっぱりクラスからはハブられてるらしい。というか話しかけられても相手をしないのだろう。確かに布団でぐるぐる巻状態の女の子を見て気軽に話し掛ける神経を持ち合わせた人間は、普通の人じゃないだろう。
一旦校舎を出てから中等部の中庭を通って中等部の体育館横へ。
街が見渡せる丘の上にあるアンダルシア学園なのでそこら中は眺めがいいわけだけれど、その中の一つにユウカ妹は佇んでいる。
まだ衣替えは無いので冬服の一部であるニーソックスが布団の間から可愛らしいあんよを覗かせていて、その片方の足を石の上にちょんと置いて、街を眺めている。いや、布団でぐるぐる巻になってるんだから眺めれるわけがないのだが、眺めているように見える。
「なんか…めっちゃ異様だね」
始めてユウカ妹を見た女子はそう言う。
異様って言葉が心臓に突き刺さったのか無言で俯くユウカ。
「異様なのがいいんじゃん!」
などと言うのはナノカだ。
「だって、あの状態で街を『眺めれてる』の?」
「きっと心の目で見てるんだよ…ククク」
「怖いよぉ…」
怖い。確かに怖い。
ん?
何かブツブツと言っているのが聞こえる。
これはユウカ妹の声か。
「しぃー!」
クラスメートの女子の1人が言う。
しんと静まり返る俺達。
風の音に混じって、
「その布団の間から溢れる白い素肌、美しいクリーム色の柔らかな髪、それはまるで太陽が暗闇を照らしていくよう。僕は太陽に憧れを抱いてしまっている。それは儚い恋ごころなのか、叶わぬ夢なのか。あぁ、僕の太陽よ、」
ってラブレターを読んでるのかよ!!
何言ってるんだと思ったよ。
そして急にもぞもぞし始める。おしっこでも始めるのか?
(プチッ)
何かを切り離すような音が聞こえた後、あの簀巻き…というか布団がその身体から離れ、中から脱皮したようにアンダルシア学園の中等部女子制服(ブラウスのみ)を着たユウカ妹が姿を現した。
太陽にずっと当たってない真っ白な肌。中等部制服のブラウスの首元につけるリボンはだらし無く外れかかってて、「胸が小さいから」とブラをつけてないらしく、ブラウスから胸ポチが少し見えてる。
一瞬見とれてしまうほどに美少女だ。
そして心なしか、その簀巻きから解き放たれる時、黒い靄というか文字?のようなものがパラパラと身体から風に乗って空へと流れt…。
え?
俺の目が腐ってるのか?
一瞬、様々な国の文字?のようなものがパラパラと風に乗って空へとばら撒かれたような気がする。が、他のみんなはそれには気付いてないのだろうか、「うわぁ、やば、ほんとにユウカの妹?可愛いね」などと言っている。
そんな様子を俺達以外も見ていた。
眼鏡を掛けた身長の低い小僧…あぁ、あれがユウカ妹にベタ惚れしてる男子生徒か、と一瞬でわかってしまった。たぶんあの男の子だろう。
顔を赤らめて今にも泣きそうなほどに興奮して、布団から解き放たれたユウカ妹の生制服姿を目に焼き付けようとしてる。
みんなもそれに気付いたようだ。
「へぇ〜…なるほどね〜」という反応。
イケメンがラブレター書いてるとでも思ったのかビッチどもめ。男はイケメンかイケメンではないかというデジタルでしか判断できてないようで、ビッチどもはラブレターの送り主が分かるやいなやさっさとその場を立ち去ってしまった。
しかし…さっきのは一体何だったんだろうか?
あの文字には見覚えがあるんだが…。