148 七つの家 7

7つの家の手前にはもともとラブホテルがあった。
そのラブホテルは今でこそ企業の産業廃棄物の一時的な廃棄場所になっているわけだが、表向きの造りは寂れた田舎の市境にあるようなモーテルのソレだった。キリカはそれを見て「雰囲気を味わいたい」などと言ってくるのだ。
「えっと、では、コンドームとかはもう持ってるよね」
「ここ、こここここここ、コンドォーム?!」
「クォンドォゥム」
「も、持ってない」
「で、では、アフターピルで」
などと卑猥な会話をしながらラブホテルの入り口(産業廃棄物置き場入り口)を通りすぎて中へと入る。
内部はロータリーのようなものが真ん中にあり、周囲には同じ形の家が囲むように並んでいる。7つの家と同じ様な造りであるが、家一つは7、8畳分ぐらいの広さしか無いようだ。
そのうちの一つの家に近づいてドアを確認する。
グラビティコントロールで奥にある鍵に探りを入れて回転させてみる…と、カチリという音と共に解錠されてドアは開いた。
「オーケー!」
と、俺が言ったところでキリカを俺の手をぎゅっと握る。
その瞬間、俺の女の子の身体が男へと変わっていく。
「うっひょぉぉぉ!!!久々の男だぜぇ!」
俺は喜んで思わず叫びそうになった。が、それをキリカが唇で塞いだ。
「バレるバレる」
と言いつつ、キリカは人差し指を唇の上で立てた。
そのまま押されるように部屋に入る俺。そしてキリカは壁に俺を押し付けるように背伸びをして俺の唇を求めた。俺もそれに応じて細いウエストを抱きしめながらちゅちゅちゅちゅとそれを吸う。
今度はキリカを壁を背にして立たせておっぱいのところに顔を埋める…すーっと息を吸い込んでブラの上から鼻でグイグイと胸を押す。俺が女の子の時よりも小さなそのおっぱいの柔らかさを味わう…。
それから再び背を伸ばして、キリカを見下ろすように立つと俺はキリカの眼帯を取ってもう片方の色違いの目を見た。その後、細い顎を手で持って思いっきり唇に吸い付く俺。キリカと俺の鼻息がお互いの頬にかかってくすぐったい。
もっとくすぐってあげようかな。背を屈めてキリカのうなじあたりに顔を持ってきて、首筋からうなじにかけてキスをする。一方で片方の手でおっぱいをブラの上からモミモミとする。トクントクンと鼓動が聞こえるようだ。
ん?
反応が一瞬消えた。
キリカはまるで何かをじっと見ているようだ。
起きて彼女を見ると、部屋の中をジロジロと見渡してるのだ。
「ん?どした?」
「なんでもない」
そう言ってニヤリと笑うと、今度はキリカが俺を壁を背にして立たせて、胸板辺りにちゅちゅとキスをしたり首筋にキスをしたりする。あぁ、これが女の子に責められれるM男セックスってやつか、もし俺に本当にアソコがあったらここで完全に勃起してキリカと俺の間の障害物になっていただろうに。
ん?
俺は何故か部屋の中をジロジロと見渡してしまった。
いや、何か部屋の中で動いたような気がした…んだが、俺の動体視力はドロイドバスターの時のそれにも、女の子の時のそれにも劣るので何が起きているのかはまだ理解できていないのだ。だが、何かがいる。
気配だけは感じるのだ。
キリカは俺から身体を離した。
けれども手はずっと繋いだまま。そのまま、俺はキリカに引っ張られるようにラブホテルの個室跡を出る。それこそ急いで出る。
中央のロータリー前まで走ってくると、キリカはようやくそこで、さっきまでエッチな事をしてて乱れた服を正しながらゆっくりと深呼吸をする。
「何か居なかったか?」
俺のその問いに、キリカの表情は少し険しくなる。
「うん、居た」
そう言いながら、眼帯をそっと片方の目にかぶせる。
そして、
「ひょっとしたら、私は何か勘違いをしていたのかもしれない…」
そう言うのだ。
「勘違い?」
俺がそう聞こうとした時、既に俺の声は甘ったるい女の子の声に変っていた。あぁ、クソ…元に戻されたァ…(白目
なんて思っていると林の向こう側から
「「「きゃーぁぁぁ!!」」」
という叫び声が複数聞こえるのだ。
俺とキリカは顔を見合わせた。
「…何かあったのかもしれない」
「行こう」
二人は走って7つの家の広場まで向かった。
そこでは真っ青な顔をして会長ことケンジが座り込んでいて、その周囲をあれだけケンジが嫌っていた女子どもが囲んでいる。
みんなして何かを見ているようだ。
「何見てるの?」
近づいて覗きこんでみると、そこには一人称視点で流れている映像。あぁ、そうか、これ、ケンジが7つの家の中をCoogleGlassで撮影していた時のものか。なんとなく映りは悪いけれどもまさにそれだ。
…にしても、なんだこれ?
本当に家の中の映像か?
ケンジの視点で撮られているカメラには普通に家族が食事をしている映像が映っているぞ。その視点は階段を上がって2階から外へと、すると、向かい側の家で布団を干している主婦の姿が。
見下ろせば中央の広場にランドセルを担いだ小学生の姿もある。
何だ?
これ、古い資料映像のようにも見えるぞ?
いや、でも、これは資料映像じゃない。それは俺が一番分かっているんだ。何故なら、この映像の中には広場でお弁当を広げて食べているクラスメート達の姿もあるからだ。合成…にしてはうまく出来過ぎてないか?
「これ、なんなの?」
ケンジに聞いてみるも顔は真っ青でガタガタ震えているし、それなのに汗びっしょりでポタポタと額から落ちる汗が水滴の痕跡を地面に残している。
1人のクラスメートの女子が言う。
「ま、マジで勘弁してよ、こんな映像、仕組んだんでしょ?これ?だってありえないじゃん、なんでここに人がいるの?!」
それにケンジは無言でCoogleGlassを渡す。
「見てみろよ。それで、家を」
「はぁ?!」
震える手で女子は受け取って、向かい側の家を見る。
すぐにCoogleGlassを外して口を手で抑えている。
「やばいやばい!これ、マジでヤバイ!!」
突き返すようにケンジにCoogleGlassを渡す。すると、ケンジは今、彼女が撮った映像を再生させる。aiPadのホログラムには今しがたCoogleGlassでクラスメートの女子が見たものが映像として再生される。
7つの家で一番奥の森の側にある家の2階から、見下ろしている女性の姿がそこに映っていた。
「「きゃあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
叫ぶ女子。
「「うぉぉおぉぉっ!!!」」
叫ぶ男子。
「キミカちゃん、ここはヤバイ、離れようよ!!」
マコトが俺の手を取って引っ張る。と、同時にファンクラブの団員どもも俺の背中を押して移動しようとしてる。
「わかった!わかったから押さないでよ!転んじゃうよ!」
凄まじい速さで女子どもは食べていたコンビニ弁当を片付け、我先にと道路のほうに向かって歩き出す。
もうすぐ道路だ。
え?
誰だ?!警察呼んだの?!
パトランプがチカチカと光って警察の車が2台ほど停まり、1台からはドロイドが展開されて戦闘態勢に入っているのだ。
それを見たクラスメート達は互いに疑いの目で、
「誰だよ警察呼んだの?!」
などと言っているのだ。
「君達ここで何してるの?ここ、人の土地だってわかってるよね?」
と言う警察官。1人は車の側で訝しげな目で7つの家がある林の方を見ながら何かを無線で話している。
「えと、誰か、警察呼んだんですか?」
恐る恐る俺が聞いてみると、
「いやね、この奥の家から緊急回線で呼び出しがあってね」
「え?この奥の家…って電話繋がってるの?」
「繋がってないはずなんだけど…今、確認中」
無線で話していたもう一人の警察官がやってくる。
そして相方の警察官に言う。
「やっぱりこの奥の家からですね。でも、ここって電話回線ふさがってるはずなんですけどねぇ…」
「もういい。戻ろう」
「え?」
「たまーにあるんだよ、この家から緊急回線で通報があるの」
「そうなんですか?!」
などと話をしてから警察官は再び俺達の方を見て、
「君達、学校は?ここで何してたの?」
それに答えたのはナノカだ。
「えっと、ハイキングに…来たら迷い込んじゃって。ここって人の土地だったんですねぇ、テヘペロォ…」
…っておいおい、お前、それが通用すると思ってんのかよ?!
「アンダルシア学園の子か。ここは危ないから来ちゃダメだよ?」
なんで学校がどこか今の会話でわかるんだよ?!
馬鹿か!馬鹿だからそう思ったのかおい?!仮にもお嬢様学校だぞ?!
パトカーは俺達を置いて走り去っていった。
今なら喜んでパトカーにも乗れる、と、本気でそう思った。こんな辺鄙な不気味なところに取り残されるよりかは補導されたほうがどれだけ心強いことか、なんて、みんな、思ってそうな顔でパトカーの背を見つめていた。