148 七つの家 6

クラスメートの面々を後ろにしてキリカは疲れた顔をしている。
「なんで連れてきたんだよォ!!」
と俺はキリカに言うと、
「尾行(つけら)れていた」
と悔しそうな顔で言う。
尾行してきたのはナノカを始めとしてオカルトに興味がありそうなクラスの女子と、マコト、それからキミカファンクラブの面々だ。マコトとファンクラブの面々が来た理由はわかりやすいな…。
「キミカちゃんはボクが守るから!」
そう言って俺の両腕をガシッと掴んで抱きしめてくるマコト。
「姫が心霊スポットに行くのを黙って見ているわけにはいきませんゆえ」
などと言ってるのはファンクラブの団員である。
それにしてもナノカを始めとしてクラスメートの女子連中は何を考えてるんだ?馬鹿らしいのかユウカやナツコは着ていないのは評価できる。
「だって、あの事故が起きた7つの家に行くんでしょ?!面白そうじゃん!!きっとまだ血とか肉片とかが転がってるよォ!!」
歓喜の顔で狂気じみたことを言うナノカ。
血とか肉片とかというキーワードを聞いてキャーキャーと黄色い悲鳴を上げているアホなうちのクラスメートどもをジト目で睨む俺。
「みんなマジで呪われても知らないよ」
などと言ってみるも、呪われて嫌な人は既に参加してないのだ。
ここに着てるのはマジキチなホラー好きだけだ。
さすがに同じホラー好きでもケンジは黄色い悲鳴をあげる女子どもはウザったいようで、「聖地を汚すな!!あげていいのは恐怖の悲鳴だけだ!黄色い悲鳴なら黄色い救急車の中であげるがいい!」とこれまたマジキチな事を言う。
というわけで、一部のクラスメート達+オカ研の会長さんのケンジはたどり着いたバスへと次か次へと乗り込んだのだ。
…。
そして数十分後、到着。
これまで、このバス停にこれだけの人数が一度に降りたことはないだろう。
運転手も何かここで地元の祭りでもあるのかという目でジロジロと高校生一団を見ていた。が、残念ながら祭りは無い。
あるとしたら、それは決していい意味での祭りではなく、高校生が山の中の廃墟で大騒ぎしてアップロードした画像が2chツイッターフェイスブックなどで叩かれる意味での『祭り』だろう。大炎上っていう奴。
最初に来た時とは違って空は晴れていて、日差しも強い。けれども吹き付ける強い、そして冷たい風が肌寒い。強い風が吹く度にキャーキャーと騒ぐクラスメート達。逃げこむように7つの家の中心の広場のようなところへと足を運ぶ。
「うっひょぉぉぉ!!ここが7つの家かぁ…圧迫感があるなァ!!」
そう言って中心でグルグル回転して周囲の家を眺めているナノカ。
他の女子どもはキャーキャー言いながらも、我先にと7つの家の前で何故か集合写真を撮ろうとしている。おいやめろ。
「はい!ちーず!!」
満面の笑みでブイサインをして集合写真に映る女子ども。交代交代で写真を撮っていく。その背後にそびえ立つ7つの家はそんな女子どもを冷めた顔で見下ろしているようにも見える。
時々、ザザァァァと風が山肌を舐めて、ギシギシと言った竹と竹がこすれる音が響く。なんとなくだけれど、まだここは安全のような気がする。
俺が最初、ケンジとキリカとでここに来た時は風の音が止んだからな。
「キミカ姫、我々も集合写真を撮るべきだと思います」
「はぁァァ?!」
言うが早くファンクラブの連中は俺を中心として集合写真を撮ろうと並び始めたのだ。そして俺の隣にはマコトが来て、「準備オーケー!」などと言っている。
「準備オーケーじゃない!!」
そう叫んでから中心から離れる。
「どうしたんですか姫」
「写真を撮るときに中心に居たら中心の人には厄災が降りかかるから中心は誰か他の人が代わってよ!」と怒鳴る。
「そ、そうですか、では私が中心になりましょう」
いかつい身体をしたファンクラブ団員の男はニンマリ笑って、俺とマコトに挟まれた状態で写真に映る。それを見た他の団員は、
「おいふざけるな!なんで両手に花状態で写真に入ってるんだ!」
などと言い始めるのだ。
「姫が中心が嫌だからと俺が代わってあげたんだ!」
「じゃあ次は俺が中心だ!」
えぇ、マジデェ…。
女子達の集合写真が3枚ぐらいで終わったのに対して、ファンクラブ団員の集合写真は全員分を撮った。中心が誰になるかで揉めた結果、全員撮るってことで話は収まったのだ。もう、最後の辺りは俺の顔は引き攣っていた。
そんな馬鹿騒ぎを俺達が始めるもんだから案の定、しだいに会長ことケンジの期限は悪くなっていく。
しかも女子連中はコンビニで買ってきた弁当やらを広げて中央広場で食べ始めるではないか。思いっきりピクニックの気分だ。強い風のなかで弁当を食べるもんだからプラスティック製の弁当の蓋が風で飛んでカラカラと音を立てて7つの家の庭のほうへと入っていく。
「あ、やば」
「もー!取ってきなよ〜!」
「え、それはマジで勘弁して、怖いし」
じゃあ来んなよ!!お前何しに来たんだよ!
ついにはイライラ頂点になったケンジは怒鳴り声をあげる。
「ここは観光地じゃないんだよォォ!!!」
突然の叫びに一斉に静まり返るクラスメート及び団員達。
「君達、バチが当たるぞ?!いいのかそれでも?!」
「ちょっ、何マジになってんのー」「引くわぁ」「いいじゃん別に〜」「何が怖いってオカ研会長が一番怖い件」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!!」
「「「…」」」
「君達ははそこで静かにしてろ!いいか?!僕が1人で『堪能』してくる。その間、家に入ってくるんじゃないぞ!!!」
ケンジはそう言うと1人でズカズカと左端の家から入って行った。
そんな中、キリカは俺の袖をツイと摘んで言う。
「キミカ、私と悠久の旅に出ない?」
「ん?」
旅?ここを抜けだそうということか?
まるでクラスでカラオケボックスに来てる時に抜け出てトイレでエッチな事をするような男女のカップルを想像してしまって一気に鼻血が出そうになる。
「うんうんうん!行くよ!」
「シィーッ…」
「(こくり)」
俺はキリカと手を繋いで7つの家を後にした。