148 七つの家 3

あの後、警察は来るは救急車は来るはレスキュー隊(消防車)は来るわの大騒ぎになって、その騒ぎに乗じて俺達はその場から逃げ出したのだ。
あの状態で助かるはずがない…そして心霊スポット巡りをした翌日の月曜日、新聞欄を見ているのはキリカだ。
教室で俺のaiPadを拝借してキリカはマジマジと各社大手新聞や地方新聞を閲覧する。が、納得できるようなニュースが見当たらないのだろう、腕を組んでウンウン唸ってから、
「ニュースがどこにも載っていない」
と俺を見て言う。
「それならキリカのグレン裸眼とかで見てみればいいじゃん」
俺はそれに返す。
グレンラガンじゃない!!(迫真」
キリカは俺の両肩を手でガシッと掴むと真面目な顔でそう言った。
「じゃぁなんなのさ、邪王輪廻眼だったっけ」
「蛇王心眼」
「蛇王心眼でも輪廻眼でも万華鏡写輪眼でもいいからさ、見ちゃえばいいじゃん。ニュースなんて見てないでさ」
「蛇王心眼で見ることができるのは興味があるものだけ…」
「興味がありそうじゃんか!さっきからニュース見てるし」
「私の本能がこの話は避けるようにとワーニングメッセージを送信し続けている…。でも、同時に興味を持っている私もいる…今日はアンヴィヴァレンヅなキリカになっているの」
「ふぅ〜ん」
興味無さそうな顔で俺はaiPadを受け取ってニュースサイトではなく、2chなどを見てみる。もちろんこういった話題に詳しいのはオカ板だけれども…。ふむ。どうやらオカ板的には既に随分前に山口県光市の心霊スポットとして『7つの家』は挙がっていて、話題も尽きているようだ。
昨日のニュースにすらならなかったあの出来事も載るはずもなく…。
「もう一つ、私の蛇王心眼が通用しないケースがある」
「ほうほう?」
「それは『情報封鎖』された時」
「へぇ〜…アカシック・レコードにも情報封鎖っていうのがあるのかー。まるで政府が都合が悪いニュースを流すなって新聞社を脅すような感じだね」
「そうじゃない…強い何らかの『念』が、あの一帯の情報がアカーシャ・クロニクルへ送信される事を妨害している…ということ」
そうキリカが言うのと同時に、Coogleの画像検索でヒットした『7つの家』の画像が俺の目の前にホログラムで表示される。
寒気。
そうだ。
キリカはあの場所で何を見たんだ?
…。
(知りたい?)
うわッ!!
「びっくりしたな!!止めてよもう!そうやって直接、脳にメッセージを送信してくるのは!!突然キリカの声が響いたら幽霊じゃないかって思って心臓止まりそうになるんだからさ!!」
「ふふふ…」
笑うキリカの眼帯を俺は手で引っ張ってゴムをどんどん伸ばす。
「やめてぇ…やめてよぉぉ」
いつ放すかわからない恐怖…。
(パンッ)
眼帯を話すとキリカの目に直撃。
「ぎゃぁ〜」
などと言っているが本題が進まないので、
「それで、何を見たのさ?…いや、やっぱいいわ、やめとく」
と俺は言ってみる。
「怖いの?」
「怖いのォ〜…」
肩を抱きかかえるようにして震えてみせる俺。
「私も家の中まで入ったわけじゃないけれど、本能があの中に入るなと叫んだから入らなかった。外からは確認できた」
「何を?!」
「家の中に何かがいること」
「ふぅ〜ん…」
「見たい?」
「いや、見たくない」
「家の中じゃないから多分キミカが見ても怖くないと思う。なんとなく、怖いなぁ、ってわかるような絵面(えづら)だから」
「何その映画のコマーシャルみたいな、ホラー映画のコマーシャルみたいな思わせぶりな感じ。やめてよね、そうやって『あー、怖くないんだぁ、見てみようかな?』って思わせといて思いっきり冷や汗掻くパターンは。この前もスマイリーマークが書かれてある映画を見て最初ホラーだなんて思ってなくて実は人の皮使って『スマイリーマーク』のマスク作った殺人鬼が殺しに来る映画だっただなんて。あれは後でスマイリーマークの隣に2ミリぐらい血が付いてたのを見つけたんだよ!!ちょっと前に解ってれば観なかったのに!!」
「キミカ、それは『どれぐらい怖いのか試してやるよ俺が、フヒヒ』という心理状態。本当はホラー映画なんだろうけれど絵面がそれほど怖くないので挑戦してみたという状態…人は恐怖を体験しようと意図的に好奇心が防衛本能を遮る事がある。昨日キリカが私の制止も聞かず家に入ったのはそういう理由」
「映画とは違うのだよ!映画とは!本気で生命が脅かされるのが現実。確かに昨日はちょっと無茶したけど、目の前で人が真っ二つになるのを目撃したからヤメ。ヤメダヤメー!!夜眠れなくなっちゃうよ」
「キミカが怖がっているところを見るのが面白い」
「うわぁ…露骨に嫌な趣味暴露するなぁ…」
「だって、時空を操る最強のドロイドバスターが…ぷっ…。くすくす。唯一怖いのが幽霊と歯医者だなんて」
肩を揺らしながらわざとらしくクスクス笑うキリカ。
「歯医者が怖いって誰が言ったァァァァァァ!!!」
そんなキリカの肩を掴んで上下左右に揺らす俺。
「ふふ…では、見せてあげる」
「ん?!」
いや、別に俺は見たいだなんて…。
うわぁぁぁぁぁぁっ!!!
一瞬だ。
一瞬だけ意識が飛ばされて『7つの家』の中心に行った。
昨日、キリカが立っていた位置だ。
周囲は曇り空で薄暗い。
そして、視線。
7つの家、それぞれに人がいる。家族が。30人かそこらの人が一斉に俺を見ているのだ。笑うわけでもなく怒るわけでもなく泣くわけでもない、無表情でじっと俺を見つめている。そういうシチュエーションは人生長くともそうはない。
一気に背中の中心ぐらいがぞっと寒くなる。
「見えた?」
「やめてよぉぉぉぉぉぉ!!!」
俺は泣きながらキリカの肩を掴んで上下左右に揺らした。
それをニヤニヤしながらキリカは笑って見ていた。
その時だ。
突然、俺達のクラスに興奮した顔でケンジが入ってきたのだ。
「今週末は撮影だ!!」
カメラを片手に鼻息を荒くして言うケンジ。
明らかに変質者のソレだった…。