147 オカ研へのいざない 6

「ん〜…やっぱり映らないなぁ」
ケンジはやめとけばいいのに何度も何度もシャッターを切る。
「やめときなよ、取り憑かれるよ」
と俺は言う。
「キリカ君に見えているんだ、僕も同じものが見たいし、キミカ君も見たいだろう?」などと聞いてくる。
「見たいわけないじゃん!」
「そうやって現実からいつまでも目を背けて生きていくつもりなのかい?」
ってなんでそんな話になるんだよ!
「世の中見なくてもいいものが沢山あるんだよ…(白目」
「別に見たくないのなら見なくてもいい。しかし、そういう輩は必ずといっていいほど大人になってから『幽霊なんていない』だとか『見たことがないものは信じない』だとか言い出し始めるのだ。それだけは止めて欲しいところだよ」
「はい、気をつけます…」
その時だ。
突然、キリカが俺達に向かって言う。
「見たいのなら見せてあげてもいい、私が見ているモノ」
「ひぃぃぃいぃぃぃぃ!!!」
やめてよォ…。
悲鳴をあげる俺。しかし一方では
「是非見たいよ!可能なのかい?!」
と興奮して顔を赤くし鼻息を荒くして、生き生きとした目で期待の眼差しでキリカを見つめるケンジの姿があった。
「特別に許可します」
そう言ってキリカは眼帯を外した。
やばい、やばいって…何をするつもりなんだァ?!
俺とケンジの背後に立ってそっと手を二人の肩の上に置く。
…って、おいおいおいおいおい!!!
おいおい!!
俺は見たくないよ!
なんで俺まで見ることになってんだよ!
いいってば俺は!!
と、俺が振り返って、そして抗議をしようとしたその時だ。
風が消えた。
先程まで砂埃を撒き散らすまでの強風が突然なくなった。
キリカのオッドアイの瞳は駐車場の『例の場所』をじっと見つめている。
パチッ…パキッ。
ピキッ。
何かが音を立てている。
匂いが…する…肉が焦げる匂いだ。
駐車場の真ん中で焚き火をしている馬鹿は誰だ?などと思ってしまった。
本来ならそこには存在しないであろう物体が、真っ黒の炭状の『何か』が駐車場の真ん中にある。動いている。時々ピクピクと痙攣させて、顔があると思われる部分で目玉がキョロキョロと周囲を見渡して、そして、俺達の存在に気づくとその焼け焦げた肉塊は目を俺達に向けたまま、固まったのだ。
それはプスンプスンと皮膚のあちらこちらから音を立てている。皮膚が裂けて中から茶色にも黄色にも見える汁が飛び出ている。
それでもまだ、生きている。
そして、ゆっくりと、ゆっくりと、その肉塊は動き始めた。
俺達に何かを訴えかけるようにゆっくりと。
そしてそれは駐車場の車の枠から出ようとする、その時、現実の世界に引き戻された。肉塊が出ようとして出れなかった、その箇所には下から『駐車禁止』の枠が現れ、まるで結界のようにそこに浮き上がった。
まるで時が停まっていたかのように、いましがた突然汗が吹き出てくる。
冷や汗だ。
キリカが触れていた箇所が熱い。
二人の肩から手を放すキリカ。
眼帯をつけながら、
「見えた?」
と俺達に言う。
「な、な、な、なんてもの見せてくれるんだよォォォォォォォ!」
俺は涙声でキリカに怒鳴り、そのままチョークスリーパーをキメる。
「いたいよいたいよ〜、苦しいよォ〜」
などとふざけて言ってみせるキリカ。
ケンジはカメラを構えたままずっと固まっていた。
その時、ケンジの背後から背の高いショートカットの女性が突然現れ、彼の背中をポンと叩いたのだ。「よ!少年!」と一言、言ってから。
まるで結界が溶けるかのように背中を触れられた時から意識を取り戻すケンジ。振り向たら驚いて、「先輩…どうしてここへ?」とその女性に言う。
「ここか数ある私の中の休憩スポットの1つなんだよ」
とさわやかなハスキーボイスで言う女性。
その女性は『相原沙子(あいはらいさご)』と言った。
ケンジの説明ではオカルト研究会を設立するよりもずっと前に彼のオカルト道の師匠として共に様々な危ないものを見てきた先輩だという。つまり、アンダルシア学園の卒業生ってことだ。
女性なのに180はあるかという長身で胸は若干小さいものの、スタイルは非常によくてショートヘアーでハスキーボイスなクールビューティーという雰囲気。でもその雰囲気にも『オカルト』にも合わず、性格は明るいようだ。
カジュアルな格好でこの場所を休憩所などと呼んで心霊スポットに毎日のように通っている彼女は、山口大学の学生だという話だった。
俺達はイサゴ先輩と一緒に山口大学まで車で送ってもらえる事になった。
車を運転するのはイサゴ、隣にはケンジ。
後部座席に俺とキリカが仲良く座る。
まるでデートでもするかのようにキリカは俺とぴったりと肩をくっつけてくるので俺も調子にのって車の揺れに任せて太ももに手を置いてみたり寄りかかったりしてみる。その度に顔を赤くするキリカ。
イサゴとケンジは今回の県内心霊スポット巡りについて話をしているようだ。
「なるほど、県内の心霊スポットめぐり山口市編か」
「山口の心霊スポットが一番多いし手頃な距離なので」
「しかし少年、どうして山口市に心霊スポットが多いのかについては言及しないのか?手頃な心霊スポットが多いということに疑問を抱かないのか?」
「それは、歴史ある山口市だからではないですか?」
「それはどうだろうな、どの都市伝説、心霊スポットを見ても、ちょんまげ姿の幽霊や皇族の幽霊は出てこないぞ」
「と、いうと…?」
「その心霊スポットは本物か?ということだよ、少年ンン!」
そう言ってイサゴはケンジの肩をペシペシと叩いて笑った。