4 新生活応援フェア(リメイク) 7

帰宅後。
俺は発狂した。
文字通り発狂した。
白ネコヤマトの車がケイスケの家の前に停まっていたからだ。これを見て発狂せずに何を見て発狂するのだろうかというぐらいである。…つまり俺がさきほど購入したMap Book AirとMap Proが家に届いたのだ。多分。
ここで実は「お隣の家の方が留守なので預かり物をお願いしたいのですが、」などとこの配送員が言わなくてよかったと俺は内心、安心していた。もしそういうオチが待っていたのなら俺は迷わず白ネコトラックに10円玉でガリガリと傷をつけてマ○コマークでも描いてやろうかと思っていたのだ。
「キミカちゃん、10円玉を出して何を構えているのですかぉ?」
不思議そうにケイスケが俺を見ていう。
「いやいやなんでもないよ?ちょっと絵でも描こうかなとか思ってただけ」
「お、何か荷物が届いたみたいですにぃ」
「ふふんッ♪」
上機嫌に俺は荷物の横を通り過g…
そして豪快にコケた。
「なん…だと…?」
「お、ハマゾンから先日ボクチンが購入した『はがない』のデータディスク購入特典『歯抜けポスター』が届いたみたいですにぃ、楽しみだったにゃん」
なんだよ歯抜けポスターって!!
そんなクソみたいなものはまとめて便器の中にでも入れて送ってくればいいんだよ!!クッソォォ!!!
…確かに、ハマゾンのマークがダンボールに描いてあるぞ。
「そんな…あたしの…Map Boo、」
「もう一つダンボールが出て来ましたにぃ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
俺は歓喜した。
抱えきれるぐらいの大きさのダンボールは明らかにMappleの星のマークが描いてある。ハマゾンのニヤケヅラのクソダンボールじゃない。こんな美しい梱包を行う会社はMapple以外に存在するだろうか?(疑問形)いや、存在しない。(否定形)
俺は泣きながら白ネコヤマトの宅配員が持ってきたダンボールを抱きしめて上にポロポロと涎及び涙を垂らす。
「えと、ここにサインをお願いします…」
俺にヒキながらも宅配員はサインを要求する。素早くケイスケがその紙を受け取って、「ボクチンのお金で買えたんだからボクチンがサインするにぃ!」などと吠えている。まぁいいさ、好きにすればいいさ。
「ったく、なんでこんなものが20万もするんですかぉ!!」
と、宅配員の兄ちゃんに文句言ってるケイスケ。いやいや、それはMappleに向かって言うべきだろう…。
それから、宅配員の兄ちゃんはそのまま帰らず再びトラックの荷台に戻っていくではないか。俺は緊張してきた。緊張して胸が裂けそうだった。この胸のDカップはあろうかという女の子のチチが張り裂けそうなのだ。そして、気がつくと俺は地面に正座して宅配員の兄ちゃんを待っていた。
「はしたないにぃ!!そんなことしなくても届くにゃん!」
などとケイスケが言っている。
しかし俺は既にエサを前に『待て』の命令を受けた犬ッコロのようなものになっている。目を輝かせて顔を高揚させ、舌を伸ばして涎を垂らして熱い息をはぁはぁはぁはぁとしながらMap Pro(ご褒美)を待ち望んでいた。
トラックの荷台の奥のほうから何か重たいものを引き摺る音がする。
ズーッズーッ…と、それは明らかに俺のMapProが入っているダンボールだろう。あれはタワーホログラムディスプレイのついたモデルだからなぁ。大抵の人は(俺を含めて)部屋に置くのを躊躇してしまうぐらいの大きさなのだ。
もう少し…もう少しで…ダンボールがお目見え…するゥ!!
みぇ…みえ…見えた!!
獲物に飛びかかろうとする犬の勢いで立ち上がって、
そのまま地面に盛大にコケた。
「ハマゾンだとゥゥゥゥ?!」
「ティヒヒ…ゼロ魔等身大フィギュアがついに届いたようですにぃ…」
「いらないよそんなのォォォォォォォ!!!!」
「いぃるぅのぉ!!」
「どうせオナニーするための道具なんでしょォォ?!そんなものの為に、」
「おーっと、ゼロ魔等身大フィギュアの悪口はそこまでにしておくにぃ」
「はぁぁぁぃぃい?」
「このフィギュアは人とほぼ同じ柔らかさ、体温、そして『シマり』を実現している等身大セックスフィギュアの中でも随一の、」
「だからオナニーの道具でしょうがァ!!!」
「これなしでいきり立つ『肉棒様』を収める事が出来るのですかォ?!(疑問形)いや、何人(なんびと)たりともそれはできない…。(否定形)キミカちゃんの柔らかくて温かい肉の壷ならひょっとして、できるやもしれない(期待)」
俺は背筋がゾゾーッと凍るような感覚を味わった。
「あのぉ…サインを…」
そんなクソみたいな俺達のやりとりを見ていた宅配員の兄ちゃんは恐る恐る俺達に向かって受け取りサインを要求してくる。
「サインでもなんでもするにぃ!!今のこの『喜び』状態ならケツの穴でもペロペロ舐めてもいいですにぃ!!!兄さんのケツの穴舐めましょうか?」
「…結構です…」
うわぁ…。
ドン引き。
そそくさとケイスケはサインを済ませる。
その間も俺は凄まじい形相で宅配員を睨んだ。
「…あと1つありますので…」
それを聞いて俺はニンマリと笑った。
さぁ!!
いでよ!!Map Pro!!
俺の元に…俺を導いてくれ…HEAVENへ(Mapple信者の境地へ)!!
「あ、これ」
ん?!
配送員は俺に1通の封筒を手渡したぞ、おいおいおいおいおい!!!
俺は震える手でその封筒を手にとって、裂いて、中を見た。
『Mapple Care』
「ちがーーーーーーッう!!」
俺は封筒を地面に叩きつけた。
確かにMapple Careには加入したが、そうじゃないだろう、それじゃないだろう、俺に届けるものはこれじゃないだろう?!もっとビッグでヘビーでインテリジェンスでビューティフルでクリエイティブでイノベーションな!!
(ズーッ…ズーッ…)
何かを引き摺る音が聞こえる。
そう、先ほど配送員は再びトラックの荷台の中へと入っていたのだった。今しがた俺は気付いたよ。まだあるってことだ!っていうかどんだけこのトラック、俺達の住む家に荷物持ってきたんだよって感じだ。もう俺とケイスケ専用の宅配じゃないか?!この地区で他に荷物を届けてもらってる人居ないんじゃないか?
ダンボールには…。
Mappleのマークが…。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
俺は発狂した。
(ピクピク)
そして嬉しさのあまり倒れて痙攣した。
「なにしてるんですかぉ…」
呆れるケイスケ。
「夢…じゃ…ない。夢じゃない」
俺はほっぺたをつねった。
ケイスケは俺のおっぱいを揉んだ。
そう、夢じゃない。確かにほっぺたは痛いし、おっぱいはなんだかムズムズする。素早くそのケイスケの手をペシンッと叩いた。
「えっと…サインをお願いします…」
「はい…」
俺は服を脱ぎかけていた。もう抱かれてもいい、などと思いながら。
「なにしてるんですかォォォォォォォ!」
と叫び、ケイスケは脱ぎかけの俺の服を正してイライラしながらサインした。
それからの事は俺は覚えていない、いや、思い出すタイミングがないのだ。Mapple製品と始める、新生活が現在進行形で楽しすぎて、過去のことを思い出す事に脳の処理時間を割くほど余裕が無いのだ…。