1 ドロイドバスター・キミカ誕生(リメイク) 2

再び目を開けると目の前にはガラスがあった。
水族館かと思ったが、それは逆だった。
逆水族館。つまり、俺が水の中にいる。
どうやらあの後、俺の意識は飛んでしまったらしい。
死んだかと思ったよ…。
しかし、水槽の外は随分と色々な装置が置いてあるなぁ…向かい側にはディスプレイが何台も並べてある机があって、デイ・トレーダーも真っ青って感じだ。そして医者っぽい白衣を着てる男がパソコンの前やら装置の前やらを行き来している。その男は身体がとても大きい。身長はゆうに180はあるかと思う。最初は相撲取りが医者のコスプレをして遊んでるんじゃないかって思ったぐらいだ。
ただ、ここが病院のようには見えない。
周囲の装置から察するに何かの実験施設のようだ。
それに、この水槽の中の水…ピンク色っぽいな。
世界の色が全部ピンクに染まっているぞ。
外にいる白衣を来た男が俺に近づいてきた。
近くで見たらやっぱりかなりの巨体だった。巨体っていうかデブ。デブだよ。超デブ。一体何を食ったらこんなにデブになれるんだ?っていうか普通にこの体重を維持するだけでも大量の食べ物を消費しなければならないだろう。あまりにデブ過ぎて顔も顎がどこにあるのかよくわからない。「諦めたら試合終了ですよ」とか言ったら顎をタプンタプンしてやりたくなる。
年齢は30ぐらいにも見える。が、まだ若いようにも見える。
テレビとかでアキバのアニオタをカメラに捉えたりするけども、ああいう感じだった。オタクはみんな同じ様な顔に見えるのかも知れないな。
コイツがさっき(俺にとっては一瞬でここにいるような感覚だから、もしかしたら数日経過してたのかもしれないけれど)俺に話しかけてきた男じゃないのか?っていう雰囲気がプンプンしている。
ニコニコ…いや、ニヤニヤしながら、ちょっとムカつく笑みを浮かべて男(デブ)がコンコンと水槽を叩く。
水槽の中の魚をおどろかすみたいな素振りだ。
俺は魚じゃねぇ…。
俺は多分ジト目で男を睨んでいたと思う。
すると男は余計にニヤニヤ、ハァハァしている。
何を突然興奮し始めるんだよ…。
『それじゃ、外にだすにゃん』
え?
頭の中に声が飛び込んできた…?
声…?
誰だ?
水槽の中で誰かが話し掛けてきたんじゃないかと最初は思って振り向いたりした。でもこの水槽にはそんなものはない。実際、どこから聞こえた声かって言われると、前からも後ろからも、上からも下からも聞こえたような気もする。そういう聞こえ方だった。
な、なんだこれーッ?!
直接頭の中に響いたのか?!
やめろ…。
俺の頭の中に直接ッ!
なんて慌ててたらプシュッ。と音がしてから水槽が下に動き出す。と同時に、ピンク色の水がどんどん外に流れ出している。そうか、培養液?って奴か。SFの小説とかに出てくるアレかな。もしかして、これ凄い技術じゃないか?
俺は培養液の中で全身火傷を直したって事になるぞ!
凄い!
ほら、手だってすべすべに…。
あら、俺ってこんな綺麗な手してたっけ?
と、突然俺の身体には重力が掛かってきた。
支えられると思った。
けどもいきなり力なくへなへなと倒れそうになったのを、白衣の巨体が支えた。その近くで見るとちょっとキモいオタク系の男に俺の身体は寄りかかっていった。
「デュフフ…まだ足の筋肉組織が機能していないのかにぃ?」
男はまたいやらしい笑い方・変な喋り方をしてる。
でもまぁ、倒れそうになったところを支えてもらったんだ。
それにこの男が俺を助けてくれた。感謝しないと。
俺はたぶん、虚ろな目をしながら男を見上げていたんだと思う。
「あ、ありがとう」
なんとか口を動かして俺はお礼を…え?
今、誰が言ったの?
確かに俺が言ったありがとう、が俺の声じゃない声で出されたんだけど。誰が?でも俺の口からでた声だよな…なんていうか、甘ったるい、鼻にかかるような、可愛らしい…アニメ声が…。
なんか声が変だ。
変だぞこれ!
おいおいおいおいおいおい!!
おかしいって!!
治すどころかおかしくなってるって!!
声が変だよおい!治し間違ってるよ!!
このキモオタ野郎の声が変なのは別にいい!!
デュフフとかいう笑い方が気に入らないとかはまぁとりあえず置いといて。とにかく俺の声が変だ。なんか女みたいに高い声なんだが…。
突然。
男は何を思ったのか、俺の唇を指でそっと撫でてきた!
「ふひひっ!可愛いなぁ…」
さぶいぼ全開。いや、満開。
どうなってんねん、ホモかよ!!
このホモ野郎が。キモオタだけじゃなくてホモでもあるのかよ!勘弁してくれよ…まさかこいつの望みは俺を犯そうっていうんじゃないだろうな!
クッソォ!!
火傷からこんなに綺麗な肌の状態にまで復旧させたんだからヤらせろやぁコラァ!って奴か?!BL展開かよ!勘弁してくれよォ…。
俺は男の手を振り解こうとしたが力が入らない。まるで生まれたばかりの鹿の子供みたいに、プルプルと足を動かして地面に立たなければ他の肉食獣に襲われてしまうって感じで、必死に立つのが精一杯だった。
「よしよし。今からベッドに連れて行くからね〜。ふひひひ」
おいやめろ!何をする気なんだよ!
「ちょっ…ちょっと、」
俺は精一杯に声を出した。
これが限界だ。
「ん?」
「なに、どういうこと?なにがおきて…」
「ベッドの所に鏡があるにゃーん。それを見てくださいにぃ…ふひひッ!」
抱きかかえられると首が安定してないのかグルグルと天井のほうを見てしまう。様々な配管があり、そこらかしこに機械もぶら下がっている。何かの研究施設な事は確かだし、人をこんなふうに復活させてしまうんだから高度な技術が結集されてるんだとも推測できる。だけど、この男以外には人がいない?
いや、一瞬だけど機械の間をPAD(タッチパネル式ネットワーク端末)を持ってウロウロしている白衣を来た女の子が居たような…気がする。
しかしそっちに視線を動かすことも叶わず、俺の身体は筋肉の復旧を待っていた。まだまだ動かない。そしてこのデブ男は俺をベッドの上に乗せたのだ。
ん?!
首が安定してる…凄い速度で今まで動かなかった身体が動くようになってるぞ。普通はリハビリとかを何ヶ月もしなきゃいけないはずなのに。
やっぱり、あれだけの凄い(SFチックな)技術なんだから俺の身体は回復してるのか。…ほら、手とか、足とか…ん?なんだこの毛の生えてないすべすべの肌。女みたいな足だな。
えっと…この胸にある女みたいなおっぱいはなんだ?
これおっぱい?
「うわっちょっ…!」
俺は暴れる。
「こらこら、暴れちゃダメですぉ」
まさか…?え?なにこれ?
俺は以前、股の間にあったぞうさんとタマタマをみようとした。
でもそこにはツルツルに何も無くなっていた。
チン毛すら生えていない。何もない。
ベッドの隣を見てみる。
そこには女がいた。
正確には中学生ぐらいの女の子がいた。
俺はこれから童貞を卒業させてくれるというイベントが待っているんじゃないかと目を疑ったし、もしかしてこの変態デブ男が中学生ぐらいの女の子を誘拐してきて、素っ裸にしてレイプまでして、ベッドに寝かせてるんじゃないか?って妄想までしてみた…が、俺が顔を曇らせるとその女の子も顔を曇らせたのだ。
俺が手を振るとその女の子も手を振る。
俺がニッコリ微笑むとその女の子もニッコリと微笑む。
実に可愛らしい…クリーム色のショートヘアーの女の子だ。俺とおんなじでさっきまで培養液に浸っていたらしく、そのクリーム色の髪がぺったりと頭にくっついててなんとなく泳いでいました感が出ててスケベな気分になってしまう。
って…。
「これ…鏡じゃん!!」
俺じゃん!!
え?
ちょっ、
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいいおいおいおいおいおい!!