1 ドロイドバスター・キミカ誕生(リメイク) 1

まず周囲の騒ぐ人の声が聞こえて、足音が聞こえた。
ここは…どこだろう?
両親と一緒に出掛けている最中だったのに。
真っ暗なのは俺が目を瞑ってるから、そして真っ暗なままなのは俺が目を開けないから。視界が真っ暗なままだから余計に混乱してくる。
何が起きたんだ?
あぁ。
ここは病院だ。
病院のような雰囲気がある。
「まだ息のある重症の患者から手当しよう!」
医者の声だ。
看護師も慌ただしく周囲を動いている気配がある。
でも奇妙だった。
病院なのに消毒液などの薬品臭がしないのだ。それから焼肉屋で肉を焼くような臭いがするのだ。でも焼肉屋じゃないことは確かなのだ。じゃあ、この臭いはどこからしてくるんだ?
それらの足音の1つが俺の前で停まる。
まるで俺をじっと見つめているような雰囲気が漂ってくる。
何か目の辺りに光のようなものがチカチカと、まぶたの上から当てられている気がする。目の前にいるであろう人の息が俺にかかる。
「先生、この患者さんは…」
看護師の声だ。
それには即答で医者と思わしき男が答えた。
「そりゃダメだ。もう手遅れだ」
手遅れ…?
どういう事だ?俺はまだ意識があるぞ!!
「皮膚の8割以上が焼けてる。もう助からないよ」
焼けてるって…この臭いは…俺の肉が焼け焦げている臭い…なのか。なんで?なんでこんな事になってる?
俺は死ぬのか?
死にたくない。
俺はまだ死にたくない。
でも、大火傷を負った人達がどんな末路を辿ったのか、嫌っていうほどテレビで見ている。その恐怖も同時に襲ってくる。
俺の側にいた看護師がため息をついた後、足音が離れていくのを聞いた。まるで俺が既に死んでいるように。俺は目を瞑っているけれどまだ意識はあるんだ!
待ってくれ!
俺はまだ生きている!
俺は身体を動かそうとした。
けれども手の指が少しだけ動くだけで他はもう動かなかった。
もう誰も俺の存在を無視していた。
ただの焼け焦げた肉の塊なんだろう。
医者もこんな俺を助けるのに労力を使わないで他の人を助ける事を選んだみたいだ。もう死ぬであろう人に医療器具やら労力を注ぐのは確かに無駄で非合理的だ。俺が医者だったらそうするかな…なんて考えたりもしたよ。
ただ通りすぎる足音だけが耳に入ってきた。
きっと体中の神経も焼けてしまったんだろう。
痛みもさっきから全然感じない。
このまま死ぬのを待とうかとも思ったよ。
無理に治療を施したとしても悲惨な未来しか待ってないような気がした。
けれども、心のどこかで、誰かが俺の前に足を停めて、俺を助けようとしてくれるんじゃないかって、そう願っていたんだ。
どっかの暇な医者みたいなのが来てさ。
…。
誰も来ない。
もうただの石ころのように扱われている。
死を待つだけの時間がこれほど長いとは思っていなかった。
思えば本当にくだらない人生だったな。
彼女も居ないし、友達だって多いわけじゃない。
まだ童貞だし。
レールを踏み外すような勇気もなくて、ただ他の奴らと同じ事を同じ様に毎日繰り返してた。将来もまた淡々とウンコ製造機みたいな事をして過ごしていくんじゃないかって思ってた。
仕事をしてたなら何か違ったのかな。
ただ、これだけは言えるのは、俺は今の人生が楽しいから生きようってワケじゃないんだな。これから先に何かいいことがあるかも知れないから、生きようって思ってたんだ。別にそれは悪い事じゃないだろ?
でももう、おしまいかな…。
そんな時、俺の前に停まる足音があった。
また看護師かと思ったよ。
俺の目にあの光のチカチカみたいなのを当ててる気がしたからだ。
「ふひひッ…諦められちゃいましたにぃ…」
だ、誰だ?
っていうか医者か看護師か知らんけど、めっちゃ失礼な物言いだな、おい。
俺の顔の筋肉が焼け焦げてなかったらガン飛ばしてたぞ、おい。
「もう助からないって判断したら冷たいもんですにぃ…。今のご時世は無理に治療して延命措置しても医療費をバカ食いするだけだから。フヒヒッ」
こいつ、誰?
医者か?
部外者っぽい奴だ。
なんでこんな部外者がウロウロ出来るんだ?セキュリティもクソもないだろう。さっさと逮捕して刑務所に送れよこの一般人野郎を!!
クソッ…。
見えない。
この汚らしい(っていうかキモい)声を出す奴がどんな顔なのか見てやりたい。目に焼き付けて未来永劫、祟ってやりたい。
俺の頭の中にはこの気持ち悪い声を出す奴がオタクだかギークだか底辺野郎だか何かだってそんなイメージ勝手に作り上げられて入り込んできた。
「ボクチンなら君を助けられるけど、どうしますかぉ?」
え?
…ボクチンってなんだよ、一人称ボクチンかよ殺すぞ。
いやそれ以前に『助けられる』って?
マジで…?
「ああ、嫌ならいいですにゃん。このまま死ぬのもありです…ティヒヒ」
助かるなら助けてもらいたい!
俺はまだ生きたいんだ!
生きたい!
このまま死ぬなんてまっぴらごめんだ!
「でも悪いけど僕は医者じゃないから、君をただ善意で助けようってんじゃないんですぉ?」
い、医者じゃない?
じゃあどうやって俺の傷を治すんだ?
「ふひッ…取引しようじゃありませんか?」
取引?
「君はこれから悪と戦うヒーローになりますにゃん。それが嫌ならこのまま死ねばいいですぉ。もし、それでも生きたいっていうのなら…身体のどこか一部分だけ動かすってのはどうですかぉ?火傷でもどっかは動かせると思いますにぃ。首の辺りは傷は無さそうだし…」
と、この男は俺の身体の周囲を動いてる気配がする。
見ているのか?
「10秒だけ待ってあげるにゃん。身体の損傷具合から、それほど時間が残っているわけでもなさそうですしにぃ…もう皮膚呼吸も止まっていますにぃ」
ヒーローって…ま、まぁ、いいか…。
怪しそうだけど。
そんな事どうでもいい!
「10、9」
なんだってやってやろうじゃないか!
「8、7…」
俺は生きたい!
「6、5…」
俺は生きたい!
俺は生きたい!
「4、3…」
俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!
俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!俺は生きたい!
俺は生きたいんだ!
動け!!
動け!!!
…。
…動いた?
俺は唯一動く指を動かした。
必死に動かした。
腱鞘炎を起こすんじゃないかっていうぐらいに動かした。
ほら!動かしてるだろ!見てくれ…。俺はまだ生きてるんだ!
「OK…。デュフフ…。君の意志は受け取ったにゃん」