146 怒涛のマスカレーダー 22

俺と弁護士の坂本は陸山会事務所の組長の部屋に居る。
そこで何をしているかというと、組長が俺達の前にパソコンの液晶ディスプレイ(UindowsPC)を持ってきてぼろっちいキーボードをカタカタと叩きカラーの防犯カメラ映像引き出していたので、二人してそれを見ているのだ。
映像は…がさ入れって奴か?この事務所に警察官が何人もやってきて様々な資料やらデータディスクやらパソコンやらを運び出している映像。それを突っ立って見ている組員の画像がずーっと続いている。
「これがどうしたの?」
俺がそれを聞くと、
「お穰ちゃん、ここにいる警察官に見覚えはあるか?」
組長はそう質問する。
つい最近、県警にやってきた俺でも何人か刑事達の顔を見てきたけれど、見覚えのある顔はこの防犯カメラの映像の中には1つもない。
「いや…全然ないよ。これ昔のでしょ?知ってる人、一人もいないよ」
「オカシイと思わへんのか?古株って言われてる刑事が一人居てもええやろ?…ま、これ10年ぐらい前やけどな。一人もおらへんってのは…どう思う?」
どう思うって…。
そりゃ変だよな。
変だよ。
10年かそこいらで全部入れ替わるなんて。
…全部…入れ替わる?
全部…?!
「警察官に…なりすましてる…?!」
組長はうんうんと頷く。
それから「衝撃の事実はこれからや」とドヤ顔で次の動画を俺に見せる。
同じ事務所でまたがさ入れだ。
「これ、11年前ぐらいのがさ入れや」
って、何回がさ入れされてるんだよ!!がさ入れされすぎだろ!!
「毎年あるでぇ?毎年がさ入れされてたからなぁ」
え?
11年前も同じ顔ぶれ。
「え、ちょっ…これ…」
「気づいたか?もう気づいたやろ?10年前ぐらいのあるタイミングでごっそり入れ替わっててん。県警の警察官、全部、入れ替わっててん」
「ま…ジ…でェ?!」
俺の背後で映像を見ていた坂本弁護士も驚いている。
「大変なことになるぞ…」
そう言った。
ヤクザの組長は笑いながら、
「大変なことにもうなっててん。終わりやねん。最近、ウラのその筋の連中から流れてきた写真や…。これ見て腰抜かすなよ?」
見せられた写真は全部、誰かの死体だ。それらは銃で頭を撃ち抜かれている。ネットでグロ画像見ながら屁をこいてたけのこの里でも口に放り込めるレベルの俺からすれば別に腰を抜かすほどのグロじゃない。
が、気になることはある。
この画像…どっかで見たことがあるぞ。
っていうかさっきみたぞ。ほんの30秒ぐらいまえにがさ入れの映像の中で見たぞ、この顔…!!!がさ入れしてた刑事じゃんか!!
「刑事殺されてるじゃん!」
「ウチやないで。他の組のもんが写真とっててん。これ、グロ画像言うてオグリッシュやらで流してウケ狙うんやろ?向こうの組のもんが面白半分に処理前の死体の画像写真に納めててな、それが流れてきたいう…」
「『処理前』って?」
「ヤクザは死体の処理もしてんねん。知らんか?コンクリートに入れて産業廃棄物と一緒に埋めたりな。ウチらは風俗やからそういう事はやってへんよ…でもまぁ、これ見たときは、どぉっかで見た顔やなぁ?って思ってたら、ほんま、びっくりや。腰抜かしたで。ついぞウチらの事務所がさ入れしてた県警の奴等、いつのまにか死体になっててん。で、事件にもなってへんやろ?」
俺は口の中がカラカラに乾く感覚を味わった。
なりすましだ。
乗っ取られてる。
警察が、全部、入れ替わってる。
「でも、誰に入れ替わったの?やっぱ朝鮮人?」
「これを機会に一気に朝鮮系ヤクザが対等してきたから、やっぱそうやろな…うちの組もそれでこんなショボイ事になっててなぁ…前までは警察とも、まぁ、トントンのお付き合いさせてもろうてたんやけど…」
寂しそうな顔をしているヤクザの組長。
しかし、その顔はぱぁっと明るくなり、
「期待しとるで!」
と俺の肩をポンポンと叩くのだ。
「へ?」
「県警潰してくれるんやろ?」
「あぁ。うん。いまもう一人警視庁から来てる人が県警にに居て、中から色々工作してる。この画像と動画、貰ってもいい?」
「ええよ。ただなぁ…」
「金が欲しい?」
「いや、そうやない。この画像をネットにバラしてうまいことすんやろ?」
「うん」
「それやられるとなぁ…ウチがまた攻撃されんねん。あらぬ疑いかけられてなぁ…それ、やめてもらうように出来へんか?」
「大丈夫。さっき言ってた警視庁から来てるもう一人が県警の刑事をガッチリと動けないようにしてるから!陸山会には手を出すなって指令を出しとくよ。あぁ、念の為に…もし警察がここに来てあんた達に手を出そうもんなら殺してもいいから。後で揉み消しとくから」
「ほ、ほんまか?!ウチら、相手がポリ公だろうと、殺るときゃほんまに殺るで?後でしょっぴくとか無しにしてな?」
「大丈夫大丈夫。もし手が足りないならあたしを呼んでくれてもいいし。っていうか、今はあんた達がポリ公に消されるほうがやばい」
「…わかっとるやないか!(ポンポンと俺の肩を叩き)あんた、オナゴの癖に男みたいに合理的主義やなぁ…素晴らしいわ!!あんたみたいなのが県警に居てくれたらこんなことにもならんかったんやけどな!」
ごめん、俺…男だから…。
この最中にも全部電脳通信でチナツさんに流していた。
『チナツさん、後でデータ送っとくから』
『頼む』
『尾行されて…ないよね?』
『尾行はされていないが監視カメラには貴様等の映像が残っている。私が全部綺麗に消しておいたので安心しろ』
『さすが!』
『それと、1つ頼みがあるのだが』
『はいはい、なんですかァ?』
『門田家の中の調査をしたい。入り口で門番をしてた県警の刑事どもは深夜は署に戻すようにしたから、その間に内部をエルナと一緒に調査して欲しい』
『了解。坂本さんはどうすんの?』
『ゆうすけと話をさせる』
『なるほど』
『ゆうすけもそろそろ限界だ。刑事どもは取り調べが出来ないからと、取り調べ以外で奴と話をして、やれクズだの死ねだの言っている…私の目を盗んではそういう事をしているようだ』
チッ…あと少しで落とせるのに。ゆーすけを自殺に導くような事をしてんな…あいつは精神的に弱そうだから今の状況はヤバイぞ。死んだら俺達がやろうとしてることが8割ぐらい水の泡だ。