146 怒涛のマスカレーダー 19

チナツさんは言った。
俺が今まで愛用していたビジネスホテルはキャンセルし、チナツさんが用意したホテルに3人同じ部屋で寝泊まりして欲しいとのことだ。
俺は特に問題は無いがエルナが渋い顔をしている。
「どうしたの、その顔、おばあさんの真似?」
おれが聞くと、
「違いますゥゥ!!キミカさんはなんとも思わないんですかァ?!男の人と同じ部屋で寝泊まりするとかァ…」
あぁ、そういうことか。
そりゃ言ってることはわからないでもないんだけど、俺はボディガードを頼まれてるんだから二人が別々の部屋に居るのはつらい。ホテルで寝泊まりする間は何も問題ないって前提ならいいんだけど、普通、攻撃を仕掛けるのなら夜襲だからなぁ。でも、さすがにホテルを突き止めて警察が部屋にやってくることは…ないか。連中がやってきたとしても一般市民を前にしてやることと言えば任意同行だとかそんな事しか俺の頭では思い浮かばない。
ボディガードしにくいから、とエルナを説得させた。
「もし何かあったらお願いしますよォ!」
エルナはそう言って口を尖らせた。
隣で聞いていた坂本弁護士は苦笑いをしながら、
「心外だな…一応、良識ある社会人なんだけどね」
と言う。
3人は交代交代でシャワーを浴びて、コンビニで買っていた夕ごはんをひと通り食べ終わり、同じくコンビニで買っていたお酒をチビチビと飲んで眠気が襲ってくるのを待っていた。
話はした。
今のような事件に巻き込まれてどう思っているのか、だとか、チナツさんとはどういう関係なのかとか…。別に特筆すべき点はない。ただ、エルナがチナツさんとは付き合いがあるっていうのは驚いたな。
エルナ曰く、昔会ったことがあるような気がする、らしいけれど。
その中で特に面白い話は、どうして今の仕事をし始めたのか?
まぁ、俺が警察で働いている理由を話した後、坂本弁護士の話。
「僕がなぜ弁護士になったのか…かぁ…。両親の影響かな。両親も仕事は弁護士でね、ある宗教団体についての裁判を起こした人の弁護をしていたんだ。それが最後の仕事だった。両親は、裁判が始まってからすぐに消息を絶った」
そう言ってウイスキーを一気に飲み干す坂本。
それから、吐き捨てるように言う。
「しばらくしてから遺体で見つかった」
「殺されたの?」
俺が聞くと、
「あぁ。情況証拠からはその宗教団体の人間が関与していることは確かだった。その宗教団体がつけているバッチが落ちていたんだ。でも、警察は捜査をしなかった。借金を抱えていただとか、他の弁護士とのトラブルがあったとか、ありもしない噂をマスコミに流して、僕の両親が所属していた事務所の評判も堕ちたよ。嘘か本当かわからない、警察の適当な情報でね」
そう言って坂本はグラスに再びウイスキーを注ぐ。
コンビニで打っていた300円ぐらいのウイスキーだ。
「僕が弁護士になった理由か…今考えれば、警察に復讐したかったのかもしれないな。連中は政治的にも権力を持っていた宗教団体から圧力を受けて、親父、お袋の殺人事件を有耶無耶にしたんだよ。ただ、有耶無耶にするだけじゃない、二度と関わらせないように、事務所も潰すぐらいのデマを流して。もうあの時の刑事は既にこの世にはいないけれど、警察は今も…ほら、君達もご存知のとおり、権力の上に胡座をかいてるだろ?本当の正義は警察にはない。本当の正義っていうのは、名前も顔もわからない『誰か』の叫びの中にあるんだ」
ひと通り話した後、坂本は俺に、
「こんな話を警察官の君の前でするべきじゃなかったかな」
と言う。
「いえ、あたしは…今回の事件だけ駆りだされたようなものだし」
と返した。
「そういえばそうだな。栗原さんにしても、楽しいから警察を潰そうだとか本気で言ってたからな。あの人は凄いよ、人知を超えてる」
そう言って坂本は笑った。
それから、今度はエルナに話を振る。
「どうしてマスコミで働く事にしたか、ですかァ…」
「あたしの写真を撮りたかったからとか?」
「マスコミ関係に仕事をするようになった頃はまだキミカさんのキの字もありませんでしたよォ?…そうですねぇ、私の場合、自分が疑問に思うことがあったら突き詰めなきゃいけない性格…なのかなぁ?」
「事件を追いかけてたとか?」
「ふふふ…実は霊能関係の事を調べてたりしたんですゥ。オカルトですね!面白いですよ!オカルト!キミカさんが住んでる山口県だったら…『7つの家』とかが有名かな?山口大学の近くは学生がいるから心霊スポットが集中しやすいんですけどね、7つの家だけは特別なんですよ…あそこには何かあります…」
そんな感じで怖い顔をして言うエルナ。
俺は俺でさっきまでの酔いが吹き飛んで青い顔で話を聞いていた。
エルナはそれが面白いのか、
「あ!そういえば!ふふふ…あの門田の家…あそこも何かありそうです…ほら、家の前とかに肉片とか骨が落ちてるんですよォ!!!」
怖い顔でそう言うが、それは俺が既に把握済みだ。
「あれは朝鮮人が門田家を乗っ取ったんだよ。家の中で虐待されてた人のものだと思う。幽霊でもなんでもなかったねー!」
と俺はプギャーをした。
「そ、そっちのほうが怖いですゥ!!」
泣きそうな顔になるエルナ。
間に坂本が割り込む。
朝鮮人による戸籍乗っ取りか…兵庫に限った話じゃないな。俺の両親を殺した宗教団体も確かそんな事をしていたかな…。まぁ、朝鮮人にとっては日本の国籍は最も高価な財産なんだよ。彼らの国の金持ちは違法な事をしてまでも、日本の国籍を得ようとしている」
「向こうの国のお金持ちが?」
「あぁ。向こうでどんなに金持ちになったとしても、所詮、敗戦国の中での話。サル山の大将みたいなものさ。それに日本の様に環境や制度が整っている国に住み国民と認められる事は凄い事なんだよ。日本にとっては敵国民なわけだからどれぐらいその難易度が高いか分かるよね」
「そっかぁ…そうだね」
俺が相槌を打つと、エルナは思い出したように言う。
「そういえば、門田の家の件も警察は全然マスコミに言わなかったですよね?やっぱり警察と朝鮮人って繋がってるんですかね?」
その時だった。
(コンコン)
ホテルのドアをノックする音が聞こえたのだ。