146 怒涛のマスカレーダー 4

居酒屋にて不幸にも知り合いに出会ってしまった俺は、今までの事件の経緯をマスコミである『久万田えるな(くまた・えるな)』に話していた。
「凄いです!!大スクープです!!今日はいい日だなぁ…キミカさんにも出会えるしキミカさんの写真も撮れるしスクープ手に入るし神戸の居酒屋の料理は美味しいし、お酒も美味しいし、今日は一日ずっと晴れてたし」
などと目を活き活きさせて話すエルナ。
「それにしても、エルナ、気になります!」
またしても目を輝かせて俺に言うエルナ。
「門田家の話?」
「そうです!家の中を丸ごと乗っ取られるとか…まるでカッコウみたいですね!!あぁ、カッコウは違うかぁ…」
「そういえばさっき2chにも投稿してみたんだけど、朝鮮人は家を乗っ取るのは通常業務だとかいう気になる書き込みが…ほら、これ」
aiPadのホログラムをエルナにも見せる。
「わぁぁ!aiPad!!キミカさん、凄いもの持ってるんですね!凄い!aiPad持ってる人初めて見た!!うわぁぁぁ…やっぱMappleの製品は高級感ありますねー!いいなぁ…エルナももう少し給料高かったらこんなものも買えるのに、今持ってるのはこんな感じの(手に持っているケータイを俺に見せる)カパカパケータイですぅ…ガラパゴス・ケータイですゥ」
うわぁ…材質はプラスティック、その周囲も傷だらけでカバーなどはつけてる形跡がない。バッテリーは表示が真っ赤になってたから充電しても5分ぐらいしか持たないぐらいに劣化してるんだろう。もう色々ダメダメだぁ…一年ずっと履き続けたパンツみたいにダメダメ。
「そんなにダサいと大事に扱うとかしなくなるよ」
「バッテリーが充電から10分ぐらいで切れるんですよ…もう常時電源接続しておかないとダメっていうぐらいに」
「見せてよ。うわぁ…何これ、ンテテのaiModeじゃん、これ既にサービス終了してるよ。まだこのアプリ起動してる人いたんだ。っていうかこのアプリがCPUの95%ぐらい消費してるじゃん。一体何をしてるんだろ…え、ちょっ、このケータイ、中継基地として使われてるよ。うわぁ…最悪」
「ちゅうけいきち?ってなんですかァ?」
「公衆便所みたいなものだよ。色々な男の人が入れ替わり立ちかわり好き放題に自分の欲求をこのケータイに向かって、このエルナの持ってる大事なケータイに向かって己の卑猥な欲求をタップリと、」
「イヤァァッ!!!やめてくださいよォ!!…あ、エルナはこんな事をしてる場合じゃなかったんです!急いでスクープ行かなきゃ…」
「へ?」
「門田家に行ってくるんです!スクープですよォ!!」
「きっともう大混雑だと思うよ。ラーメン一郎の前の行列みたいに大手マスコミが押し寄せて三脚並べたり近所の家から無断で電源拝借したり、近所の家に土足であがりこんで写真とったり、仮設テント張ったり、中で鍋料理をお仲間のマスコミに振舞ったり好き放題してると思うよ」
「んもォ!せっかくキミカさんに教えてもらったのに、誰かがマスコミにバラすからァ!!でも、とりあえず行きます!!というか、キミカさん、連絡先教えて下さいよォ…しばらく神戸にいるんでしょ?」
「いるけど、仕事の邪魔されそうだから連絡先は教えない」
「そ、そんなァ!!エルナ、困りますゥ!」
困ればいいじゃんか。
すると突然、エルナは俺の前で土下座して、
「お願いしますぅ!お願いしますぅ!!」
「ちょ、何やってんだよ!」
「おねげぇしますぅ、おねげぇしますだぁ〜おでーかんさまぁ」
などと大声で叫び始めるのだ。
誰がおでーかんだよ!
クソッ!
店の奴等がこっちに視線を集中しはじめたぞ!!
俺は静かに酒を飲みたいだけだったのに、エルナのせいで!
藤崎紀美香は静かに暮らしたいのだァ!
「わかったよ、わかった」
「ほ、ほんとうですかァ!」
ベレー帽の下には頭を逆さにしたからか顔を真赤にしたエルナのにこやかな表情がある。
俺はエルナにaiPhoneの電話番号を教えた。ただ、俺は電話の受付は基本的に電脳通信で待ち受けててaiPhoneの電話は寝ている俺を目覚めさせるレベルではないのだ。ふふ、残念だったな、エルナちゃーん。君の重要度レベルは何故か登録してあった男子テニス部キャプテン以下である(キリッ)
さて。
エルナを追っ払ったところでさっき俺が作ったスレをみてみるかな。朝鮮人がどうのこうののところまで読んだから今は続々とネットウヨクの書き込みが、
…。
「あれ?」
思わず声を出してしまった。
『お探しのスレッドは存在しないか、削除されました』
…ってどういう事ォ?!
俺はさっきまでリロードしてたんだぞ?
一定の感覚でリロードしてても消された?っていうことは意図的に誰かが消したって事じゃんか!!ネトウヨ怒れよォ!!お前らが嫌いな朝鮮人の悪事について書いた掲示板が消えちゃったぞ!!
んだよォ、クッソ…面白くなりそうだったのに。
それから俺はつまみにエイヒレの炙り焼など定番メニューを注文し、それをマヨネーズの上に七味をかけたアレにつけながら楽しんだ。日本酒とともに。
aiPadは『はてな』サイトを眺めていた。
相変わらず『はてな』では警察官がドロイドに襲われるニュースがトップサイトを飾っており『はてブ』ではブックマーク数がトップに躍り出ていた。
ちなみに『はてブ』とは『はてな民』という陰湿なネットサヨクどもがイナゴのようにネットを徘徊し、炎上しそうなサイトを見つけて自称『クール』なブックマークコメントを残し、後でそのブックマークコメント(ブコメ)に高評化がつくことで自己顕示欲を消化するサイトだ。
「そんなにこの話が面白いかなぁ…警察官が死ねば面白いけどさぁ…」
などと俺は毒を吐いてみる。
平日なのか居酒屋はどんどん人が少なくなっていく。
俺もそろそろ帰るか。
ホテルに。
大抵の場合はテロ対策課からホテルの予約は行なってくれてるはずなんだけれども今回はそれがなく、俺はしぶしぶ駅の隣にある日本鉄道系列のビジネスホテルに泊まった。そして2次会の場所として選んだのは屋上にあるバーだ。
実はここが目当てでこのホテルに決めたんだよね。