146 怒涛のマスカレーダー 3

門田家の前には警察やら鑑識やらの車両、それから野次馬が大集合していた。殺人事件が起きたのだ。正確には俺が殺したんだけども…。
「なんてことしてくれるんだ!」
と怒鳴り散らしているのは年配刑事の中でももっともエラそうにしていた淀川っていう刑事だ。そいつが俺と常磐に向かって怒鳴り散らしている。
「だって人が殺されそうになってたんだよ?」
と、俺は鼻くそをホジりながら言う。
「鼻くそをホジるのを止めろ!いいか!お前が殺したのは門田家の長男の末吉だ!お前は家庭内の問題に口を出してきて、それだけに留まらず長男を殺ったんだよ!!どれだけ重大な事をしでかしたのかわかってんのかァ?!」
長男なのに末吉?
名前の付け方間違ってないか?
まぁ、それはおいといて…。
家庭内暴力でも十分警察は介入できるけど?」
「警察は民事不介入なんだよ!」
こいつ本当に刑事か?ちゃんと法律の本でも読めよ。本がダメならネットでもWahoo教えて!でも検索すれば嫌ってほど事例が出てくるぞ?
「それにさ、この門田って家、なんで朝鮮語話してるの?」
「はぁ?!」
「カタワにした奴が朝鮮語話してたよ」
「そりゃぁ…国際結婚したんじゃないのか?」
「とにかく。色々と不完全燃焼だから調べておきなさいよ。本庁から来たあたしの命令よ。地方公務員さん」
と、俺はホジっていた鼻くそを指でピンッと弾き飛ばして言う。
さて。
そろそろ帰りますかね。ホテルに。
その前に一杯酒でも引っ掛けてからにするか。神戸と言えば酒のつまみになるような何かいいものはなかったかなぁ?
夜道を歩く俺の後ろには新米っぽい刑事の常磐がいる。
「あの家はまだ何かありそうですね」
「これからわかってくるでしょ。マスコミだって黙っちゃいないだろうし」
「えぇ…」
その時だ。
さきほど野次馬にいたであろう近所のおばさんみたいなのが俺に近寄ってきて、ヒソヒソ声で話すのだ。
「お巡りさん、門田さんの家の中、みたんですか?」
「ん?あ、はい」
「どうでしたか?」
「どうって…そこら中が血まみれで…あと、娘さんがレイプされてました」
そのおばさんは両手で口を覆って驚いている風だ。
それから、
「門田さん、いらっしゃいました?」
などと言うのだ。
「門田さんって言われても、門田家だからそこら中に門田さんがいましたよ。朝鮮語を話してる門田さんだとか泣き叫んでる門田さんだとか、あたしに銃を向けてきた門田さんだとか…」
おばさんはまた両手で口を覆ってから驚いている風な仕草。
「あの家っていつもあんなのなんですか?」
俺は聞いてみた。
「いえ、それがね…よくわかんないんですけれども、前まで住んでた門田さんと、今住んでる門田さんと…全然違うんですよ。てっきり同じ姓の人が引っ越してきたんだと思ってしまいましたよ」
「?」
「でも、引っ越してきた風じゃないんですよ…3年前ぐらいから、門田さんのところから『門田さん一家』が全員いなくなって、それであの人達が」
「娘さんも、逃げていったおばあさんも違う人?」
「えぇ」
朝鮮語っぽい言葉を話してたから、門田家の門にある『門田』って表札を変えたりするのも面倒くさくてやってなかっただけで『李』とかそんな名前なんじゃないですかね?」
「いえ…門田と名乗っていましたよ。郵便物とかも届いて、家に人が居ない時があるから私、代わりに受け取った時があったんですけどォ…『門田』と」
いくつかの疑問は残ったが今ここに立ち止まっていても何も始まらない。今日はこれから始まるのは知らない街の知らない居酒屋でのぼっち飲みである。
俺を乗せた加藤の車は神戸の繁華街を目指して進んでいる。
「新人くん!」
俺は若手刑事2名に向かって言う。
「はい?」
加藤が答える。
「あの一家の事を調べておいて」
「…それが…」
「?」
「以前も何度か通報があって、それでも現地には向かうな、あの家の事は調べるななどと言われてて、実際、警察のデータベースも見れない状態でぇ…」
「あはは…なにそれ?」
「あの一家と係るのが嫌だという感じでした」
ふとさっきのおばさんが言っていた話が頭の中を過る。
3年前ぐらいから突然『門田』家に現れ『門田』を名乗り、時々家の中で暴力を振るっている数名の男。その上で女王のように振る舞う女。暴力を振るわれていた女性は門田に嫁いできた女性、だという話も聞いたがおばさん曰く、あの家には何回か嫁が嫁いできてはいつのまにか居なくなっている。と…。
今まで何度も警察へ連絡したが取り合ってもらえなかったとも。
まぁ、マスコミが調べまくったら明らかになるんじゃないのか。
警察は本当に無能だなぁ。
と、俺はaiPadを広げて2chなどを見ながら、「今しがた事件を解決してきた刑事ですが」というスレを立てて、「なんか聞きたいことある?」と1にメッセージを記述して送信。
加藤には繁華街で降ろしてくれと言った。
「お気をつけて」
そう言って俺をおろす常磐。二人はそのまま署に戻るらしい。
お仕事熱心だこと。
さて、俺の方は適当な居酒屋で酒を飲むかな。
何が名物なのかはわからないから、ここは1つ、創作料理系の居酒屋に入り、カウンターの隅っこに陣取る。
「えーっと、生ビール。それから…刺身の盛り合わせ」
刺身の盛り合わせはどこの居酒屋に言ってもとりあえず頼んでいるよ。俺は魚が食べれないひ弱な奴じゃないからね。お腹壊すことは男の時は何度かあったけれども、女の子のこの身体になってからか腐ったものを食ってもお腹を壊さなくなったから魚も全然平気になってきたよ。
ビールを飲み、魚をつまみながら…。
さっき2chに立てたスレでも見てくるか。
<なんの事件を解決してきたの?>
お。さっそく俺のスレに書き込みが沢山。
兵庫県尼崎市ってところで、家の中でチョン語話してる奴を公務執行妨害で処刑したったwww>
送信、っと。
<尼崎か、チョンとハイム真理教の街だな>
なんじゃそりゃ。
<ハイム真理教ってなんなん?>
<ちょっww本当に警察官かよ?>
<…>
<ハイム真理教っていうのは教祖様が朝鮮人だと言われてる宗教で日本でもマスコミにはおおっぴらに公開されないけれども、色々と問題を起こしているところだよ。政治家としても何人かでてるし。本当は政治に宗教を持ち込むのはご法度なはずだけれども、国民総政治家制度があったから意見を言うだけならオケってことで参加を許されてるよ>
なかなか物知りさんがいるようだな。
さっきの話も書き込んでみよう。
<なんかさー、ある家に住んでる人が3年前のあるタイミングでごっそり入れ替わったって話があって。その家の近所からの通報で行ってみたらレイプはされてるわ、金属バット持った馬鹿は暴れてるわ、大惨事だったよ>
<ワロエナイ怖い>
<家の乗っ取りとかレイプはチョンの通常業務>
<そんなすごい事件起きたのにニュースは何にもないっぽいけど?>
ま、明日になれば一面乗るでしょ。
<乗っ取りっていうか『なりすまし』じゃないっけ?前にもなんかそんな話があったような。その後別の話が出てきて、記憶がアヤフヤ…。なんか脅迫事件、アベックスのサイトをハッキングした奴が幼稚園で園児を殺すだの書き込んでたりしたやつ>
<警察が調べたら全然関係ない人でぇ…既に何人か逮捕しちゃっててじゃないっけ?(サイトのURLが貼られている)>
<冤罪だって言うのは後で証明されたけれど、社会的に殺されたって奴でしょ。マスコミと警察がタッグ組んで冤罪で逮捕された奴のプライベートを公開しまくったんじゃなかったっけ?>
<あれは後で自殺したやつだね>
<マジか?>
マジでか…。
「ビールおかわりぃ〜」
ん?
俺の席の隣、いつの間にか人が来てるぞ。
ベレー帽被ったソイツは既にビール1杯目で酔っているようで、顔を赤くしながら空になったビールジョッキを店員に手渡している。その一方でカメラの液晶パネルをポチポチ押しながら、ソイツが今日一日で撮ったであろう写真を見ながらニンマリと笑っている。
ん?
スーツ姿をキメた中学生か高校生ぐらいの美少女の写真。それが警察のパトランプつきの車にドヤ顔で颯爽と乗っている。…って、俺の写真じゃねぇか!!
今日一日俺が行動していたシーンを写真が捉えているぞ!さすがに警察署の中での写真は無いが…コイツは一体何者…って、
「久万田えるな!!」
「ブッ!」
エルナは飲みかけていたビールを吹き出した。
「なんであんたがここに?!」
「ひぃ〜ん…今日の一日の写真がビールまみれに…って、キミカさん発見!!こんな近距離で捉えられるなんて、エルナ、幸運かもしれませんッ!」
(カシャリ)
「ちょっ…とぉ…版権とかいろんな問題があるから、裁判所に訴えて死刑にしてもらうよォ…」
「や、やめてくださいよォ!!」
とんでもない奴と遭遇してしまった…。