144 キミカのお誕生日会 4

女になる前の俺の誕生日…。
それをふと考えると思えばパーティらしきことはしていなかった気がする。俺の親も誕生日会とかやってたのは小学生までで、それでも俺は高学年ぐらいからはこっ恥ずかしいのでやらないって話をしちゃったよ。今考えれば、親が居なくなることが解っていたのなら家族で俺の誕生日を祝う事だってそれこそ最後の年までやって欲しいと思っていた。
結局、最後にお祝いしてもらったのは小学4年だった。
中学生の頃は囁やかながらもコンビニで小さなケーキを買ってきてMBAの前で1人お誕生日会をしていたっけ。高校生になって少しだけ財力が整いだすとスタバへ言ってケーキを購入して1人お誕生日会をした。
結局、お誕生日に何を祝うわけでもなく、ただ365日の中に1日でも特別な自分だけの日があるって事にしときたかっただけかもしれない。だってそうだろう。自分が産まれた日なんだから、俺が俺を祝ってもいいじゃないか。
そうだな。
今回も、ちょっと早いけど俺は俺で俺を祝う事にしようか。
そう思い立って俺は学校の帰りにスタバに寄ることにしたのだ。
普段のスタバだったけれど、なんか今日だけは特別な空間のような気がした。店員もなんとなくだけれど俺の事を気づかってくれているような気がしたのだ。そして、ものおじしないで注文を…キメようと思ったけれど、なんとなく俺は少し緊張していた。
「えっと…いつものやつで」
と言う。
これだけであの長い呪文のようなトッピングが注文できる。もう相手は俺の事を覚えていてくれているようだ。そしてそれはスタバの店員が入れ替わったとしても受け継がれているらしく、先輩から後輩へ「いつものやつね」と一言言うと、いつもの俺が飲んでるフラペチーノが出される。
「あ、それと、このケーキを」
ショーケースの中にあるケーキを指さす俺。
その時、店員はいつもと俺の態度が違うことに気づいたのだろうか。流石かスタバ店員というべきか、感づいてから俺に、
「もしかして、誕生日ですかぁ?」
と冗談交じりに言う。
俺はハニカミながら、
「え、えぇ。そうです…」
と言った。
「はい!お席でお待ちください!すぐに持って参りますので!」
そう店員は言う。
俺は頭の中が「?」で埋まりそうになった。
ケーキはそのまま渡せばいいだろうに、どうして受け取りはフラペチーノだけなんだろう?なんて思いながらも俺はいつもの席に陣取る。
そして普段そうするように俺はMBAを開く。
しばらくすると店内の照明が1ランクほどダウンされた。
停電でも起きるのか?なんて思っていると、スタバのスタッフが数名、ケーキを持って俺のほうへとやってくるのだ。そして、その上には…ロウソクが立っていた。残念ながらケーキはピースに切られているのでロウソクは1本しか立っていないけれども、それは明らかにお誕生日をお祝いするケーキだった。
店内のBGMがあの誕生日の曲「HappyBirthday to you」に変わって、そしてスタバ店員は歌いながら俺の元へとやってきた。
俺はMBAを閉じる。
どういう表情をしたらいいのかわからない。
ただ顔を赤くして、笑っている俺。
「HappyBirthday to キミカさん!お誕生日おめでとう!」
そう言って店員は俺のテーブルの上にケーキを置いた。
「あ、ありがとうございます…」
小さくて聞き取れなさそうな俺の声。
その後、ロウソクを吹き消した。
照明はそこで明るくなった。
スタバ店員達は拍手。
そして、店内の他の客達も、俺に向かって拍手をしていた。
俺と同じ時間を過ごしてきたMap信者達が、名前すら知らないただの店内で時間を共にしてきた顔見知り達が、俺を祝福してくれている。
「ありがとう…ありがとう…」
俺は涙声になっていた。
女になってから涙腺が緩むのが早くなったのだろうか。
スタバ店員達ももらい泣きをしていた。
よかった。
本当に、俺はこのスタバに出会えてよかった。
そしてMappleとMapple信者達に、ありがとうと伝えたい。
一人ぼっちの寂しい俺の誕生日を祝ってくれてありがとう。
スタバ店員達が涙をハンカチで吹きながら、レジのほうへと戻る。スタンディングオベーションをしていた客達も席へと座る。
いつものスタバが訪れた。
その時、1人だけ俺の方をあっけに取られて見ている奴がいた。
「あんた…何やってんの?」
…キサラだ!!
「ななななななな、なにやってんのって、なにやっててもいいじゃんか!!誕生日を祝ってもらってたんだよ!!」
「今日が誕生日なの?」
「そそそそそ、そそそそそそそろそろ誕生日なの!いいじゃんか!誕生日当日に祝ってもらわなくても!!そういうもんでしょ?!」
「スタバで誕生日祝ってもらってる人って初めて見たわ…」
「う、うるさいなァ!!いいじゃんかよ!」
「え?なんなの?いつもこんな事やってるの?去年も祝ってもらったの?」
「きょ、去年は祝ってもらってないよ!1人でケーキ買って1人で祝ってただけだよ!なんか文句あるのォォ?!さっきからァァァァ!!!」
「…いや、文句はないけど…寂しいわねぇ…1人でケーキ買って1人で祝うとか…。っていうか、お誕生日会開くんでしょ?あたしも行くわよ?」
「えー!!」
「いいじゃんか。人は多いほうがいいし」
「まぁ、いいけどォ…」
「それにしても…1人でケーキ買って1人で祝うとか…それって傷口にウンチを塗りたくるようなもんじゃないの?」
「もう!さっきからうるさいなぁ!人が何しようと勝手でしょォ?!誕生日の祝い方なんて100人居れば100通りの祝い方があるんだよォ!そういうキサラは誕生日もクリスマスも彼氏の『ソラ』と一緒にセックスパーティしてるんでしょ?!そうなんでしょ?!エロ同人誌みたいに!エロ同人誌みたいに!」
「まぁ、そうだけど」
「」
「ちょっ、何よその顔、やめてよその顔は。もう少し人を見るような顔してよ。何よそのケダモノでも見るような目は。100通りの祝い方のうちの1つでしょ。あんた自分は認めて貰ってないって文句言って私の誕生日の過ごし方で文句言うなんてちょっと自分勝手過ぎじゃないの?」
「」
「だからその顔やめなさいってば。何?軽蔑してるの?いい度胸じゃないの?久しぶりにやり合おうっていうの?いいわよ?受けて立つわよ?」
「」
「ちょっ、何よ、犬を追い払うみたいに手だけでシッシッシとかやらないでよね、ちゃんと向き合って話しなさいよ。それが人に対する最低限度の礼儀ってもんでしょ?」
「話し掛けないで穢らわしい」
「ちょっ、ちょっとォ!なんなのよ!!」
「…そで掴まないでよ、精液がつくから」
「ついてないわよ!ちゃんと洗ってるんだから!」
「洗っててもその手の指紋の間とかに精子が1つだけはいってるとかあるじゃんか。それが空中を泳いで子宮に入ったらどうするんだよ。妊娠しちゃうじゃんか、処女なのに妊娠とかやめてよね、もう、触らないでってば」
「どんだけタフな精液なのよ!あ、こら!どこいくのよ!」
「妊娠したらヤバイからこれはお持ち帰りにして帰るよ」
俺は早々にスタバを脱っした。
性病を感染されてもかなわんし。