143 嫌煙ウイルス 5

家に帰ってからはまず服を脱いでクリーニングへ出した。
下着ももちろんクリーニングへ出した。
汚染されたものはきっちり洗ってもらわなければならない。そして、俺はシャワーを浴びて念入りに身体中を洗った。
それから夕食。
テーブルで家族で食事をするかのように、俺とケイスケ、ナツコ、マコト、それからテーブル下では猫の扱いであるにぃぁが猫飯を食っている。
ちょうどこの時間はニュースを報じているのだが、同じ時間帯ではアニメも放送されている為、この家ではケイスケがいる間はニュースではなくアニメを見ることになっている。
しかしケイスケにとっては夕方6時に放送するであろうアニメは地方放送局がテレビ東京から購入したアニメであって、それは既に3、4週遅れなので熟知している回であった。深夜と違って気を集中させていない。
アニメの中では敵の撒いた毒ガス攻撃にヒーローが苦しめられているシーンだ。既にヒーローの周囲にいる一般人は毒ガスに倒れている。まるで昼間の嫌煙ウイルスを彷彿とさせるシーンである。
ふとケイスケが言う。
「そういえば昼間、ミサカさんが電話してきたにぃ…」
「ん?なんて?」
俺がそれに質問する。
「ん〜…嫌煙ウイルスについて」
「ギィィクゥゥゥゥ!!」
「なんですかぉ?キミカちゃん。『ギク』は擬音であって声に出して言うもんなないですにぃ。あと『メメタァ』も勘違いされてるけど擬音ですにゃん」
それはどうでもいい。
っていうかなんでミサカさんが電話?!
嫌煙ウイルスについてだとゥ?!
昼間のアレがテロだと認知されたというのかァ?!
ほんの遊びゴコロだったんですゥ…(ゲス顔)
「何を突然ゲス顔になっていますにぃ?まさかキミカちゃん…」
ケイスケは俺を見てガタガタと震えている。
ま、まさかバレたのか?!こうも簡単にバレるというのかァ?!
俺は俺で、ケイスケを見てガタガタと震えていた。
マコトもナツコもことの成り行きを知ってるだけに、沈黙を守っている。テーブルを挟んで俺とケイスケがガタガタ震えるのでテーブルが地震でも起きてるのかっていうぐらいにガタガタ震えている。
「な、ナんダョ…」
震え声で俺は答えた。
「キミカちゃん…」
「(ゴクリ…)」
「タバコを、吸っているのですかォ?!」
「え?」
なんだよ、そっちかよォ…。
あやうく安心しておしっこ漏らすところだったよ。
「吸ってないよ」
「で、でも、キミカちゃんの制服がクリーニングパックの中に入れてあって、匂いを嗅いだらタバコ臭がしましたォ…いつもは石鹸の香りなのに。あと、前にもキミカちゃんの下着がクリーニングパックの中に入れてあって、匂いを嗅いだらタバコ臭がしましたォ…いつもは女の子の香りなのに。それに今日は家に帰ってからすぐにシャワーを浴びていたのを見ていましたにぃ…。いつもの時間じゃないからカメラ仕掛けるの間に合わなかったですぉ」
俺は思いっきりテーブルを押してグラビティコントロールも含めて力を込めて、ケイスケを壁とテーブルの間にサンドイッチにした。それから、
「いつも…何しとんじゃァァァァ!!!」
と叫んだ。
さて。
食事も終わったのでリビングに向かってテレビでも見る。
ソファに寝っ転がって見ていると、マコトが俺の近くにやってきて言うのだ。
「キミカちゃん…自首したほうがいいよ…」
「なななな、なんの話だよォ…」
「何って、キミカちゃんの起こした事件で調べに来たんじゃないの?多分真っ先にミサカさんはキミカちゃんの事を疑うと思うよ」
「え?!ちょっ、疑うにしてもなんで真っ先になんだよ!!」
「だって口もお尻もマーライオン状態ってキミカちゃんみたいな下品な女の子が好きそうなネタじゃんかぁ…きっとマーライオンのマーのところでミサカさんはキミカちゃんの顔をイメージしてると思うよォ」
「どんだけあたしはマーライオンなんだよ!!…っていうかマコトはあたしの事、信じてないんだね…」
「ぇえぇぇぇぇえ?!っていうか、思いっきり自分で『嫌煙ウイルスばら撒いてやる』とか『口とケツの穴からクソを垂れ流せ!』とか言ってたじゃないかァ!ナツコだって家に帰ってから『キミカさんがやりましたわ!うふふふ』って大喜びで撮った写真をボクに見せてくれたよォ…。その中には店の中で喫煙者がゲロをまき散らしてクソを垂れ流している最中にニコニコスキップしながら店内を走り回っているキミカちゃんの幸せそうな顔が映って…」
「それでもあたしはやってない」
「痴漢冤罪被害者みたいな事言わないでよォ」
俺はソファから起き上がり、精一杯の可愛らしい顔を作ってマコトの手をとった。それから、
「マコトォ…好きな人が犯罪者になった時、マコトならどうするの?」
と上目遣いで言う。
「ぼ、ボクなら…ボクなら…」
モジモジとするマコト。
その時、俺のあたまを軽くペシンと叩くのはナツコだ。
「何をやっていますの」
「何って、マコトを共犯者に…フヒヒ…」
「それより、キミカさん。ミサカさんの手伝いをしたほうがいいですわ」
「えー!!この危険な時にミサカさんに近づくとか、船の上からゲロ吐いた人がいるのに海に飛び込んで泳ごうっていうぐらい危険なことだよ!!」
「もしキミカさんが疑われているのならまっさきにこの家にやってきますわ。で、『仕事の途中だけどちょっと食べていく』とか言いながら夕ごはんをごちそうになった後にキミカさんに手錠を掛けて連れて行くと思いますの」
「やめてよォ…リアルな想像はやめてよォ…」
「疑いがキミカさんに向く前に捜査に協力すると、まさかキミカさんがやったとは思いませんの。これを灯台下暗し効果と呼びますわ」
「と、灯台下暗し効果…なかなか効果ありそうですね。よし…ここは1つ、私が人肌脱いであげましょうか!!ティヒヒヒ…(暗黒微笑)」
言うが早く、俺はすぐさま電脳通信でミサカさんのケータイに電話した。
『ミサカさん!事件が起きたの?!ケイスケから聞いたよ!』
ちょっとオーバーだったかな?
演技臭かったから逆にバレるから、ちょっと抑えようか。
『よし、逆探知の準備をして!』
『エーッ!!』
俺は全身から冷や汗が拭きでて毛が逆立った。
『うそうそォ〜驚いたァ?』
『驚いたよ!!』
『「嫌煙ウイルス」の件でしょ?』
『う、うん…あれは酷い事件だったね…』
あくまでも自然に…自然に…。
『相変わらずあの手のイタズラは後を絶たないわねぇ…。で、ちょっと急展開になったのよ。もし暇でしょうがなかったらちょっと手伝って欲しいのよ。あ、いいのよ、暇でしょうがなかったらだから』
『いや、全然大丈夫だよ!今すぐにでもいくよ!』
『いいのいいの。私はこれから寝るから。明日の話』
なんとか、ミサカさんにはバレずに手伝うって話を結べた。
ふぅ…。
「演技も大変だなぁ」
「キミカちゃん…ずっとゲス顔だったよ…」
ちょっ、おまッ。
「人の顔をずっとジロジロみたいでよォ!」
俺はぷくぅっと顔を膨らませてマコトに言う。
「か、かわいい…」
マコトは顔を赤くしながらそう言った。