143 嫌煙ウイルス 3

数日後。
俺は学校の帰りにドトォールに寄ることにした。
何故かって?
届いた嫌煙ウイルスを使ってみるんだよォォ!!
いちおうナツコから注意事項として。
嫌煙ウイルスは一時流行しましたから、喫煙厨によってはどうやって飛散されてるのか覚えている人が居ますわ。温かい風が出るエアコンだとかの近くに箱と脱脂綿を入れておけば『嫌煙ウイルス』だって決めつけてお店の人に片付けさせたりしますので…オススメはバッグの中に入れてウロウロする方法ですわね」
ふむふむ。
まるで自分がやっていたかのような…。
まぁ、それは置いといて。
帰宅部の俺が帰宅せずに帰りに寄り道をするというので物珍しいのだろうかユウカやナノカ、キリカがついてくるのだ。ナツコも効力がどれほどのものか見てみたいという好奇心でか俺についてくる。
「なんでついてくるんだよォ…」
と、俺が言うと、
「いつもダッシュで帰る帰宅部のエースのキミカっちが今日はダッシュで寄り道するっていうから気になってしょうがないんだよォ〜」
とナノカが笑顔。
「どうせロクな事はないからついてこないほうがいいよ」
なんて俺が答えると、
「あぁ?!あんた、私達がついていくとロクな事はないって意味ィ?!」
とユウカが言いやがる。
そういう意味じゃねぇっつぅの…お前、マーライオン見たいのかよ…。
一方で、
「キミカぁ…いつもの喫茶店に行かないの?」
と駄々っ子のように俺の袖をクイクイ引っ張ってくるキリカ。
「今日はドトォールに行くの」
「…あそこは邪悪な煙に支配されし暗黒空間…全ての生あるもの、食べ物、飲み物が腐敗を急がせる邪悪なる場所…行かないほうがいい」
邪悪多いなおいぃ。
「タバコくせぇって事ね」
ユウカも俺に聞いてくる。
「珍しいわね。あんたがスタバ以外のチェーン店に行くなんて」
「今日はちょっとねぇ、面白いものが見れるらしいから」
「ふぅ〜ん…。私もよくドトォールには行くけど、あそこって店の中には長居してくないからいつもテイクアウトしてるわ」
「タバコ臭いでしょ?それで正解だよ。喫煙厨が皿とかコップを灰皿代わりに使ってたりするからねー」
「え?…それやっぱり本当なの?ネットでもたまにそういう写真がアップされてたりするけど」
「本当本当。あたし、この目で見たもん…っていうか、そういう写真アップされてたりするのかぁ…2chとかでは見たこと無いけどなぁ」
「飴ブロとかミクソとか…そういうところでは『皿を灰皿に使ってやったぜぇ!』って不良みたいな人達が自慢してたりしてたかなぁ」
「マジで?!」
許せん…。
絶対に許せん。
食べ物を入れるものを灰皿にする時点で人間腐ってると思ってるけど、それを自慢するなんて『更生の余地なし』。
小一時間ほどでドトォールに到着。
店の外からも、すこし臭う…。
店に入る。
「うッ!クッセェ!!」
ナノカが大胆にもその場で感想を言う。
さすがに俺もそこまでしないけれど、そこはさすがはナノカというべきか…ナノカはいつも正直に口に出すよな、特に負の感情は。あのマトリの問題児コンビの片方『マユナ』と良い勝負じゃないか。ひょっとしたら意外と気が合うかもしれないぞ。
などと考えていると、俺達よりも前に並んでいたサラリーマン風の男が言う。
「なんとかならんのかね、アレ。分煙なんてあったもんじゃないじゃないか。タバコ咥えたまま外を歩いてるぞ?」
店員にクレーム入れてる!!
やっぱり俺以外にも分煙方法が気に入らないって思ってる人居たんだ!これは俺の行動動機を支える力になるぞ!
「お客様のご意見、承りました。検討の上、対処させて頂きます」
とニッコリ微笑んで返すアンドロイド。
そこでやっとサラリーマン風の男は話している相手が『アンドロイド』だということを知る。そして、もう文句は言わなくなった。
次は俺達の注文の番。
「えぇ〜っと…それじゃマロンなんとかラテで」
俺がまず注文。
「あ、テイクアウトね」
ヤバイヤバイ。店内でお召し上がると大変な事になるよ。
隣でキリカが、
「マロンなんとかラテが美味しいの?」
と聞いてくるので、
「いや、季節限定だから今しか飲めないので買っておくだけだよ」
と俺は答えておく。そんな中、忙しく俺はバッグの蓋をオープン・ザ・ドアして、バッグの中に潜ませている小型扇風機の電源を入れる。
「ふんふんふーん」
気分よく鼻歌でも歌いながら俺は店内をグルグルと回る。
ユウカ達は注文をそれぞれしている。
ナツコは注文をしつつも店内をグルグル回っている俺が気になって仕方ない様子。さてと…結構ウイルスは飛散したはず?そろそろ来るかァ?
と、俺が喫煙所に目をやると、中からドラゴンボールのコクウみたいな髪型した不良が出てきた。そしてソイツはタバコを咥えたままの状態で案の定店内を歩いて、今にもドトォールの店員のアンドロイドに注文しようとしていた。
「えぇーっと、追加で注文ね。マロンマロンマロォ゛ォ゛ォゥェ゛ェェエェ゛エェェ゛ェェェェ゛ェェェ゛ェ゛ェェェエェ゛エェェェェ゛ェェェェ゛ェェエェエェ゛ェェェ゛ェ゛ェェェェェェェェ゛ェエェェェッッ!!」
クッソワロタ!
マロンなんとかラテを注文しようとした男が店員に向かって凄まじい勢いでマーライオン化してゲロを吐きかけた。素早く回避するドトォール店員。
「ォゥェ!!ォ゛ォォオ゛ォ゛ォ…」
不良はそのまま犬のように四つん這いになり、足はガクガク状態、腰もガクガク状態、目はキョロキョロ状態でゲロを吐く。ひたすら吐く。もう胃の中が何もなくなったので涎しか出ない状態で、今度は、
(ぷりゅ…ぶぉぉぉりゅりゅりゅぷりゅ…ぐりゅりゅりゅりゅ…プホッ)
ズボンのケツの部分がどんどん茶色に染まっていく。
「何?何なの?!何が起こってるの?!」
それを見てあっけらかんとした状態のユウカ。
「クゥ…セェェェ!!!」
笑いながら不良を指差して鼻を摘むナノカ。
「…」
涙目で鼻を摘んで酸っぱいゲロの臭いを吸わないようにしているキリカ。
(カシャッ)
aiPhoneで写真を撮ってネットにアップロードしているナツコ。
そんな中、俺はまだスキップで走り回っていた。
喫煙所から出てきたオッサン(酔っ払って顔が真っ赤)が、
「おいー!コーヒー持ってこいやぁ!」
と出てくるのだ。っていうか、てめぇ、ドトォールはセルフサービスだろうが、自分で取りに来いや。という意味を含めての俺の攻撃。
「ェェッックシッ!」
くしゃみをするマネをして俺はバッグを絞って中にあるウイルス混入空気を思いっきりオッサンの顔に噴きかけた。
しばらく俺と同じようにオッサンは今にもくしゃみをしそうな、そんな歪んだ顔になり、
「ヘェ…ヘェ…ッ…」
くしゃみが出そうになっている。その後、
「ェェックッオォォェェェ!!」
くしゃみから一転、マーライオン化した。
そのままオッサンは前のめりでぶっ倒れた。前のめりでぶっ倒れるのは、やはり『男は倒れる時も前のめり』っていう意味なのだろうか。それだけ見ればとても格好良いわけだが、オッサンはその後、ズボンを茶色に染めた。