143 嫌煙ウイルス 2

俺はイライラしながら家路についた。
ケイスケの家に帰ってから、リビングに入った後もタバコ臭いのだ。
服に染み付いたタバコの臭いが消えてないのだ。
「はぁッ!くぅッ…さぁァァァ!!!」
俺はキチガイのように消えていたジャンバーを脱ぎ捨てた。
「ど、どどどど、どうしたのさぁ!キミカちゃん!」
「くぅッ…………さぁぁぁぁぁーーーーい!!!」
ブラウスを脱ぎ捨ててスカートも脱ぎ捨ててニーソも脱ぎ捨てた。もうブラとパンティーしか残ってない状態だ。
「すん…すんすん…」
俺はブラとパンティの臭いも嗅いだ。
「くぅッ…さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいぃぃ!!!」
ブラもパンティーも脱ごうとしていた俺をマコトが止める。
「お、落ち着いて!キミカちゃん!落ち着くんだ…呼吸を整えて。深呼吸をしよう。そうすれば落ち着くはずだから、そう、深く息を吸って」
「すぅぅ〜…ング…くッ…さぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
「何があったんだよォ…キミカちゃん」
「臭くて息ができなぃ…助けt」
「ん?そういえばなんかタバコ臭いような…」
そんな話をしている俺のそばににぃぁがやってきて、俺が脱ぎ捨てた服などに顔を近づけて「すん、すん、すん」と匂いを嗅いでいる。しかし暫くすると「クセッ…」と吐き捨てるように言ってからその場から離れたのだ。
俺はこれまでの事情を誇張をせず全部話した。
ドトォールに入ったら喫煙所からモクモクとタバコの煙が出て、それらが店の中を覆い尽くしていたということを。煙があまりに酷い為、入ってきた客が目や鼻に痛みを訴えて救急車で運ばれた事。その煙にタバコの炎が引火して大爆発を起こし街が消滅したこと。
「キミカちゃん、最後のは嘘だよね。絶対」
「くさいのォ…」
俺は涙目になってマコトに言った。
と、その時だった。
にぃぁが俺のバッグのほうも「すんすんすん」と匂いを嗅いでいたのだが、その時も「クセッ…」と言ったのだ。
え、ちょっ、
ちょっと…ちょっと待ってよ!!
待ってくれよォォ!!!
俺は大慌てでバッグのほうに近寄ると、そのバッグを開け中にあったMBAを取り出した。そしてテーブルの上に起き、キーボードに顔を近づけて「すん」と匂いを嗅いだ。
「ク…サッ…」
臭い。
MBAからタバコの匂いがする。
タバコの灰の『反吐のでそうなクソのような臭い』がする。
「う、うわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!!!」
俺はまるで『母親が大事に育てていた自分の子供が無残な殺された方をしてその遺体を抱えて泣くように』MBAを抱えて泣いた。
その大騒ぎっぷりに2階でスプラッター映画を見ていたナツコも1階で本当にスプラッターな展開が起きたんじゃないかと期待を込めた顔で降りてきやがったのだ。しかしそこには下着姿でMBAを抱えて泣いている俺しかいない。
「な、何が起きたのですの?」
MBAが臭いのォ…」
「キミカさんがちゃんと手を消毒してからキーボードに触らないから…」
「違うよ!!そういうレベルの臭さじゃない!」と、叫んで俺はナツコの顔の近くにMBAを持って行くと、キーボードの匂いを嗅がせた。
「クサッ!」
顔を離すナツコ。
「ちょっと…シャワー浴びてくる…」
俺は言った。
…。
シャワールームにて、全身にシャワーを浴びる。髪の毛一本一本全部。爪の間とかも女の子の穴の周りも、ケツの穴も、とにかく隅から隅まで『こんなところまでタバコのヤニが入るわけねぇじゃん』ってところまで全部。
ちなみに女の子の穴の中については指を突っ込んで洗うのはちょっとアレなので、弄って弄って弄りまくって内部から粘液を出して洗った。
小一時間ほど洗った後。
まだ乾いていない髪のまま、ブラとパンツ、上にはTシャツを着て、リビングまで来ると今まで着ていた服やらバッグ、MBAを全部ビニール袋の中に入れた。もちろん、手には触れないよう、グラビティコントロールを使って(その際にも灰が飛散しないようのゆっくりとその作業を行った。少しでもこの部屋にタバコの臭いが充満するのを避けるため)
「そのMBAはどうしますの?」
「専門の業者に除染作業をしてもらう」
「て、徹底していますわね…」
「あ、ちょっとナツコのMBAを貸してよ」
「いいですわ。何しますの?」
「ふふふ…」
ナツコとマコトが話をしている間、俺はネットでドトォールのサイトの『お客様ご意見板』を訪れていた。何をしようとしてるかって?そんなの分かりきってるじゃないかァ…(ゲス顔)
そんな間もマコトとナツコが話をしている。
「確かにタバコの煙1つとっても侮れないなぁ」
「そうなんですの?」
「料理の道に進んでたボクに言わせると、料理人でタバコを吸ってる人間はもう料理人は諦めたほうがいいって言うぐらいだよ」
「それは『タバコを諦めるか料理人を諦めるか選んだほうがいい』という意味ではありませんの?」
「いや、タバコを『吸ってた』人も諦めたほうがいいって意味だよ。タバコの煙がお客さんが食べる料理に臭いを移すなんてのはもってのほか。致命的にダメな事だけどね。1つは、タバコが味覚障害の元になるってこと。もう一つは…そもそもタバコを吸うような『性格の』人間には、料理に必要とされてる繊細な味は創りだす『才能』がないって事になるんだ。タバコを吸ってイライラを解消させようとしてる人ってのは繊細なものは産み出せないし、産み出そうとも思わない。別にそれが悪いってことじゃないけど、料理には向いてない性格ってことになる。味がキツイものなら、まぁ、普通の主婦並には作れるかも…例えばキムチ鍋とかああいう辛い系」
なるほど。
料理の世界はタバコには厳しそうだな。
確かに味覚とタバコって密接に関係してるらしいからなぁ。タバコ止めたら突然料理が美味しく感じるようになったって話はよく聞くし。
「ところでキミカさんはさっきから何をしていますの?」
「ドトォールのお客様ご意見板に苦情を書き込んでるんだよォォ!!ウヒ…ウヒヒヒヒヒヒ…。コンナ店…潰レレバイイノニ…ヒヒヒヒヒヒ!」
「完全にクレーマーと化していますわ…あ。そういえば、キミカさんにオススメというか、今この瞬間にとても役に立つものがあったりますわ」
「?」
そう言うが早くナツコは俺をどかせてMBAのブラウザ『サファリパーク』を操作して別のサイトに飛んだ。なんだかアンダーグラウンドな雰囲気のサイトには小さな木箱の中に入っている脱脂綿と、その隣にある小瓶が1万円で売られているのが見える。
「『嫌煙ウイルスゥ?』」
英語で描かれている下に日本語で『嫌煙ウイルス』とある。
「いつごろからかわかりませんけれども、体内のニコチンに反応して悪影響を及ぼすウイルスを個人で誰かが開発して、その製造法に従って作って業者が売っていますの。ま、マイクロマシンなどと同じ製法ですわね」
「マジですか…これ、どういう効果があるの?」
「えぇっと…嘔吐、下痢、呼吸困難、目眩などなど。随分前に大流行した『ノロ・ウイルス』を基盤にして作られているっぽいですわね。ニコチンサーチの部分は人が設計してありますわ」
「人はついにウイルスをも制御する力を得たというのか…」
「まぁ、ウイルスそのものが既に病気を治す為の道具として使われているから、こういったイタズラ目的で作る事なんて今は珍しくありませんけれども」
「よし!買ったァ!!」
ナツコはニヤニヤ笑っている。
マコトはいつものように、
「キミカちゃぁぁん…また悪い事を企んでいるね…」
「ティヒヒヒヒ…ドトールの喫煙厨房どもを『マーライオン』にしてあげるよ…口もケツの穴もマーライオン状態に!!!(ゲス顔)」