142 必要悪 6

恭二の葬儀は終わった。
丹波のオッサンは自分が前に行っていた通り、淡々と葬儀に参加していた。費用は全部丹波のオッサン持ちだった。
恭二の子供には身寄りは無かったからしばらくは丹波のオッサンが引き取る事になった。いずれ恭二の子供は児童保護施設へと移るだろう。
俺達は寺に来ていた。
恭二の墓石の前で手を合わせる丹波のオッサン。
ヒロミが後ろから話し掛ける。
「どうするんだ?これから」
「よく言うよ…お前らが滅茶苦茶にしておいてな」
少し笑いながらオッサンがそれに返す。
「いずれはこうなってたさ」
ヒロミが言う。
しばらく腕を組んでから考えた後、丹波のオッサンは言う。
「そうさなぁ…ジムでも立ち上げて、また弟子でも持つかな」
それから、丹波のオッサンは寺を去っていった。
俺達はまだ寺に残っている。
境内にあるベンチに腰を降ろして、そこでヒロミから聞いた話。
俺が戦ったあのドロイドバスターは『御塩学(おしおまなぶ)』。
奴はモデルであり、芸能人であり、アイドルであり、そしてミュージシャンであり、ロッカーだということだ。つまり、それは芸能界に麻薬が蔓延しているということを意味している。
大きな指針となった、とヒロミは言った。
警察がテコ入れ出来なかった業界に進み出る事が出来る、それが今回の事件の収獲だったのだ。
俺はふと、ヤクザの親玉である江田が言ってたあの話を思いだし、そしてヒロミにそれを言う。
『必要悪』という話を。
「まぁ、マクロ論的に言えば、江田が言ってる話は間違っちゃぁいないなぁ。必要悪ねぇ…確かにそれは存在する。警察だって違法にやってる風俗業を取り締まるときの指針は『儲かってるかどうか』なんだよ」
「そうなの?」
「金があるってことは力を持っているってことだ。それが警察の暴力装置としての力を超えるものであれば、潰される。よく警察とヤクザは違うようで中身が同じだっていう話があるよな?」
「…警察の幹部がヤクザの経営している店の店長に就くとかあるし」
「そう。法律がどうだろうと、国民がどうヌかそうと、結局、金の影響力は無視できないんだよな。正義を代表する組織であるはずの警察も金に汚染されることはある。だから儲かってるところを潰す…そうしなきゃ、自分達がヤクザに乗っ取られるからだ」
「警察が乗っ取られてる事例もあるの?」
「あるよォ…表には出ないけどな」
「最悪じゃん」
「力があるものが正義。それはどんなに汚い言葉で罵ったとしても自然の摂理なんだ。だから面白いんじゃねぇーか?なぁ?」
そう言ってマユナにヒロミは話を突然ふる。
しかしマユナは実に楽しそうに答える。
「そうそう。調子に乗ってる馬鹿が死ぬ瞬間が一番楽しいよねーッ!」
うへぇ…さすがマユナさん。イってるなぁ。
「こう考えればいいじゃねぇか。『悪党どもは俺達を楽しませるためにいるんだ!』ってな!俺はいつもそう考えてるぜぇ…」
うへぇ…つえぇなこのオッサン。
「そういえば、芸能界にテコ入れって言ってたけど、」
「あぁ。うん。それは話しておきたい事だな…まずは…」
「?」
「まずは芸能界についてだ」
「はぁ…」
「そうさな、芸能界…っていうのは、そもそもヤクザが始めたものなんだよ。『興行』ってわかるか?」
「芸とかして人を楽しませることだよね?」
「そう。そもそもこの日本には興行って『職業』は最初は無かった。生活には必要ない仕事だからだ。でも、文明が発達してくると生活にも余裕が出来てそういう分野にも力を入れる事ができる。ヤクザってのは金があるところに匂いを嗅ぎつけてやってくるもんでな、興行で金を取るって考え方を始めたのも奴等なんだよ。それが発展して、今の芸能界がある…。例えば、お前2chとかしょっちゅうみてるよな?」
え、ちょっ、何、俺を2chネラーとか勝手に言ってるんだよ。
俺は一般市民だよ。
「しょっちゅうじゃないよ?」
「…まぁ、とにかく。お前は2ch知ってるよな?」
「うん」
「これにもヤクザが関わってるんだぜ?」
「嘘ォ…2chは有志によって成り立ってる、はずじゃん?」
「それは最初の話だろ?広告収入とかの半端無く膨れ上がってきてるからな、つまり、そこには金がある。金があるところには?」
「ヤクザあり?」
「そういうこと!2chのまとめ系サイトなんて全部ヤクザが仕切ってるんだぜ。そりゃぁ、最初の頃はお前がいうような『有志』ってのはいたけどな、もうとっくの昔に始末されてしまってるよ」
「し、始末ゥ?!」
「その有志が広告収入を得て儲けているのなら、別の『ヤクザ』のまとめサイトが同じ様に広告収入を得て儲け、対抗するサイトを潰す。つまり、サイトの管理人を殺すって事だ。管理人が自衛できるぐらいの経済力・暴力装置を持ち合わせているのなら話は別だけど、そんなのを個人として持ってるのはヤクザぐらいだろ?つまり、最後は『有志』はいなくなり、ヤクザだけが支配する」
法治国家なのに…」
「ムカつくだろ?」
「ムカつく」
「なら俺達と一緒に来いよ!来ればわかるさ!」
な、何がわかるっていうんだ…?
誤魔化すようにプロレスラーの名台詞言わないでくれよ。
マユナはヒロミにあわせて「おー!」とかやってるし。
「ほら、AK48の踊りとか練習しとけよォ?」
「はぇぁ?!」
な、なんだ?
…嫌な予感がするぞおい!!
「芸能界の荒波にレッツラゴーだぜ!」
「おー!」
ちょっ、お前ら、マジで…?!
「次の任務からはお前はAK48の一員として芸能界に潜り込んで貰う。徹底的に暴れてもらうぜ!もちろん、暴れるのはお前だけじゃない、俺も暴れる、マユナも暴れる!!」
「マユナもAK48だよォ!」
「嘘ォ?!」
嫌な予感は的中した…。
次の任務がいつになるのかは知らないけれども、少なくとも俺はAK48への入団が決まってしまった…。