141 ファイト・クラブ 4

さっそくなのだが、試合が開始されるようだ。
俺達が案内されたのは小さなバーのキッチンの奥。
そこは待合室のようになっている。まさかこんなバーが地下格闘技場への入り口だとは誰も思うまい…。
さっそくヒロミやマユナは喫茶店の位置を持っているハンディタブレット端末へ記入したり、室内に盗聴器などがないか確認している。それがないと判断すると写真を撮りまくっている。もう今にも麻薬調査犬を走り回らせようとでも言わんばかりの勢いだ。
一方で俺はタンクトップにハーフパンツというボクサーっぽい服装に着替えている。さすがにおっぱいがプルンプルンとなるとそれで相手を魅了して勝ってしまいそうになるのでブラをしておく。
身体にはプロテクターなどはしてはならない、というルールだ。だから実際の試合はボクサーの殴り合いのように長時間に渡ることはないという。どっちかが死ぬかノックアウトされるかで勝負が決まるのだ。
その待合室に丹波が駆け込んでくる。
「次の試合の相手が決まった!!外人だ!チョン野郎だ!思いっきり殺していいぞ!二度と日本の土は踏ませるな!」
興奮気味にまくし立てる丹波
何を興奮しているのかと思ったらその理由は続きにある。
丹波は続けて言う。
「クソチョン野郎が!俺の女を寝とりやがって!いつかぶっ殺してやろうと思ってたんだ!てめぇが日本の女と寝ていい理由なんて世界がひっくり返ろうがどこにもありゃしねぇんだよ!ヘッ!こんなちっこいオナホみたいなガキにぶっ殺されると思うと興奮がやまねぇ…よし!時間だ!」
そう言うと丹波は俺の小さな腕をギュッと握って引っ張っていく。店の奥、地下に続く階段が現れ、その先の倉庫みたいな場所を超えると歓声が聞こえ始めるのだ。いよいよ地下格闘技場のお出ましか。
中は意外に広い。
小学校の体育館ぐらいある広さの円形の場所に大勢の人間が押し込められている。リングは勝負の面白さを広げるためかプロレスリングよりかは広い造り。
既にその真中に俺の対戦相手が居て落ち着きのない熊のようにウロウロしている。その男は身長は背が高くなる病気じゃないかっていうぐらいに大きく2メートルは軽く超えている。顔は長くて動きはノロそうなイメージはある。
それで生意気でなければまだ善人にも見えるのだが、俺を見るなり肩を竦めて「おいおい、こんな奴と戦うのかよぉ?」と言いたげに会場にジェスチャー。会場に笑いが起きる。
俺は笑われながらリングの上に上がった。
もう小学生 vs 巨人ぐらいの戦いになっている。
そのシチュエーションを見るだけでコメディ映画の1シーンだ。笑いが起きるのは当然として、対戦相手までも俺の小ささ(身長140〜150ぐらい)に大笑いしているのだ。
外国人だから日本語は殆ど話せないのだろう。俺に向かって言うことと言えば、「家に帰れ」だの「チビ」だのだ。不慣れな日本語が並ぶ。
ここは相手の挑発に乗らないのがヒーロー。黙って相手を殴り倒し、勝利を得る。すると会場は驚きに湧くのだ。…が、俺はあいにくそんな『我慢』をするような人間じゃない。
ペロンとハーフパンツを下げてパンツまで捲り、白いプリンとしたケツを見せると(ペシッペシッ!)とおしりペンペンして相手を挑発した。
相手の朝鮮人は「こいつ、俺を挑発してるのか?(笑)」とでも言いたげな表情とジェスチャーで会場をまた沸かせる。笑い声が起きる。
レフリーがいい加減にしろ、的な顔で俺達を見てる。
それからすぐ、試合開始のゴングがなる。
一気にぶっ殺そうと思ったけど意外に反応が面白そうなのだ。コイツが自分が負ける!と思う瞬間、どんなリアクションするか見てみたくなった。
「殺っちまえ!殺せ!外人野郎を殺せ!」
などと丹波は怒鳴っているが俺はその外人野郎に指を付き出して(クイッ)とかかってきなさいという合図を送る。
すると、巨人のようなその朝鮮人は一歩(と言っても滅茶苦茶歩幅が長い)を繰り出すと、そのままの体勢でストレートパンチを俺に食らわせる。相手が女だからと顔は狙わずに腹を狙ってくる。
体格差があるからグラビティコントロールを使おうと思ったけど、使うまでもなさそうだな。俺はその腕を見切って肘鉄をうでに喰らわせ、心眼道のフォームで奴の力点をずらして、俺のカウンター攻撃を有効にするようにした。半回転させ、懐に俺の小さな身体が入ったかと思うと、防御が完全にがら空きとなっている奴の腹にタックルを食らわせる。
本来ならこんな小さな子供の食らわせるタックルは大人なら手や汗でガードすることで防いでしまう。しかし、懐に入って防御の体勢になっていない人間にはこのタックルだけで致命傷を与えることになる。体重を全て掛けたタックルはボクサーのパンチよりも重たいのだ。
身体が跳ね飛ばされてリングロープにのたれる朝鮮人
苦しそうにお腹を押させている。
これも心眼道の必殺技、横隔膜殺し。
衝撃波が横隔膜を震わせて一時的に麻痺させる。
そうすることで呼吸が出来なくなるのだ。
会場が静まり返る。
『何が起きたのだろうか?』というのが観客達の心の声だ。
その小さな女の子の身体が巨人の懐に隠れたかと思うと、巨人の身体は吹き飛んで、リングロープで小さく呼吸をしているのだ。
ここで力の差を知るのが武闘家だ。
こいつには絶対に勝てない…だからここは負けを認めて許しを請うて、次の戦いに望むのが武闘家だ。しかし、やはりこの朝鮮人は武闘家ではなかった。これだけの体格差があるのだから、きっと俺の攻撃はたまたま嫌な箇所に当たっただけで『自分のミス』だと勝手に思い込む。
脳が麻痺しているのだ。
だから俺に再び向かってくる。
身体を屈ませてタックルの姿勢。俺が反撃に転じたとしても奴の体重が小さな女の子の身体ののしかかってくればそれに反撃するには痛手を追う。それはもう宇宙の法則だ。だからあくまで奴の身体の力を利用して、奴に痛手を負わせる。
力点をずらすためにタックルが俺の射程範囲内に入る直前までひきつけておいて…少し身体を斜めに構えて、このままッ!!親指を!こいつの!目の中に…つっこんで!殴りぬけるッ!
奴は自分に何が起きたのか理解出来ていない。
俺の斜め横をすり抜けた後、リングの中に倒れて「あれ?ここどこ?」的な顔でキョロキョロと周囲を見渡している。観客だって何が起きたのかわかっていない。それもそのはず。俺は奴のタックルが俺にキマる直前まで動かなかったのだから、客の動体視力ではもうタックルは俺にキマっていると脳が勘違いするのだ。
奴は自分の片方の目から血が出ているのを見て朝鮮語で何か呟いている。きっと「目から血が出てる」とか言ってるに違いない。
奴の顔色はどんどん変わった。
チョンが日本人相手にふぁびょるように、顔は真っ赤になって目が座り、もう思考よりも身体が先に動くぐらいの勢いで。それでも何度か俺に攻撃を回避された経験からか、今度はリーチの長い蹴りを食らわせてくる。
しかし、その身体の大きさで蹴りを食らわせると、自分の重たい足を振り回す為、余計なところで体力を使う割には早く動けないのだ。相手が蹴りをただ防御するのなら圧倒的な攻撃力があるのだろうが、俺の取得している心眼道はカウンターが基本の武術。相手が強力でトロい攻撃をしてくればしてくるほど、それはより強力な攻撃となって相手に跳ね返ってくる。
蹴りを回避、その足を掴んで俺自身の体重で奴の身体のバランスを崩させる。まさか足を掴んでくるとは予測していなかっただろう。予測していたのなら、そのまま俺ごと振り回す事などして防御していただろう。が、予測していない時の人の筋肉は非常に脆い。
奴の身体はバランスを崩してマットの上に倒れる。
そのまま俺の身体が絡みつく。
女子高生の白くてすべすべした肌が密着するのは、オッサンには非常に嬉しいサービスだろうが、残念ながら絡みついたら最期、骨と骨の繋ぎ目を切断するまで離さない…。
俺の関節技がキマった。
これも心眼道の武術の1つ、相手がもがけばもがくほど強烈に締まっていく寝技。案の定、ギブアップするわけでもない、俺も相手が『ギブアップ』と言っても朝鮮語ならそれは聞き取れない。
(ベキッ)
右足の関節からピンクや白の、骨と骨を繋ぐアレが飛び出る。
会場から悲鳴が聞こえる。
手羽先をへし折るように、俺の関節技は確実に奴の足をへし折った。
レフリーは俺を恐怖の目で見ているだけでカウントを取る気配がない。
「何やってんの?殺してもいいの?」
と俺が言う。
俺の小さな足は朝鮮人の頭に置かれている。
このまま踏みつぶしても踏み潰せはしないが、パフォーマンスとしてはいいだろう。アレだけ巨大な男が俺を凌駕していた、はずなのに、今はこの小さな美少女のあんよ(足)の下に巨人の頭があるのだから。
レフリーは朝鮮人の顔に自分の耳を近づけて、ギブアップなのか?っていうのを朝鮮語らしき言葉で聞いている。
巨人は涙を流しながら、何か朝鮮語でブツブツと言う。
「ギブアップ!!勝者!キミカ!!」
俺は初勝利を『ノー・グラビティコントロール』の状態でキメた。