141 ファイト・クラブ 3

「おいおいおいおいおい!!誰が店のガラス窓まで壊せっつたんだよ!あーあー!!!店の前にある車まで滅茶苦茶じゃねぇか!!」
ヒロミは俺の肩を掴んでガタガタ揺らしながら叫んだ。
身長が140センチかそこらしかない小さな女の子である俺は高級ダッチワイフのように軽々と持ち上げられると痙攣するかのようにガタガタ揺らされる。
「壊してもダイジョブって言ったじゃんかぁ」
と震える中で言う俺。
「壊していいのは店の中のアーケードマシンだけだって言っただろう!」
「手加減が難しいんだよね」
店を滅茶苦茶にしたが、確実に丹波のオッサンは俺の事を認めたようだ。
俺の腕を掴んできて「こんな、インポ野郎のペニスみたいな腕のどこにそんな力があるんだァ?!」と驚いている。
しかし、驚いているのはヒロミも同じだ。俺のほうにではなく、店の中に入ってきたヤクザっぽい男2名に。
「何さらしとんじゃわりゃァァァァ!!」
凄まじい声が店内に響く。
さっきの違法駐車していた車から出て来たと思われる男二名、一人はハゲで背が低く腰に腹巻を巻いてる男。一人は身体が大きく背も高い、サングラスをしている渋い男。
喚いたのは小さい方だ。
「お前かぁ?ォォァァァ?!」
喚いてる男はパンチングマシーンの前にいる俺達の方にすかさず近寄ってくる。そりゃパンチングマシーンから先が瓦礫の山になっているからな。どう考えても俺達が何かやったってバレる。そして、普通に素人目に見ても殴ったのは丹波のオッサンだと思うだろう。滅茶苦茶腕が太いからな。喚いている男はやっぱり素人目であって、すぐさま丹波のオッサンにナイフを付き出してくる。
「違うよ、こっちの小さい女の子のほうだよ」
と言ったのはマユナだ。
ヒロミは「アチャー」という顔をしている。
「あれ?ちがうの?」
とかボケってるマユナ。
喚いていたヤクザの小さい方は「本当にコイツかァ?」というような疑わしい目で俺のほうをジロジロ見ている。それから俺に近寄ってきて髪の毛を軽く触ってから、
「この女、かなり稼げそうですぜ、アニキ。車も弁償してくれなアカンしなぁぁ??ソープに流したろかコラァ!」
とか言い出す。
俺は俺の髪を触っているそのチビのオッサンの手を軽く掴み思いっきり捻る。これは合気道でもあり、心眼道の体術の1つなのだが、わざわざコイツに体術をするのも体力の無駄だ。俺はグライビティコントロールでさらに捻り上げて雑巾絞りのように筋肉をブチブチと破壊した。
勢い良く血が噴き出る。
その血も俺に返ってこないようにグラビティコントロールで防ぐ。
そして男の手はズルリと骨と分離される。
「う、うわぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!」
「うるさい。黙れ」
軽くジャブを男の喉元に叩きこむ。
パンッ!という音と共に、喉が真っ赤になる。
声帯破壊のジャブである。
「カハッ!アガガッ…」
と苦しそうに蹲って口から血を吐く。
もう一人のヤクザはそんなとんでもない体術を喰らわしてくる俺に恐れているのか、逃げるかそれとも戦うかを迷っているようだ。懐に手を突っ込んでいるところを見れば次の武器は『普通の人間なら勝てる』であろうハンドガンだ。
俺もそれを見ていた。
ヒロミもマユナもそれを見ていたので今にも懐からハンドガンを出せる体勢になっている。一方で丹波のオッサンは冷や汗でびっしょりだ。
「二人とも、ここはあたしに任せて」
「いや駄目だ。これ以上暴れたら色々と問題になる」
「え〜…。そこの奴も傷めつけてやろうと思ったのに」
もう勝てないと思ったのだろう。逃げても殺られると思ったのだろう。背の高いほうのヤクザは袖から手を出すとそれを上に上げて、自分は無抵抗です、というのをアピールしている。
それからそのヤクザの男は、
「アンタ、丹波のオッサンだろう?コイツは何なんだ?こんなバケモノをアンタはファイト・クラブに入れようとしてんのか?」と言った。
どうやらコイツも地下格闘技について詳しいようだ。
「…俺もビビってるよ。こんなバケモノ、今まで見たことがねぇ…。久しぶりにチビりそうになったぜ」
って、前にもチビった事があるのかよ。
ヒロミは再び丹波のオッサンに聞く。
「どうするんだ?アンタのスコアは上回ってたよな。まさかマシンが壊れたから今のは無しって事になるんじゃないだろうな?」
丹波のオッサンはヒロミの話は聞きながらも俺から目を逸らさずに言う。
「ンナことはしねぇよ…こんなバケモノと出会うチャンスなんざ一生に一度あるかどうかだ。しかもソイツがファイト・クラブに出ようってんだ…それこそ大物美少女アイドルがソープランドでオッサンのケツの穴舐めまわすぐらいの千載一遇の好機だ。俺は何でもするぜ。ケツの穴の中でも犬の糞のついた靴の裏でも舐めろと言われりゃ舐めまわすぜ」
いや、どちらも舐めてほしくはないけどね…。
というわけで、決定かな。
俺はファイト・クラブに出場する権利を得たわけだ。
話は纏まりつつあるが、ここで全く関係ないように思えた、ヤクザの背の高いほうが丹波のオッサンに向かって言う。
「オッサン、昔のよしみだ、俺にサポートさせてくんねぇかな?」
サポート?…金銭的なサポートか。
丹波のオッサンは俺の顔をちらりと見る。
俺がヤクザが嫌いなのを察知しているようだ。
「まぁ、いいけど、少しでもこのあたしに無礼を働くようだったら、その場で殺すから」と俺は拳をポキポキと鳴らしながらサングラスのヤクザを睨む。
たらーっと冷や汗がそのヤクザの額を垂れる。
「わ、わかった。さっきの俺の部下の無礼を許してくれ」
誰かが呼んだのであろう救急車や警察などがゲームセンター前の駐車場に集まりはじめた。
俺達は腕の肉と骨が分離したそのチビヤクザを置いてそそくさとその場を後にした。