140 戦車の洗車 5

砂浜があった。
そしてそこにはビニールシートが4枚敷かれている。
それぞれのシートの上に美少女が4名、寝転がっている。
俺、そしてマコト、メイリン、ソンヒの4名が。
今は12月だった。
ほんの10数メートル離れたら12月の冷たい風が吹く。ヘタすれば雪も降る。でも、この空間だけは南国だった。
ちなみにソンヒもビキニ姿となっていた。俺にビキニを貸してあげたんだけど、ブカブカだったので結局、そこらに転がっているコンクリートを物質変換の力でビキニに変えて、それを着ている。
「ご、ご注文の…スムージーヨーグルン・アップルと、トマトです…」
「うむ、ご苦労ニダ」
「ありがとう」
ドトォール店員が持ってきたジュースを受け取るソンヒとメイリン
マコトが寝転がり、寝返りをうって俺に向いて言う。
「キミえもぉーん」
ったくマコトはしょうがないなぁ。
「なんだいマコ太くぅーん」
「テレビとかある?」
「しょうがないなぁ、マコ太くんは〜(ゴソゴソ)」
俺はキミカ部屋(異次元空間)からあるモノを取り出して叫ぶ。
「テレレレッテレー!『プラズマホログラムビジョン〜!』」
しかし、ふとここには電源がないことに気づく。
もちろん戦車(タチコマ)のバッテリーがあるわけだけど、プラズマホログラムビジョンは電源を食うからタチコマが嫌がるんだよなぁ。
「ソンヒ、ソンヒ」
「ナニカァ?」
「ちょっとドトォールから電源拝借してよ」
「ったく、しょうがないイルボンニダねぇ…」
ソンヒは仰向けに寝たままの状態で掌を地面にそっと添える。すると、ソンヒの掌の下の砂がコードに変化して、どんどん伸びていく。伸びて伸びて伸びて、最後はドトォールの分電盤に装着。
「てやー!すいっちおーん!」
プラズマホログラムビジョンのリモコンでスイッチオーン!
美しい映像が俺達の目の前にホログラムとして表示される。
ドトォールのほうから悲鳴が聞こえる。
見れば店内が真っ暗になってた。
「あ」
「何してるニダ?」
「ドトォールの分電盤に着てた電圧は相当低いみたいだ…きっとコストカットを激しく行った末路だね…南無阿弥陀仏…しょうがない、タチコマに繋ぐかぁ。ソンヒ。このコードの先端のジャックをソケットに変換して」
「ん」
ソンヒは面倒臭そうにあんよ(足)の指の先でツンと俺の持っているコードに触れる。するとコードの先端はどんどんカーソケットに接続するタイプのジャックへ変わっていく。これでタチコマに接続できる。
「え、ちょっ、やめてよねー!」
「後で充電しとくからー!」
嫌がるタチコマのお腹のところにソケットを潜らせて、そして挿す!
「ずぶり」
「アーッ!」
変な声をあげるんじゃないよ、ったく。
タチコマ電源でプラズマホログラムビジョンが点灯。
安心したマコトはテレビを見ながら、ぽかぽかと温かい中でゆっくりとまぶたをおろしていった。いつもの事なんだが、何か嫌な予感がするぞ。
その時だった。
突然マコトの身体が赤い光に包まれると、その身体はどんどん変身前の状態へと変化していくではないか…。
「え?ちょっ、何?!」
それを見て驚く俺。
「ど、どどど、どうなってるニカ?!」
フィールドがどんどん小さくなっていくような気がする。あっちゅぅまに12月のクソ寒い空気がビキニだけの俺達の身体を包んでいく。
「さ、さむさむさむ!さむさむー!!さむそーん!」
ガタガタと震えるソンヒは変な言葉を放ちながらダンゴムシのようにビニールシートの上にくるまる。
「カチカチカチカチカチカチカチカチ」
凄まじい歯と歯が噛み合わさる音がしたと思ったら俺の隣でメイリンが歯をかちゃかちゃ鳴らしている。もう身体が危険域と判断して全力で自らを震わせて熱を発せようとしている。
しかし12月のクソ寒いなかでビキニになっているとは思いもよらないのだろう。そういう意味では既に脳は危険域に到達していた事になる。
「マコト、起きてよ!寒いよ!!」
マコトを揺するがいっこうに起きる気配がない。それどころか、
「…キミカちゃんの中、温かいなりぃ…」
などとイカれてる。
「何言ってんだよマコト!!寒いってば!」
ダメだコイツなんとかしないと。
っていうか、起きない!
変身が解けたから最低限度のエントロピーコントロールしか作動してないぞ!最低限度エントロピーコントロールは無意識下でマコトの身体の周りのみ温めてるのだ!なんて自分勝手な奴なんだよ!凍死させる気か!
「マコトの身体、温かいぞ!」
さっそくそれに気づいたメイリンがすかさず抱きつく。
俺も負けじと抱きついた。マコトの体の周りだけ温かい。
「ズルぃニダ!ウリも抱きつかせろニダ!」
ソンヒも抱きついてくる。
12月の寒空の下、ビキニ姿の4名のバカが身体をくっつけあって寒さをしのいでいるという光景がそこにあった。
「ちょっ、ソンヒもうちょっとズレてよ、あたしが入れないじゃん」
ぐいっとソンヒを外に押し出そうとする俺。
「ひゃ!!背中がちめたーい!何するニカ!!」
どうやらソンヒの背中あたりがエントロピーコントロール制御下のギリギリラインらしい。俺は面白くなってグイグイ押していく。押して押して押しまくる。
「許さないニダ…!」
ソンヒが押し返してくる。
メイリンが押し出される。
ガタガタと震えるメイリン
「ウェーハハハハハ!脱落者ニダァ!…ッツゥ!!さむぃ!さむぅーい!!一人脱落したハズなのに、どんどん寒くなってるニダ!」
エントロピーコントロールの範囲が狭くなってる!マコトの身体の1ミリぐらい表面しか暖かくない!」
俺とソンヒは発狂しながらマコトにしがみつく。
しかし俺もソンヒもいよいよ生命の危機を知った。馬鹿らしくなって脱ぎ捨てた服を着たのだ。まだ暖かそうに寝てるマコトを俺はグラビティコントロールで抱えた。
もう帰ろう…。
俺はキミカ部屋(異次元空間)へタチコマを格納した。
「ったく、やっぱりロクな事にならないニダ!」
「うるさいなー!そっちも楽しんでたくせに!」
などと最後にはお互いに馬鹿だの犬だの言い合ってから、後、家路についた。
そろそろ家に到着するかという時、俺は思い出してしまったのだ。
「やっべぇ…」
マコトを玄関に寝転がせて、上にコートを被せながら、俺は久しぶりに冷や汗を掻いていた。正月早々、冷や汗を掻いていた。
メイリンを転がしたままだ…。
ドロイドバスターに変身した後、急いでドトォールのあるガソリンスタンドへと飛んだ。降下する時、下の方に救急車が止まってて、ビキニ姿のメイリンがガタガタ震えた状態で担架で運ばれているのが目に入った。
ここで俺が出て行けば関係者だとバレて色々大変な事になる…俺は、メイリンに向かって軽く敬礼すると、そのまま、上空を通り過ぎた…。
担架で運ばれるメイリンは震えながら俺の方を指さしていた…。