140 戦車の洗車 2

洗車場と銘打つものはいくつも市内にあるのだが、どれも車を洗うための場所であって戦車が入れるようなスペースはない。仮に俺が無理にキミカ部屋から転送したとしても周りの建物をブチ壊しながら登場するだろう。
で、俺が目をつけたのはドトォールが併設されてる喫茶店つきのガソリンスタンドだった。ドトォールの客も来るから駐車場が結構広いのだ。
「んじゃ、ちょっとドトォールでドヤって来るから、飽きたら洗車しましょ」と言って俺が店内に入ろうとする、のをマコトが止める。
「キミカちゃん、駐車場がどんどん埋まっていってる」
「げ」
ったく、正月早々こんな喫茶店にくるんじゃないよもう…初売りにでも行ってこいっての。くそー!
仕方ない。
俺は駐車場のど真ん中でタチコマを召喚した。
「口寄せの術!」
キミカ部屋の中から巨大な戦車タイプのドロイドが現れる。車から出てきたおばさん達が「ひぃぃゃぁぁ!」とか変な悲鳴をあげて逃げ出す。
さっそくだが、洗おう。
しかしこれだけの大きさだと埒があかない。
「このカーウォシャーって奴を使おうよ」
マコトが操作しようとしてるのは車用の洗車マシンだ。洗車対象の車をトンネルに潜らせて洗う奴なのだが、なんとかタチコマをここに潜らせて洗えないもんだろうか。かがめばなんとかなるんじゃないのか?
「え、ちょっ、どう考えても無理でしょそれ、おかしいよ?!」
タチコマは俺が「ここに潜って入れ」というジェスチャーをするのを見て、思いっきり反論してくる。
「無理だ無理だ思ってるから無理なんだよ」
「物理的に無理じゃん!!おかしいよ絶対!!」
ったくうるさい奴だなぁ、戦車の癖に。
「いま、戦車の癖にうるさい奴だなって思ったでしょ?!」
「思ってないよ!」
「絶対思ったよ!顔に出てたよ!」
「『うるさい奴だなぁ、戦車の癖に』って思っただけで『戦車の癖にうるさい奴だな』とは思ってないよ」
「同じ事じゃんかァ!!」
「じゃあどうやって洗えばいいんだよ」
「そりゃ姫がボクの上をグラビティなんとかで飛び回って、水を撒いて洗えばいいと思うよ。手洗いが一番綺麗になるんだ。傷もつかないしね。あ、ワックスもお願いね、ボク、水垢がつくのが一番嫌なんだよ。せっかく洗ったのに水垢がついてすぐにまた洗わなきゃいけないのも嫌でしょ?」
「却下です」
「ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇええぇ?!」
「なんか面倒くさそう」
「当たり前じゃんか!当たり前田のクラッキング講座だよ!」
ったくユウカみたいな事を言わないでくれよ。
あぁー面倒くさいなぁ…。
俺は手洗いの人達の為のホースを持ってきた。そしてそれでタチコマの足のほうから水をまき散らしていく。マコトもどこからかもう一本ホースを持ってきて俺を手伝ってくれている。
「あー、手が冷たいよォ…」
こんなに寒いとホースから出ている水が凍らないか?指がちぎれるんじゃないかって言うぐらいに冷たいんだけど。などとしていると、いよいよタチコマの足の部分は洗い終えたわけですが…。
「さて。終了と」
「おいぃぃぃぃぃ!!」
タチコマが戦車の癖に激しくツッコミを入れてくる。
「なんだよ…」
「足しか洗ってないじゃんか!そこはいつも地面にこすれてるから綺麗なの!もっと汚いところがあるじゃんか!」
「もっと汚いところ?えっと…肛門はこのへん?」
「ちがーう!!!戦車に肛門はないの!!」
タチコマが手(ガトリング砲)を空に向けて差して「飛べ、飛んで水を掛けろ」というジェスチャーをしてくる。ったく、俺のグラビティコントロールはお前を洗うためにあるんじゃないっての。
いや、待てよ…。
何も俺が飛ばなくてもタチコマをひっくり返せばいいんじゃね?
あぁ。名案だ。
それ、いいね!
俺はホースをその場に放り投げ、精神を集中させる。
「き、キミカ姫ぇ?」
タチコマが俺に言う。
「ちょっと黙ってて。フォースが乱れる」
「って、何をしてるの?!うわッ!身体が持ち上がろうとしてるんだけど!」
「フォースはお前と共にいる。いかなるときも…」
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
1ミリだ。
1ミリだけ上昇した。
「凄いよキミカちゃん!1ミリだけ重たい戦車が押し上がったよ!」
マコトが喜ぶ。
しかし全然ダメだ。俺的にはダメだ。
「…変身しないとダメかぁ…」
などと言ってる俺にタチコマが、
「そもそもひっくり返して洗おうって発想がダメすぎるよ!!」
「ったく、しょうがないなぁ…」
俺は俺にかかる重力を少なくしてぴょんと戦車の上方へとジャンプ。水を掛ける。それから戦車の足をぴょんぴょんと飛び跳ねながらも水を掛ける。掛ける。掛けまくる。そろそろ終わりにしようかなと思ったその時だった。
「ブッ」
思いっきり俺の上半身に冷たい水が掛かった。
「あ、ご、ごめん、キミカちゃん…」
「マァコォトォ…」
思いっきり俺に水をかけやがった。手伝ってくれるのは嬉しいけど俺が飛んでる最中も水を撒かなくてもいいんだよ!!
ビショビショになってブラウスが透けてピンクのブラがスケスケに見える。それを見てマコトは興奮気味に、
「き、キミカちゃん…セクシーだね」
と顔を赤らめて言う。
(ガタガタガタガタガタ…)
俺は全身で体温をあげようと自動的に震えはじめた。人の身体とはよくできているものだ、などと思っているのも束の間、さらに冷たい12月の風が俺の身体を強く吹き付ける。自然とは時として残酷だ。
「ぼ、ボクが温めてあげるよォ!」
マコトが駆け寄ってきて俺の身体を抱きしめる。
でも全然暖かくならない。
「これじゃダメだ!布団が、布団が必要だよォ!!」
「マコト…マコトの(ガタガタガタガタ)エントロピー…コントロールで(ガタガタ)暖かくすれば…いい(ガタガタ)じゃん…か…よ…ォ…」
「!!」
マコトは無言で「ナイスアイデアだね!」というジェスチャーをしてから、掌から炎をだす。確かに、それは温かい。温かいけど…
全然、その…なんていうか…
火力弱くね?
「さ、むい…」
「待っててよ!もっと強めにするから!」
そう言ってマコトはドトォールの中へと駆け込んでいった。
何をするつもりなんだ?まさかベッド借りてくるとかじゃないよな?