139 白子のコミケ 6

コミケ会場に降り立つ俺、マコト、そしてエルナの3名。
「す、凄い、空を初めて飛びました!感激ですゥ…」
目を潤ませながら俺の手を握って喜びを表すエルナ。
「それで…どこで情報を知ったの?今回の作戦にドロイドバスターが参加するって話」
「えっと、ピクシーブってご存知ですか?」
ピクシーブ?
あぁ、絵師さんが思い思いの好きなキャラの絵を載せるネット上のサービスか。Vipper板にもペタペタその同人誌系の絵が貼られてオナニーのネタとかにされちゃったりしてるっけ?
かくいう俺も何度もお世話になってるサイトだけれども、ピクシーブそのものの中身までは念入りに見ることはない。あそこは上手い人も下手な人もいるから全部見て回るのは時間の無駄なんだよね。
「知ってるよ」
「そこで絵師さんの一人がコミケに本物のキミカが来る!って言ってたんですよォ…もう、今日の今日だから興奮しちゃって思わず駆けつけて並んでしまいました!」
「今日の、今日ゥ?」
俺も今日の今日だよ。
どっから情報が漏れたんだ?
マコトがエルナに聞く。
「いつ頃の話です?」
「ん〜…今朝かなぁ?」
俺とマコトは顔を見合わせてから首を傾げた。
3人はそれから先程の『白子のバスケ』ブースへと足を運ぶ。
現れた俺達に気づいてミサカさんは手を振って、
「どうしたのよぉ〜!早く早く!始めるわよ!」
などと呑気に言っている。
「ミサカさん。なんか情報が漏れてるらしいんだけど」
「ん?」
「ここにいるマスコミの人、ピクシーブであたしがここに来ることを知ったって言ってるよ。どうなってるんだよォ!警察の情報管理!!」
「あれぇ?おかしいなぁ…この事を知ってるのは通報してくれた白子のバスケの売り子さん達だけなのに…」
いや、そっから漏れただけだろう。
俺はジト目で白子のバスケ売り子連中を睨む。みんな目を逸らす。どうやらピクシーブの絵師も何人かここに含まれているようだ。
「それで、作戦って何をするの?」
とりあえず話を進めよう。
「会場に設置した隠しカメラで怪しい奴がいたらかたっぱしから捕まえるのよ!キミカちゃんはそれに立ち会ってもらうから」
「えー!」
なんだよその原始的な作戦は!
「だいたい怪しい奴って、このコミケに来る時点で十分社会的に怪しい奴じゃん」
「それ以外に方法ないじゃない?」
いやまぁ…そりゃ…そうだけどさ…。
「それに、」と付け加えるミサカさん。
「ほら、こんな犯罪級の同人誌を扱う場なんだから、荷物検査やってちょっとでも倫理的に問題がある本を買ってたらそれを理由で署まで連行できるわー」などとニコニコしながら言う。
最低だ…刃物市で銃刀法違反を理由に客を捕まえるぐらい最低だ…。
ニコニコしているミサカさんの隣に彼女の部下らしき男が近づいて耳打ちする。訝しげな顔でそれをひと通り聞いてから、
「なんかまた、犯行予告が入ったみたいね。ピクシーブの白子のバスケの絵師さん宛にね」
「最初の犯行予告もそうだったの?」
「最初は絵師さんのところに入ってて、それは去年とかね。今年はコミケ運営事務局宛に届いて、で、今さっき絵師さんのところにも」
「ふぅ〜ん」
「『ドロイドバスター・キミカを呼んでも無駄だ!』って予告が入ってるみたいよ!」
なぜそこにマコトの名前がないのかという話は置いといて…。
いや、置いとけない人が俺の隣にいる。
「なんでドロイドバスター・マコトについては言及されてないんだよォォ!!!ボクだって頑張ってるのに…今日来たのがノーカウントされるのは地味に辛いんだけどォ…」
「まぁ、給料貰えるからいいじゃん、ね」
と俺はマコトを宥める。それから…
「で、この犯人さんは…このあたしに喧嘩を売っちゃってるわけね。…もし、この会場に犯人がいるのを見つけたら…」と、俺はグラビティコントロールで白子ののバスケのホモ同人誌を引っ張りあげて、グラビティブレードで八つ裂きにした。それから、それらをマイクロブラックホールで吸い込む。
「こんな風に始末する」
マコトが隣でニコニコしながら拍手する。
「もちろん、首だけを残して死ぬ直前まで全力で痛みを感じさせてあげる…あたしの年末の貴重な時間を潰した罪は重い!」
大慌てでミサカさんが俺を止めに入る。
「き、キミカちゃん、殺してもいいって言ったけど、そんな残酷な方法は止めてよォ…前にあなたがテロリストを殺害したシーンが未だにトラウマなんだけどォ…」
冷や汗を掻きながらミサトさんが言う。
ふと、俺はその時に白子のバスケ売り子連中をジロリと見ていた。そもそもこいつらが俺を指名しければ面倒くさくて的中率の低い人海戦術しなくてもよかったのに。
ん?
なんか、一人だけめっちゃ焦ってる奴がいるな。
さっきのメガネかけたデブの売り子じゃないか。
なんとなくわかったぞ。コイツが俺を呼んだんじゃないのか?
もう少しビビらせてやるか…フヒヒ…。
「分かった…」
俺は目を瞑ってそう言う。
「へ?」
ミサカさんが俺に反応する。
「わかったって、何が?」
マコトも俺に聞いてくる。
「犯人はこの中にいる!!!!」
俺は叫んだ。
(ズゥゥゥーン…)
俺は、俺達は、一瞬何が起きたのかわからなかったよ。
さっき冷や汗を掻いてあたふたと大慌てで焦りまくってたメガネデブの売り子が突然ぶっ倒れたのだ。
ちょっとやり過ぎちゃったかな?
「あー…びっくりしたぁ…」
マコトが驚いている。
「どういう事なの?犯人がこの中にいるって?」
あら、まじめに俺の冗談に付き合ってくれてるのか、律儀な人だねぇ、ミサカさん…。きっとそんな性格だと職場とか色々と仕事を押し付けられて…ウゥッ…働いていない俺でも働いてるミサカさんの辛さがわかるような気がするよ…。
「ちょっ、心配そうな顔で見ないでよ…まだ疲れてないわよ」
顔を赤らめるミサカさん。それに続けて、
「で?どうして犯人がこの中にいるって思うの?」
「え?いやまぁ、その…灯台下暗しっていうか…なんていうか…ほら、あたしが『犯人がこの中にいる!』ってカマかけたら一人だけ顔真っ青にした人がいたから。ソイツが犯人じゃないかなぁ?って」
全員が一斉に倒れたメガネデブを見る。
それからミサカさんは俺に向かって言う。
「ナイスアイデアね!それ、やってみましょ!」
それ?