133 たからのちず 1

つい先日、俺にとって、いや、Mappleにとっての悲報があった。
Mappleに内蔵されているOSであるaiOS最新版にアップデートしたのだ。それだけ見れば別に何ら悲報要素は無く、おめでたいニュースであるし、俺もMappleが進化することに疑問は何も持っていない。
殆どの機能については事前のリークのとおり、人々の生活を豊かにさせるものだった。が、地図機能だけは、豊かにさせるどころか今までの機能にも及んでいなかったのだ。
実は今までのaiOSの地図は機能はMappleが提供していた。
そう、『機能』だけは。
データはCoogleから提供されているものを使っていた。その裏でどんな取引が行われていたのかは知らないが、Mappleは一企業としてこれからもずっとCoogleとの提携を行う事に危機感を覚えていたらしく、どこかのタイミングで手を切りたいと願っていたようだ。
それが今回だった。
日本の地図は地図会社であるゼツリンがCoogleに地図データを提供していてCoogleはそれをMappleに提供している、と思われていた。だからMappleがCoogleとの連携を切り捨ててまでゼツリンと手を組んだところまでは何ら誰も違和感を覚えない。しかし、これは後々、Coogleの罠だったのではないかとまで裏で囁かれることとなる。
実はCoogleの地図はCoogleがゼツリンから提供された地図データに自分達の調査まで盛り込んだものだった。つまり、地道にCoogleが完成させた独自の日本地図なのである。
悔しいことにそれが発覚したのは既にaiOSが最新版に切り替わった後だ。
ネットではaiOSがアップデートされるたびにスタバでMBAなどを広げてドヤってたドヤラー(俺を含む)常連達が一斉に沈黙。
その代わりに凄まじいまでのMapple叩き・マンドロイド絶賛の声が聞こえた。
マンドロイドでaiOSより優れているのは地図ぐらいしかないのに、「地図が使えないからマンドロイド買うわぁ」と口をそろえて言う。ある者はマンドロイドとaiPhoneを比較した動画をようつべにアップロードしたり、ある者は地図が使えないaiPhoneはいらないとハンマーで叩き壊したり、ある者はケツの穴に突っ込んでクソまみれにしたり(割れてケツに刺さり救急車で運ばれる事になったらしいが)、さまにこれらがステルスマーケティングだった。
「やめろォ…やめろォォ!!」
俺は2chのMapple板にアップロードされる可哀想なaiPhone達の写真や動画を見るたびに震えながら、そう小さく唸っていた。
「どうしたのキミカちゃん?」
「うぅぅ…みんながaiPhoneを馬鹿にするよォ…」
「ふぅーん…」
ガラケー使ってるマコトには関係ないか…。
「ん?外が騒がしいなぁ」
とマコトが窓に向かう。
そういえばネットに集中してて気づかなかった。言われてみるとなんだか外がざわざわとうるさいし、何かカメラのシャッター音みたいなのも聞こえる。有名人が引っ越してきたのだろうか?それにしてもテレビを見る人は殆どいないのに、有名人でこれだけの人集りができるものなのだろうか?
「う、うわぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!」
マコトがカーテンを開けてから大声で叫んだ。そしてカーテンを閉じた。
俺もカーテンの隙間から外を見てみる、と、外には人集りが出来てて、カメラで俺達の家を撮っているのだ。
その時だ。
ドタドタと俺達の部屋へ歩いてくる音が聞こえたかと思うと、扉が開けられ、そこには血相を変えたナツコの顔。
「た、大変ですわ…aiOSの最新版の地図では、この家のGPS座標に『パチンコガンダム駅』があることになっていますわ!!」
「な、な、な、なんだってー!!!」
俺は震える手でaiPhoneを取り出すと地図で現在地点を見てみる。
するとそこには…。
パチンコガンダム駅
お、俺達の住んでいる家がパチンコガンダム駅だとゥ?!
しかも家の形がガンダムの頭部みたいになってるし!!なんて間違いをしてくれるんだよォ…Mappleゥ…。
「き、キミカちゃぁぁぁ…ん」
「今度はなんだよォ!!」
「その、パチンコガンダム駅をタップしてみて…」
「え?!…う、うわぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!」
地図の上のガンダムの頭部が突然空へ飛び立つと、どこからやってきたのかわからない巨大な身体に合体したのだ。
「な、な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!!」
俺は思わずaiPhoneを床に叩きつけようとしていた。直前で、本能でその動きを止めた俺。まだだ。まだ俺のaiPhoneへの愛はある。血迷ってはダメだ。
「こ、コれハ…Mappleのセんスじゃナィヨぉ…(枯れ声」
俺は枯れ声でそう言った。
そして叩きつけようとしていた左手をなんとか右手で掴み「この手が暴走しようとしている!!自我を保てないィィ!!とか叫んだ。
「それもそのはずだよ。これ、開発者はMappleの本社社員じゃなくて、日本支社の社員だ。今回の地図も含めて最近アップロードされてる日本人向けアプリはたいていコイツが絡んでるっぽい」
マコトが見ていたのは今回の騒動をまとめたまとめページだ。そこには騒動やパチンコガンダム駅だとか、そのパチンコガンダム駅前に実際にスタッフが向かってみて、家から顔を覗かせているショートヘアの美少女(マコト)を捉えた写真だとか、最近アップロードされてる日本人向けアプリの開発者についての報道もまとめて書かれてある。
偉そうに報道陣のインタビューを受けてるドヤ顔野郎は『眞鍋麻呂吉』。ドヤ顔は少し前のaiOS開発中の記事で取られた写真らしい。
つまり、その麻呂野郎が主悪の権化だった。
「こィつヲ…殺セヴァイぃノ?」
「キミカちゃん!落ち着いて!」
マコトに止めてもわわなかったら俺はマコトが持っていた俺のMBAを破壊していたところだったよ、ありがとう…。