133 たからのちず 2

次の日の朝。
aiOSのバージョンアップ後に迎えた朝。
日曜日の朝だったが憂鬱だった。
昨日からマスコミ関係者が『パチンコガンダム駅』ネタで俺の家の周りをうろついているらしいのだ。Mapple系の雑誌やマスコミなら別にかまわないのだけれど、たいていうろつくのは敵対しているマンドロイド系の雑誌やマスコミだ。おもしろおかしくMappleの問題点を上げて『マンドロイドだったらこんなことは起こりません!』と言って少しでも自分達の優位に立てる状況へと持っていこうとしてるんだろう。
本当にこういうところが汚いんだよな。
朝のニュースでもチャンネルによっては、aiOSがバージョンアップして生活を便利にする様々な機能が増えたことは一切宣伝しなかった。その代わりに地図が使い物にならなくなって…云々の話で、どのニュースでも『一般市民』というツラをして出てる劇団のハゲ野郎がインタビューに答えていた。
『ええ、全然使えませんね!もうマンドロイドに乗り換えようかと思ってるんですよ。ええ。やっぱりね、aiPhone選んだら負けだと思いますね』
勝ちとか負けとかの話じゃねぇっつぅの。
今度は別の劇団員(ババア)が出てくる。
『ガソリンスタンドに行こうと思ってaiPhoneの地図のナビゲート機能使ったら荒木飛呂彦ジョジョ展に案内されちゃって…そっちのスタンドじゃないっていうーの、とOSiriに文句言ったら、『スタンドの攻撃を受けているゥ!』って叫ばれちゃって』
間違ってジョジョ展に連れて行かれたのはお前の滑舌が悪いんだろうが。
ったく…どいつもこいつも。
それから画面は切り替わって、
『はい、今、パチンコガンダム駅の前にいます。見てください、パチンコガンダムはどこだろう?って思ってしまうぐらい普通の住宅街です。迷惑ですよねぇ、ここがパチンコガンダム駅だって地図に書かれちゃった家は。aiPhoneの地図ではパチンコガンダム駅になってるこのお宅にインタビューしたいと思います』
え?ちょっ…。
『ええ。本当に困ってますね。機能もMappleの信者だかが押しかけてきて写真取ってきたりしてね。本当に。やっぱりね、aiPhone選んだら負けだと思いますね。これからはマンドロイドの時代だと思います』
ってお前誰やねん!!!
何勝手に家の前で家の住民ですってツラで話してんだよ!っていうか、さっきaiPhone選んだら負けのハゲの劇団員じゃねーか!!
その時だ。
ドスンドスンと地響きが響いてくる。
玄関の方へと響いてくる。
ケイスケがキレたな。
突然、玄関の扉が開かれる映像が流れる。中から2メートルを超えるぐらいの巨大なデブ(ケイスケ)が現れると『◯◯したら負け』のハゲの男を後ろから掴んでチョークスリーパーホールドをキめながら、
「人の家の前で何勝手に住民のフリしてるにぃぃぃぁ!!!」
と怒鳴り散らす。
ハゲの男は『ひぃっぐぅぁがぁ』とかいうわけのわからない叫び声を上げて(チョークスリーパーキまってるから叫ぼうにも叫べず)身体を痙攣させて白目を剥いて、最後に失禁した。
スタジオに映像は戻る。
『いやぁ、本当に大変な事になってますねぇ…aiPhoneはとんでもないですね!やはりこれからはマンドロイドの時代だと思いますよ。ほら、僕もマンドロイドの端末を買いましたよ』
『あら、それはチョニー製のXperoro2500じゃないですか』
『ほら、かっこいいでしょうこのフォルム』
うぜぇ…宣伝してんじゃねーよ…。
『さて、Mappleではこの度の地図の不手際について代表取締役社長である「イャン・クック」がマスコミの前で謝罪するという異例の事態になっています。Mappleジャパンの地図担当者である眞鍋麻呂吉氏が地図会社「ゼツリン」に依頼したことが問題の発端だという発表がされていまして、近いうちに責任を取らせて彼を解雇することになっているそうです。しかしそれにしても…解雇するだけで問題が解決するとは思えませんが…』
『そうですよね、やっぱりここはマンドロイド端末に乗り換えるのが問題解決の第一歩だと私は思うんですよ〜。ほら、私が今使ってるのはサムチョン製の銀河2500です!!どうでしょうか?65535種類のキムチ鍋を紹介するソフトとか実に実用性があると思うんですよね〜』
なにさり気なく宣伝してんだよカスが!
っていうか65535種類もキムチ鍋があるわけねーだろ!どんだけキムチ鍋の歴史捏造してんだよ!!どうせ適当に考えて鍋を増やしてるんだろうが!!
俺と一緒にニュースを見ていたマコトは言う。
「65535種類もキムチ鍋があるんだねぇ」
「ないない!ないってば!あるわけないじゃん!」
「でも、それだけの種類考えついたっていうんだからある意味すごいんじゃないのかなぁ…つまんないところで労力を使うのは朝鮮人特有だけどね」
「おおかた試行錯誤したあげく鍋の出汁の量が5mlごとに種類を1つ創ってたんじゃないの?キムチ鍋550ml、555ml、560mlで別の種類になってるとか、全部同じキムチ鍋だろうがっていう。その理屈で増やしまくったらint型の最大値である65535で限界が来てlong型に変えるにも色々といじらないとダメだから途中で面倒くさくなって65535種類で落ち着いたと…」
「ご、ごめん、後半わかんなくなった…」
「ま、まぁ、知ってる人はわかるよ…」
その時だった。
突然俺の電脳通信に着信。
相手はあの『栗原ちなつ』だった。
『突然すまんな。ちょっと手伝って欲しいことがあるのだが』
こんな感じで突然、電脳通信に連絡してきたかと思うと手伝ってください的なことを言ってきたりする、それが栗原ちなつだ。
彼女は初音ミンクの電脳に迷い込んでいたところを警察に発見され、俺が手伝って別のアンドロイド(風俗系)にデータを移してあげた経緯がある。そういう意味では人間ではなくてプログラムやAIの類だと思うのだけれど、どうやら以前は普通に人間で、自分の身体を捨てて人格をアンドロイドのAI内へコピーしちゃったらしいのだ。
まさにこれが近未来のハッカーだと俺は思ったね。
『手伝うって何を?』
『まぁ、それは会ってのお楽しみだ』
手伝ってくださいって言っておきながら内容はお楽しみって、どんだけだよ、ったく。まぁ今日はおやすみだしいっか。俺はマコトと共にチナツとの待ち合わせ場所であるスターバックス・カフェへ向かう事にした。