132 孤高のヒーロー 10

スカーレットを倒すのにブレードも弾丸もいらない。
拳があればそれでいい。
今までスカーレットに受けたストレスを全て拳に変換して叩き込んでやる!!
俺がぼっちだと?!
俺はいつも孤独で戦ってるだと?!
だからなんだ!それでお前が俺よりも強くなれるのかァァーん?!
「え、ちょっ、なにマジになってるのよ!」
スカーレットの防御は殆ど間に合わせ程度でしかなかった。つまり、防御しかできない。攻撃に転じようとするのなら防御を捨てることになる、それはつまり、俺の心眼道での攻撃を全て身体で受けるということだ。
ガードが薄くなっているのが感覚で分かる。スカーレットのバリア・フィールドには厚さがあるのだ。それが薄いところを一気に攻めて、あと少しで剥がれるというところでガードしている腕をどかせて、回し蹴りを食らわせる。
残り僅かなバリアを発生させながらスカーレットの身体は吹き飛んで、ビルのフロアの中につっこみ、貫通し、次のビルのフロアにつっこみ、貫通し、次のビルのフロアにつっこみ、貫通し、次のビルのフロアにつっこんだ。
そして俺は頬に伝わる涙を親指に絡ませて、飛ばした。
気配がする。
軽く身体をかわす。
レーザーだ。
高エネルギー反応をカンでキャッチして俺はそのレーザーをかわした。スカーレットの野郎…メイリンと同じタイプのドロイドバスターだからか、レーザーを撃ってきやがった。ってことはバリアも復t…。
「キミカちゃん!危ない!!」
俺の身体をマコトがどかし、マコトが攻撃を受けた。
マコトのバリアがどんどん減っていく。
「マコト…!!」
すると、ビルの瓦礫の中から瓦礫を蹴り飛ばしながらスカーレットの野郎が現れたのだ。俺が弾き飛ばした距離は結構なものだったはずなのに、もうこんな近くまで接近してたのか?
「ぼっちのクセになかなかやるじゃない?」
またスカーレットが俺の痛い話題に触れてきやがる…精神攻撃のつもりかォォァ!?ナメた事してるとマジで潰すぞおい。
「スカーレット!!」
突然マコトが叫んだ。
「なによ?」
「知ったような口を聞くなよ!!!お前にキミカちゃんの何がわかる!」
「わかるわよ?ぼっちよ。それ以外の何物でもないじゃない?小学生になった時に人はぼっちになるか、それとも集団の中で生きるか決められるわ。ぼっちの人間はずーっとぼっち。それは周囲の人間と交わらなければどんどん性質がかけ離れていく人間の特性からきてるのよ。ぼっちだから交わらず、無理に交わろうとすれば、互いの異質さに気づき、それをきっかけとしてよりいっそうに異質度が濃くなる。キミカは手遅れなのよ。その手遅れのキミカが『世間に必要とされている自分』を維持しようとして『ヒーローごっこ』をしてるのよ?」
コ…んのヤろぅ…。
言わせておけば…。
俺が一言言ってやろうと一歩前に進み出た時、マコトがそれを制した。
そして言う。
「偉そうにぼっちぼっちと罵ってるけど、じゃあ、アンタはなんなんだ?…『人』の域を出れていない弱々しい一人の人間じゃないか!だからキミカちゃんに負けるんだよ!弱い強いの問題じゃない。そもそも『格』が違うんだよ!」
「はぁ?」
何いってんのコイツ的な顔でマコトを見てるスカーレット。
「お前がキミカちゃんを異質だのぼっちだの言ってるうちは勝てないってことだよ!お前は集団の中に自分を置いてるんだ。自分は普通の人間だと心のどこかで思ってる、だからキミカちゃんをぼっちだと罵る!柵の中で飼われてる羊たちのなかの一匹、それがお前だスカーレット!!」
「な、なんですってェ…」
「キミカちゃんは、一匹狼なんだよ!群れから逸れて、一匹になった狼が生き残れるほど自然は甘くはない…キミカちゃんが一匹でいる時点で、既にキミカちゃんは群れと対等に戦える実力を持っているんだ!どうしてキミカちゃんがそうするのか…それは…」
「?」
「自由を求めてるから…」
…。
なんだよ、マコト…。
ずっと俺とベッタリくっついてるわけでもないのに、俺の事を知ってるじゃないか。俺よりも、俺の事を知っててくれてるじゃないか。
「キミカちゃんは自由が好きなんだ…。ボクはそれを知ってるから、キミカちゃんの邪魔はしない。キミカちゃんを束縛したりしない。好きで好きでたまらないし、命の恩人だから一生懸命尽くしたいと思ってる…だけど、キミカちゃんの自由を汚したりはしない。それがボクがキミカちゃんにできる恩返しなんだ」
「…マコト…」
「スカーレット。お前が集団の中で得たものを自慢するのはいっこうに構わないさ。でもね、それでキミカちゃんに勝てると思うなよ…柵の中の羊が、どんなに自分が優れていることを自慢したところで、しょせん、柵の中の羊であることは変わらない!!」
いつの間にか空は曇り、雨がちらついてきた。
スカーレットはさっきから静かにマコトの話を聞いていた。
逃げる隙ならあったはずなのに。
しかしここで、口を開き、
「今日のところはこれぐらいにしといてやるわ」
と捨て台詞をはいて消えた。
俺もマコトもそれを追おうとは思わなかった。
『興冷め』したと言ったら確かにそれもまた正解の1つなのかもしれない、ただ、なんとなくだが、スカーレットは何故か俺達の話を理解したように見えたのだ。そして俺達…いや、俺との勝負を、力の上でも、精神の上でも、『負けた』と感じたように見えたのだ。そして…次の銀行襲撃を最後に、スカーレットと中国人強盗団の襲撃は終わることになる。