132 孤高のヒーロー 9

今回の襲撃ポイントは博多。
九州・山口銀行の本店の前だ。
しかし度重なる襲撃に備えて銀行側も警備を厳しくしているらしく、シャッターは簡単には開かないようになっている。シャッターの側には開けようと試みた形跡(弾痕や爆発痕)があるからそれがよく分かる。
現場に俺達が到着した時、既にマコトは前なんとかを探す為、俺と別れて別行動をとった。俺は俺で、銀行が見下ろせるビルの上でキミカ部屋からプラズマライフルを取り出し、銀行前にたむろしている中国人やらその配下のドロイドに狙いを定める。スナイパー作戦である。
さて、どいつを狙おうかなぁ?
スカーレットはいないようだな。
その時だった。
俺の背後で気配がある。
振り返ると、そこにはスカーレットの姿があった。
ライフルからショックカノンに武器を変えて狙いを定める。
「まぁ、たまには話をしましょう」
そう言ってきたのは他でもないスカーレットだった。
「どういうつもりなの?」
「別に。たまにはアンタと話がしたいと思ってね。拳を交わした仲なら戦い以外にも相手が何を考えているのか、知りたくなるものでしょう?」
「それを言うなら…『拳を交わした仲なら、話さなくてもお互いの事は分かる』でしょ。もちろん、アニメや映画の中の話だけどね。それに。あたしはスカーレットが何を考えているのか知りたくもないのが本音だよ」
「今日は私の話じゃなくて、アンタの話をしましょう。お嬢さん」
「?」
「今日はメイリンやあの金髪ツインテールの女はいないのかしら?」
「今日は非番だよ」
メイリンやあの朝鮮人は敵国人だからアンタに協力できない。マコトも台湾出身だけど軍事協定を結んでないから同様ね。米軍のコーネリアはアンタと交代で参戦することになったらしいけどォ…どうかしらね?本当にアンタに『協力』したいのかしらァ?」
「何が言いたいの?」
「なんだかんだ言って、最後は結局、アンタが一人で戦ってるって事よ」
「…」
「確かにアンタは強いわ。私はアンタを認めている。だけれど、どうかしら?アンタが強いから他の人間は『アンタに任せてたらなんとかなる』って思って放ったらかしにしてない?ドロイドの様に、スイッチを入れれば敵を自動的に判別して、攻撃して、もし壊れたら代替品が沢山ある。任せておけば何とかしてくれる。お金さえあれば、なんとでもなる。それが今のアンタじゃない?」
「…」
「アンタはこう思ってるんじゃないの?『どうしていつも自分ばっかりが危険な目に会って、他の奴らはのうのうと生きてるんだ!労い(ねぎらい)の言葉1つないのか!』って。『その平和は自分が勝ち取ったものなのに、さも自分達が手に入れたかのように平然と享受してるんだ!』って」
「…」
「誰がアンタの味方になってくれるの?アンタはいつも一人。ずっと一人で戦ってる。アンタは友達がいないんでしょう?だって、飛び抜けてるもの。クラスでそんな人間が居たら敵対心さえあれど友達になろうなんて思わないわ。なっても下心いっぱいで、何に利用できるか考えている奴ばかりよ」
「…」
言わせておけば…。
「キミカちゃん!」
マコトの声だ。
「あら、マコト。いいところに来たわね。今、こいつをイジメてるところよ」
「な、なんだとォ!!」
「マコト。アンタ、今までどこに言ってたの?おおかた『前なんとか』を探しまわってたんでしょう?今日は居ないわよ?」
「チッ…今日は居ないのか…」
「ね?マコトがキミカに同行した理由はわかったでしょ?マコトはキミカと一緒に戦いたいからここへ来たんじゃない。キミカにたかる煩い虫を潰すために来ただけ。キミカを一人で放っておいても自分よりも何倍も強いんだから、絶対に死ぬなんてありえない、って安心して助けに来ないのよ。この『スカーレット』がキミカの前に登場しても!」
「な、何の話をしてるんだよォ!!」
「キミカがずーっとぼっちだという話しよ」
「ぼ、ぼっちぃ…?」
「そうでしょう?キミカに明確な親友はいるの?」
「う、うーん…」
「キミカ。アンタはこれまでも、そしてこれからもずーっと一人ぼっちなのよ。ずっと一人ぼっちで戦っていかなければいけないの。それに何の意味があるの?一体それで何を得ようとしてるの?誰にも気にもとめられず、誰も助けてくれず、誰も仲良くなってくれない。戦っても戦っても、いつも一人。最強にして最強に一人ぼっちのドロイドバスター、それがアンタ」
「…」
…。
…。
「き、キミカちゃんを…キミカちゃんを!!よくも泣かしたなァァ!!!」
…。
そう、俺は泣いていた。
確かにスカーレットの言うとおりだ。俺はずっと一人ぼっちだったし、これからもずっと一人ぼっちだと思う。しかし、だからなんだっていうんだ?
それがお前(スカーレット)に何の関係があるっていうんだ?
なんでキツい言葉をさっきから浴びせられなければならないんだ。
「え、ちょっ、マジで?マジで泣いてるの?」
「何をするだァー!!許さん!!」
マコトがスカーレットに殴りかかる。
が、スカーレットは軽くかわしてから、俺に近づいてきて顔を覗き込む。そして泣いているというのがわかると少し距離を置く。
「ひぐッ…えぐっ…うぅぅ…ひぐッ…」
「き、キミカちゃん…」
「ちょっ、マジで泣いてるの?いい大人が泣かないでよ(笑い声」
…。
俺は震える声で、一言一言を絞りだすように言った。
「マコトの事を悪く言うのはいい…」
「へ?」
メイリンやコーネリアの事を悪く言ってもいい…」
「は?」
「南軍のことも、修羅の国警察のことも、あたし以外の全てを悪く言っても全然構わない…でも、あたしの…あたしの事だけは、悪く言うのは許さない!」
「「え、ちょっ、逆逆!」」
…。
「…ぶッ殺ス…!!!!」