132 孤高のヒーロー 6

関門海峡を超えたあたりで電脳通信に着信がある。
『キミカちゃん、今どのあたり?』
『日本と修羅の国の境界線あたり』
小倉駅に向かって』
またかよ。
『小倉ァ?もう壊すものがないんじゃないの?』
『あなたは壊しに行ってるの?悪者をとっちめに行ってるの?』
『両方だよ!』
『米軍が博多で大暴れしたんだから今回、マスコミに目をつけられてるわよ。そこのところよろしくお願いね?』
などと会話をしているとそろそろ小倉だ。
もう何度通ったことか…。小倉駅前の左側が北九州最大の繁華街、で、右側が北九州最大のソープ街。もともと治安が悪いので警察や軍による住民の避難がまったく進まないから死者も頻繁にでるのだ。まぁ死ぬのはヤクザとかそっち系の人達ばかりだけど。
『銀行近辺にはいないみたいだよ?』
『ソープ街のほうよ。巴組からの通報で警察が最初応戦してたんだけど、どうやらスカーレット一味との抗争らしいのよ』
スカーレットの傘下であるはずの北九州ヤクザ街…いや、ソープ街で仲間同士で殺り合ってるのか?いや、そもそも勢力図で埋めれなかった地域を完全に自分達の勢力圏に入れようとしてる感じもあるな。
警察や軍のドロイドが機関砲を撃ちながら後退しているなか、スーツ姿のガラの悪そうな顔つきの連中がマシンガンを撃っている。
俺が地面に着陸するとヤクザどもは俺を見て、
「キミカだ!ドロイドバスターキミカが来たぞ!」という意味あいの『修羅語』(博多弁)を言っている。
ったく、最近のヤクザは抗争に警察や軍を利用してるのかよ。
「この先です!戦車がこの先に、」
ハゲで顔に傷があるオッサンが臭い息放ちながら俺に言いかける。その時、耳を劈くような凄まじい音が(ビーーーーーーーッ)と鳴り響き周囲に砂埃が舞い散る。と、その中で俺のプラズマフィールドが作動している。
よくまぁこの中で戦ってたな…。
砂埃が消えると周囲にはヤクザどもの肉塊と俺の後方にあった警察や軍の甲虫タイプのドロイドの残骸が姿を表わす。
立て続けに(ウィーーーーーーン)とガトリングガンの発射準備音。
地面に両手をつく俺。
グラビティコントロールアスファルトを持ち上げるのと多脚戦車のガトリングガンが発砲するのとがほぼ同時だった。ビキビキと音を立てながら俺が盛り上げたアスファルトに大量の弾が着弾し、その塊を削っていく。
このまま削ればいずれなくなるが、戦車の野郎はそんなチマチマとしているのが嫌いなのか武器を切り替えた様だ。聞き慣れた戦車砲の装填音が響く。
砲撃音。
ブレードで戦車砲を真っ二つにした。と、同時にグラビティ・ディフレクターをブレードの切断面に作動させる。俺を中心にして左右に戦車砲による爆風が広がる、が、俺には傷ひとつ与えていない。
素早くキミカ部屋からショックカノンを取り出すと戦車に向けて放つ。プラズマフィールドが作動するかと思って狙ってやってみたのだが度重なる戦闘でフィールド用のバッテリーが切れてるらしい、被弾して若干キズがついている。だが特殊装甲なのかショックカノン程度では通用しないらしい。
俺は身体を斜めにして走りだす。
戦車は戦車砲を装填するのが間に合わないと判断したらしい。ガトリング砲で応戦。俺に向けて放つがブレードで全弾を見切って弾き飛ばす。そして体勢を前屈みから後ろに向けて『スライディング』体勢に切り替えると、多脚戦車の股ぐらの間にそのまま突っ込む。と、同時にブレードで戦車の腹を掻っ捌く。
秘技、スライディング・斬鉄斬り。
「またつまらぬものを斬ってしまった…」
ブレードをキミカ部屋へと収める。
(ガキーンッ)
というグラビティブレードを鞘(キミカ部屋)に収める音と共に、背後の戦車が爆発・炎上する。
その時だ。
(パチパチパチ)
という拍手の音が聞こえてくる。
適当な拍手ではなくて、かなり本気の。熱の篭った拍手である。
「さすがです!キミカさん!さすがです!!」
これまた熱の篭った男の声だ。
「はぇぁ?」
俺はマヌケな声で拍手が聞こえてくる方向を見てみる。
そこには黒い中二病っぽいコートをきている長身の男が一人いるのだ。この戦場の中で平然と立っていられるのは、まさか…ドロイドバスターか?
俺は確認の為に、素早くショックカノンを取り出すと男に向かって放った。とりあえずこの一撃で死ねば一般人か警察・軍関係者、それかヤクザ。
「どわァ!!」
男が悲鳴をあげ、フィールドが作動する。
やっぱりドロイドバスターか?
「と、突然何をするんですか?!」
「何って…銃を撃っただけ…」
「さすがはキミカさんですね。実にキミカさんらしい」
見ればしょうゆ顔の暑苦しそうな男が一人いる。
「まずは自己紹介ですね!!僕は前原精児(まえはら・せいじ)。ドロイドバスター・セイジと読んでくださっても結構です!!」
前…なんとか、ってどっかで見たことがある顔してると思ったら、こいつ、議員じゃないのか?確かスカーレットと同じ党だったような?
「えっと、前なんとかさん、議員じゃないっけ?」
「すいません!その『前なんとかさん』ってやめてもらえませんか!僕にはちゃんと『前原精児(まえはら・せいじ)』という名前があるんですから!最近はマスコミまで僕のことを前なんとかと呼んだりするんですから!それもおもしろおかしく!人の名前をちゃんと呼ばないのは失礼だと思いますよ?!」
「えっと、前、」
「そうです、前、前原」
「前…は、ら、」
「そう!前原、せい」
「前、前、前、前は、」
「さぁ!前原」
「前、ま、…まなんとかさん」
「前より酷くなってるじゃないですか!」
「なんか名前が普通すぎて覚えづらいんだもん」
「えぇ?!前原精児ですよ?!精子の精に、児ポ法の児!特殊な名前だと思いませんか?!」
「前なんとかが普通すぎて覚えづらい」
「ちょっ、全国の前原さんに失礼だと思いませんか?!」
「えぇっと…Mなんとか精子さんね」
「え、ちょっ、もうMAすら省略してるんですか?!ローマ字入力のMまでですか?!どこまで面倒くさがり屋なんですか!!まぁ、そこがキミカさんなのですけどね…あと、精子じゃないですよ。精児。子供の頃はふざけて精子と呼んだりする人が沢山いましたけどね、高校生あたりから恥ずかしくて僕の下の名前は呼ばれることすらなくなりましたよ…キミカさんになら名前で呼ばれてみたいです。精児と呼んでもらってもいいです。むしろ呼んでほしいです。前原が覚えづらいのなら…」
「Mなんとか精液」
「ちょっ…それはもう面白ければそれでいいだけじゃないですか!!」
「Mなんとかザーメン」
「悪意を感じますね…」
そんな話をドロイドバスター・前なんとかとしている時だった。ビルの屋上から俺達を見ている影を俺は確認したのだ。
夕日に照らされるそのシルエットには見覚えがある。
スカーレットだ。
言うが早く俺はショックカノンの取り出してスカーレットに撃つ。もちろん、バリアで防御されることは承知の上だが、軽い挨拶である。
「効かないわよ!馬鹿が!バカの1つ覚えみたいに何度もやってくるんじゃないわよ!馬鹿が!」
馬鹿馬鹿うるさいな。
「今日は狂犬を連れてきたわ」
「まさか…」
目の前のMなんとかを見る。
「そう、ドロイドバスター・Mなんとか」
こいつが…噂の、ドロイドバスター・Mなんとか…か!
「おーい…」
ジト目で俺やスカーレットをMなんとかが見ていた。