132 孤高のヒーロー 4

翌日。
学校で朝のホームルームが終わったぐらいの時間。
突然コーネリアが俺の席にやってきて「ドウイウ事ナンデスカァ!!」と言いながら俺の席をグラビティコントロールでガタガタと揺らし始めたのだ。手を触れずに机が揺れる様はまさにポルターガイスト現象のようで、異様な状況に女子達の一部は驚いて目を見開いて俺達の席から離れた。
「どういう事って、どういう事?」
何を言ってるかわからないので聞き返す俺。
コーネリアは「えー?」というのを声を出さずにリアクションだけで表現してから、「キミカハ何モ聞イテナイノデスカァ?!」と叫び、今度は俺の両肩を手で掴んでガタガタと揺らし始めた。
「聞いてないよぉ…」
ダチョウ倶楽部のモノマネで応対。
「何故カ私ガキミカノ代ワリニ『スカーレット』ト戦ウ事ニナッテルノデース!!昨日上司カラ電話デ聞カサレマシタァ!!」
「お、おめでとうございます…」
「メデタクナイデーッス!!」
なるほど…。軍が正式にドロイドバスターを一名増やしたいと考えたのは前々から聞いてたけど、米軍にお願いしたわけだなぁ。確かに南軍がお願いできるのは米軍ぐらいしかないわー。ご愁傷様。
「南軍からのお願いでしょ…人が足りてないんだよ。まぁ頑張ってね、あたしと交代で出るようになると思うけど」
「Fuuuuuuccccckkkk!!!」
…。
その日のお昼休み頃、コーネリアのところに米兵がやってきてまるで連行されるかのようにお昼ごはんを食べてる最中のコーネリアを連れて行った。
どうやらスカーレットが現れたらしい。
「キミカちゃん、ボクとキミカちゃんは行かなくていいのかな?」
「ん〜…とりあえずエマージェンシー・コールはかかってないよね?」
「うん」
「いいんじゃないのかなー」
そんな会話をしている日本・台湾組に中国組のメイリンが言う。
「なんだ、コーネリアが戦う事になったか」
「交代でやらなきゃ身体がもたないんだよォ!」
と、久々にビッフェに登場した焼きそばに大量のお好み焼きソースをかけ、それを箸で掴んで、その焼きそばを振り回しながら言う。
修羅の国、治安悪すぎ」
「ちょっ、おまっ」
中国の奴らが治安を悪くさせてるんだけど、と言いたかったが抑えておいた。「ちょっ、おまっ」で済ませておいた…。
「キミカはもう出撃しないの?」
キリカが聞いてくる。
「多分、コーネリアと交代交代でやるんじゃないのかな。今回はコーネリアのターンで、次はあたしのターン」
「ふーん」
眼帯少女は俺の話を何かつまんなさそうに聞いて、ビッフェのトマトスパゲッティのトマト以外を食べていた。
トマトスパゲッティでトマトを取り除いて食べるのはカレーライスを注文しといて白ご飯のみ食べる人と同じだってばっちゃが言ってた
それを見て俺が言うと、キリカは、
「カレーは様々なスパイスを調合して食べやすくしているから、人はウンチ色の液体の中にどんなスパイスが入っているのか意識せずに食べれるけど、トマトスパゲッティは…悪魔の実(とまと)の風味だけで十分美味しいのに、わざわざ原型を入れてる。意味がわからない…」
おい…カレーをウンチ色の液体と形容するのをやめろ…。
「ったく、農家の人達が一生懸命育てたものを『悪魔の実』だなんて。そんなこと言ってるとおっぱいの成長が止まるよ?」
「こ、これはこれからどんどん成長していく!それにおっぱいの成長に悪魔の実の栄養分が使われることはない!」
はいはい…。
そこへメイリンが割り込む。
メイリンはキリカの残したトマトを箸でひょいひょい摘んで食べながら、
「中国では食べ物、不足している。こんなに残すなんて金持ちだけ。基本、手足があるものはテーブル以外は何でも食べる!」
トマトに手足はないがな…。
あと、手足があるものはテーブル以外だときっとその中に人間も含まれて…ぁゎゎ…。
なんて会話をしていた俺達(俺、マコト、メイリン、キリカのドロイドバスター4名)は今は部室でテレビを付けてニュースを見ている。昼に呼び出しがコーネリアに掛かったということは、いましがたニュースで米軍及びコーネリアが奮闘しているのが見れるかもしれない。
俺とマコトが奮闘してた時は軍や警察はなんとか情報封鎖しようとマスコミの立ち入りは禁止していたから、戦闘シーンがニュースに出ることなんてなかったけど、2chはてなで国民がこの話題について周知して国会でも取り上げられたわけだから隠蔽する必要はなくなった。そして案の定、俺達がニュースを見るタイミングでコーネリアの話題は報じられていた。
カメラは街灯添えつけのタイプやマスコミのヘリからの映像などを編集することでコーネリアや米軍と強盗団達の戦闘を追っていくのを可能にしていた。
最初は強盗団が銀行に装甲車を突っ込ませて、次から次へと金や宝石や証券の類を積み込んでいく映像が流れる。警察や軍はいるが自分達に向かってくる事はしないのを見て歓喜しているようだ。
アホな奴らだな、今回は米軍のターンなんだよ。
その時、空の方から(キーンッ!)というレースカーが爆音で直線コースを走るような音が聞こえて、黒い影が通り過ぎた。
次の瞬間、カメラの前は真っ赤になって、映像はそこで止まる。どうやら爆撃してカメラごと破壊したようだ…。
今度は別のカメラから。
爆撃後にヘリが次から次へと降下していき、米兵やらドロイドやらがゾロゾロと道路に展開する。いやぁ、物資や兵の多さは折り紙つきだなぁ。
あれだけの爆撃を食らってても建物の中の中国人強盗団どもはいるわけで、そこへ向けて銃撃したりドロイドが特攻したりする。と、そこでスカーレットが現れて入ってくるドロイドに大根足でキックを食らわせ、蹴り壊す。
米兵、退避していく。
そろそろコーネリアが出る頃じゃないか?
…おお、きたか。
金髪ツインテールゴスロリ調戦闘服に身を包んだコーネリアが現れ、小型の爆弾による絨毯爆撃を食らわせる。カメラはマスコミのヘリからの映像っぽい。
俺が現れたわけじゃないからと安心してたらしい、スカーレット。絨毯爆撃で奴の部下が死ぬと大慌てで銀行内へと退避していく。
と、ここでコーネリアは何か手の中にあるスイッチらしきものを押す。
その瞬間、銀行の内部から真っ赤な炎と爆風が出て、映画の1シーンかのように強盗どもがスカーレットと一緒に路上へと吹き飛ばされてくる。
あまりの爆風に米兵も耳を塞ぎながら何か叫んで撤退していく。
ヘリに乗り込む米兵。
と、そこでコーネリアが2度めのスイッチを押す。
銀行の2階も吹き飛び、いましがた飛び立とうとしていた米兵のヘリを爆風がかすめる。バリアが防ごうとしているが、防ぎきれず被弾、地面に不時着。
コーネリア、今度は地面に両手をついて、例の物質変換の能力を使う。
光り輝いて地面がどんどん野砲へと変化していく。
逃げるスカーレット。
狙いを定めるコーネリア。
伏せるよう指示する米兵部隊長。
次の瞬間、青い光がカメラにノイズと共にはいると、爆風が周囲の街路樹を薙ぎ倒し、車を吹き飛ばし、ビルの窓ガラスを木っ端微塵にして、米兵も何人が砲撃の衝撃で飛ばされる。コーネリアの周囲にはバリアが発生する。
(ドドーンッ!)
部室の窓ガラスがピリピリと音を立てている…。
「こ、ここまで響いてきたね…」
「きっとこの銀行は北九州にあるんだよ。だからかな、丁度テレビの編集とここまで音が響くのとが重なった感があるね…」
なんつぅ威力だ…いや、なんてことしてくれんだよ…。
スタジオに映像が切り替わって、ぽかーんと口をあけたキャスター顔。
「せ、戦争のようですね」
「ここまで響いて来ませんでした?」
「響いてきましたね」
などとスタジオの空気はピリピリしたものになる。
再び映像が現場に切り替わる。
砂煙が風で飛ぶと、コーネリアが創りだした野砲が現れ、そしてその隣でガミガミとコーネリアに怒り狂う現場部隊長の姿…。
「怒られているようですね…」
「作戦とは異なっていたのでしょうか?」
…そもそもコーネリアに作戦というものがあったのかどうかが知りたい。