131 スカーレット星人 1

俺達は黒い玉の前で「財布がない」「財布がない」と大騒ぎをしていた。この部屋に来るまではあったのに。
「ドウイウコトデスカァ!!」
そう叫んでコーネリアはケータイを取り出してどこかへ電話いている。英語でペラペラ話すので何を言ってるのかはよくわからない。よって、英語も話せるらしいマコトにコーネリアが何て言ってるのか聞いてみると…。
「なんか財布の中にクレジットカードが入ってて、それ使われたらまずいからってカード会社に電話してるっぽい」
うわぁ…現実的だぁ…。
一方でメイリンはニーソックスを脱いでから靴の底やニーソックスの中を確認している。
「何してんの…?」
「財布、なくなった時の為、靴の底やソックスの中、お金仕込んでいけと言われてた」
あぁ〜。あるね。あるある、そういうの。田舎者が都会にでた時はそういうのやっておけ、都会は恐ろしいところだからスリに合うぞって言われてたっけ、おばあちゃんに。
「クッ…やはり無いか!」
メイリンが悔しそうな顔で言う。
「やっぱり盗られてたの?」
「入れるの忘れてた」
意味ないじゃん!
マコトにも聞いてみる。
「お財布の中にいくら入ってたの?」
「今晩の食材のお金が入ってたよ。大した額じゃないけど…何を買えばいいのかのメモも入ってたんだ!!大変な事になったよ…」
「そ、そう…」
「ソンヒは…あれ?財布なくなってないの?」
落ち着いた雰囲気のソンヒにそう聞いてみる。さっきから俺達は大騒ぎしているのに部屋の物色をしているだけで特に何かなくした雰囲気ではないのだ。
「財布はたまたま持ってなかったから大丈夫ニダ」
「いやいやいや…あんた、焼肉食べてる最中だったんでしょ?」
「ウリはツケで焼肉食べてるニダ!」
「食い逃げか…」
「人聞きが悪い事を言うニダ!」
そんな大変な状況でも黒い玉は相変わらずのマイペースで次々に話を進めていく。パラパラと黒い玉の表面にはアナウンスと思われる奇妙な鏡文字のようなものが流れていく。
「『いまからこいつを倒しにいってくだちゐ』…なんだこりゃ」
そして画面には写真が表示されたのだ。
「す、『スカーレット星人』ンンン?」
気の抜けるような悲鳴をあげながらマコトが言う。
「特徴が…」
「『狡賢い』『すぐ逃げる』『おばさん()笑』」
なるほどな。
キサラは普通に「手伝って!」と言えば参加はしないだろうからと、そのシチュエーションを出してゲーム感覚の中でメイリンやコーネリアを巻き込む事で戦力にさせようとしているのか。
だから、この報酬はきっと…。
俺は黒い玉のメニューらしきボタンをポチポチと押してみる。すると画面が切り替わり、100点めにゅーというのが表示される。
「100点メニューデスカ?」
100点メニューは3つ。
以下のどれかを実行できるらしい。
1. 新しい武器が貰える
2. 財布を返してもらうる。
3. キミカとセックスできる
…ん?
何か見間違えだろうか。
最後にとんでもないものが見えたような気がした。
もう一度見てみよう。
1. 新しい武器が貰える
2. 財布を返してもらうる。
3. キミカとセックスできる
…。
おいおいおいおいおいおい!!!
やっぱり見間違えじゃないぞ!!!
なんなんだよこれはァァァ!!
「2番だ。当然だ!金を返せ!」
よかった。メイリンは金に目をくらませてくれたか。
メイリンは外れた。
「特に目ぼしいものが無いニダ。1番が面白そうニダね。3番は何かの冗談ニカ?」とニヤニヤしながら俺の顔を見ているソンヒ。
まぁコイツは心配ないか。
「HeHeHeHe…。最後ノハ何デスカネェ…。マァ、オ金ヲ返シテモラワナイカギリ意味ガアリマセンガ」
よかった。コーネリアも本気になってない。
あとは、マコト…。
「マコト何してるの…」
「ウォーミングアップだよォ!」
「え、ちょ、なに本気になってるんだよ?!」
「当然じゃないか!キミカちゃんといつでもどこでもセックスできる券なんて1億だしても手に入らないよ!」
「ええぇ?!いつでもどこでもセックスできる券ンン?!どこにそんなの書いてあるんだよ?!(まじまじと黒い玉の正面を見る)あれれれ?!字が、書き換わってるよォォオ!!!」
俺が見ている前で「キミカとセックスできる」が「キミカといつでもどこでもセックスできる」に変わったのだ。
「なんだよォォォ!!絶対これおかしいじゃんかよー!!」
俺はキレて黒い玉にパンチしたりキックしたりする。
「やめてキミカちゃん!壊れちゃうよ!」
「壊れればいいんだよこんなのォ…(白目」
その時だった。
(がしゃーん!)
突然音を立てて黒い玉が開いた。
俺は不幸な事に黒い玉の右横にいたため、その開いたスライド式のものに思いっきり押し出されて壁に背中をゴツンコした。
「ぎゃー!」
「キミカちゃん!」
マコトに引っぱり出される俺。
そこでようやく黒い玉の中に何が入っていたのかが解った。
『メイド服』だ。
「ドウヤラコレガ戦闘服ノヨウデスネ」
「これ着るとどうなる?強いのか?」
「さぁ…」
そう言いながらも全員、ドロイドバスターに変身した後、メイド服に着替えていく。
そのタイミングを見計らってかなのかどうかはしらない、黒い玉の表面にはまたしても文字がパラパラと…
『それでは検討ヲいノります』
そう表示されていた。