130 新しい朝が来た。希望の朝が 4

スカーレットのラリアットは喰らい慣れている。
柔道で受け身を最初に教えるのと同様にラリアットを喰らいまくった俺はその受け身も完全に体得しているのであっさりと身体を斜め上にそらしてパワーそのものを逸らす。すると逸らされたパワーは俺の身体の斜め後ろに存在していた自動車を鉄くずに変える。つまりスカーレットのラリアットをマトモに食らうということは、ああいう風になることを意味している。
心眼道を体得した俺には力の流れが手に取るように判る…。河はせき止めるとどんなに確固な城壁でも打ち砕いてしまうが、流れをちゃんと逃がしてやるといつまでも城壁は存在し続ける。
スカーレットの攻撃は直撃さえ食らわなければ大丈夫。
「チッ」
舌打ちをするスカーレット。
反射速度は前よりも上がっていると思われるがまだまだ俺の足元にも及んでないな。足元の1ミリぐらいまで及んでるかもしれないけど、それはまだ足の皮まで到達できてない。次は足の皮に到達して皮の中に侵入しないとダメだけどきっとスカーレットには一生かかっても無理だろう。それぐらいの歴然たる差。
「確変だよォォ!!!ソンヒ!くじ運がいいね!」
と俺は歓喜の叫びを上げながらオラオラオラオラオラオラオラとスカーレットに連続攻撃を与える。
「どういうことニダ?!」
「スカーレットが出てきたって事はパチンコでいうところの確変スタートってやつだよ!」
「な、なんだってー!!!ウリの勝負運がこんなくだらない事に使われてて正直悲しいニダ!!」
本気で残念がるなよ…。
「よし、スカーレットに致命傷を与えることが出来たら1000円払うよ!」
「嘘はついてないニカ?!ならやってやるニダ!」
「嘘つきは朝鮮人の始まりだからね!」
「その一言は余計ニダ!」
言うが早くソンヒはバイクのままスカーレットに突っ込んでくる。っていうか俺まで巻き込むような勢いで突っ込んでくるから俺は身体を翻してバイクを交わした。案の定、俺の動体視力が捉えたのはバイクに括りつけられた爆弾の塊。
「ちょっ、おまッ」
俺はとっさにグラビティコントロールで地面を盛り上げて防空壕を作った。それがギリギリ間に合って、俺の目の前には光の塊が。凄まじい衝撃波でビルやら街路樹やら車が吹き飛ぶ。俺は防空壕ごと吹き飛ばされて反対車線のビルの2階へと突っ込んだ。
「殺ったァ?!」
ビルの2階から覗いてみる。
ひぃぃぃ…!!
スーパーサイヤ人がいるよォ…。
スカーレットが本気モードでエナジーフィールド全開だ。黒髪が空を舞っている。アレだけの爆発が嘘みたいに効いてないぞおい!
「こ、こいつ、爆風を吸い取ったニダ!!」
「えぇぇぇ?!」
マジかよ。
とにかくマコトに連絡だ。
『マコト!こっちきて!祭りが始まりそう!』
『スカーレット出てきたの?』
『確変中だよォ!!』
『今行くね!』
マコトとメイリンが到着するまでコイツを逃さなようにせねば!とにかく俺が責め立てれば恐怖に駆られて逃げ出す。こいつはドラゴンクエストで言うところのメタルスライムみたいなもんなんだよ。
俺がメタルスライムを倒す時は「俺は全然君には興味ありませんよ?」的な気持ちと雰囲気を醸し出しながら挑むのだ。運だとは解っていても、それでもなんとか高確率でスライム逃さずに倒せていた。
それに似た状況を作り出せばいい。
えっと…。
俺はaiPhoneを取り出して、
「ん?何?どうしたの?あぁ、テレビぃ?何?あたしが映ってるって?あーうん、いま戦闘中。そそ、スカーレットっていう『おばさん』と戦闘中なんだよォ…面倒くさい性格なんだよねー」
と架空の友達と電話しているフリをする。
そんな中で、スカーレットをチラ見する。
「って、逃げるんかーい!!!」
クソガァ!!!
怒って本気出したかと思ったら逃げ出しやがったぞおい!
どこに逃げる気?!
あ、マンホールの蓋が空いて中国人テロリストの仲間が手を振ってるぞ!!この野郎ゥゥ…いつも地下に逃げていたのか。どおりで見つからないと思ったよ!!
あ、今頃になってメイリンが到着しやがった。
とにかくメイリンにスカーレットが逃げるからさっさと倒すよう伝えたかったので「メイリン!金!金が逃げる!」ととてもわかりやすく今とても急いでいる事を伝えた。
うまく伝わったようだ。
「はぁッ!!」
メイリンエナジーフィールドが地面を削ってマンホールも地下道への入り口も崩壊させた。ついでにスカーレット身体も吹き飛ばす。
転がるスカーレットの身体。
周囲に集まるドロイドバスター4名。
「年貢の納め時のようだね、スカーレット」
俺がゲス顔でそう言った。