129 21グラム 1

キリカの部屋には様々な中二病臭いものが陳列されている。
これからダンボールの中身をさらに解放するとのことだから、この空間はさらにこれからもっとカオスに満ちてくるわけか。
壁にはどっかの南米の部族のお面、日本の鬼の面、古代の人々の生活を描いたタペストリー、それから蝶の羽根だけ千切って貼り付けられ額に入っている蝶の羽根コレクションやら…。
棚にはまだ格納されていないものもあるが、奇妙な形の壺、蛇がとぐろを巻いている状態で剥製にされたもの、それから髑髏…(これ本物じゃないよな?)木のパズルボックスなどなど。
机の上にはiMapがあるぞ。
こいつMapple教信者だったのか!
これは共感できる。俺の家にもiMapまではないがMapProがある。Mapple教徒には悪い人はいないって言われてるからな!
そのiMapの周囲には手書きで描かれたメモやら新聞の切り抜き、何かの古い書物のコピー(英語)どっかのサイトを印刷したもの…が貼ってあり、いかにも何かを調べてそうな雰囲気を漂わせている。
「ちょっとiMap触らせてよ!」
「キミカなら許可する」
なるほどなるほど、XCodexやらは入ってないのか。その代わりにiJobsやらの表計算ワープロ、ドキュメントモデル作成のツール類はひと通り入っているようだ。
何かのドキュメントを編集している最中のようで、中身を読んではみたが何をよくわからない。途中途中に絵が挟んであるから馬鹿な俺はその絵だけは何があるのかはわかる。ちなみに、どっかの南米の部族の写真やらエジプトっぽい雰囲気の写真やら…どうもピントがズレててボケてるな。この写真撮った奴はカメラマンじゃないのか?
しかし、ある一枚の写真というか画像というか…それを見つけた時に俺はキーボードの上を動く手が止まってしまった。
これ…。
見たことがあるぞ?
熊のお腹の部分がすっからかんになっていて、その中心にはブラックホールのような漆黒のボール上のものがある。
フォーベアっていう宗教団体が崇めている神の一つだ。
「これって…『毘沙門天』って神様じゃない?」
キリカに聞いてみる。
キリカは暗闇でぼんやりとした青い目でiMapのディスプレイの放つ輝きを見つめていた。どことなく、既に変身後の俺の表情と同じような気もしなくもない…。
「そう。毘沙門天…時空を司る神。創造主のうちの一つ」
「フォーベアの4神ってドロイドバスターの種類と同じなんじゃないの?時空とエネルギーと天地創造と魂と…で4つ」
「さすがはキミカ。私が認めただけはある。深淵よりいでし闇の眷属…魂のソウルメイツ。大抵の人間はそこには気づかない。キミカの言うとおり、フォーベアの4神はドロイドバスターの4種と同じ。しかし、それらも本来ならアカシック・レコード…『アカーシャクロニクル』という一つの存在から産み出される力に他ならない」
うわぁ…中二病臭いなぁ。相変わらず。
「そのアカーシャクロニクルっていうのはなんなの?」
「私達にも、そして人間達にも、アカーシャクロニクルがなんであるかは理解できないかもしれない。その概念がこの世には存在しないとすれば、理解も出来ないしもちろん説明も出来ないことになる。でも確かに存在はする」
キリカはiMapのディスプレイの一部をつんと触って画面を移動させる。そこには人の頭に向かって伸びる線?のようなものが描かれていて、その線は先端は途中で消えてしまっている。
「これは…?運命の赤い糸?」
「ソウルリンク…と私は呼んでいる」
「ソウルリンク…」
「21世紀、ある学者が非公式で人体実験を行った。人間を一人連れてきて密封した容器の中へいれる。その時の重量と、その人間が酸欠で死んだ際の重量で差を比較した。そして同様の実験を1000人に対して行った。病のもの、まだ健全な死刑囚、体内に子供がいる女性…。物理法則が正しく働いているのなら、密封した容器の中の重量は変わらない…だけど、その重量は21グラムほど減少した」
寒気がした。
部屋の雰囲気に圧倒されているからかもしれないし、iMapの輝くディスプレイに照らされた怪しげに光るキリカの青い瞳に畏怖を抱いたからかもしれない。
「21グラム…それは人間の魂の重さと言われている。動物の種類によって重さは異なっているけれど、同じ種族の動物はほぼ同じ数字をはじき出していた。実験は『非人道的である』と避難されて中止、学者は罪のない人間を密閉した容器に入れて殺した罪で死刑になった」
「…」
「人の魂に重さがあるとして…その21グラムはどこに行ったの?」
「…さぁ…どうだろうね…」
俺はキリカから目を放して、再び部屋を見渡した後、iMapのディスプレイを見つめた。
「23世紀、人々は電脳化という技術を開発した。マイクロマシン・ファクトリーユニットを頚椎に埋め込み、脳とユニットを接続し、ユビキタスコンピューティング可能にする。もしその人間が死んだ場合、電脳ユニット販売業者は個人情報と企業技術の保護の為、ユニットを取り外して遺体を火葬する…これって、似てると思わない?」
「21グラムの…こと?」
「そう。魂とアカーシャクロニクルを連結する『ソウルリンク』」