128 真・初デート 4

結局、ゲームセンターからの帰りも送って帰って欲しいとキリカにせがまれて俺は渋々彼女を家まで送ることにした。
市内のマンションに一人で住んでいるらしい。
まだ引っ越して間もないので部屋は散らかっているとのこと。って、俺を部屋に上げるところまで既に想定済みなのか…。クッソォ!!俺が本物の男であったのならこんな状況は棚からぼた餅、いや、棚から女体というレベルの超特大イベントなはずなのに!
「キミカ、私の部屋によっていく?」
案の定俺に聞いてくるのだ。モジモジしながら。
「え、うん、まぁ、その…お前がいいなら」
って、俺何を言ってんだよ。いつから女の子をお前呼ばわりするようになったんだよ。っていうか少しはキリカも何か嫌がるなり反応をしてくれよ、今までずっとこんな感じだったみたいにすんなり受け入れてるじゃねーかよ…この中二病患者は。
「入出前に結界を解除しなければならない」
そう言って自分の部屋であろうドアの前で念仏を唱えるキリカ。
「結界ってのはよそから誰かを入れさせないようにガードしてるのか?例の、『教団』とかいう連中の…」
「違う。この結界の中に人間界に放してはならぬ強力な魔術を持った使い魔を封印してある。そういう意味での結界…」
「あ〜…はいはい」
ドアを開けるキリカ。
中から何か灰色の塊が飛び出してくる。
「うぉッ!」
俺は慌てて片足を上に押し上げてその塊を回避する。
見れば猫だ。
かなりデブの灰色の猫。
オルトロス!部屋にお戻り!ここはあなたがいていい世界じゃないのよ」などと言って魔犬『オルトロス』の猫を部屋に押し入れようとするキリカ。しかし猫は俺どころか飼い主にも警戒している。
「あぁ、そうだった。解除しなきゃ」
「へ?」
解除って何を?封印を?
って俺がキリカに、
「解除って、何を?」
と聞いた時、既に遅し…甘ったるいアニメ声で「解除って、何を?」という台詞がマンションの廊下に響いた。
「うわぁぁぁぁあ!!!」
女の子に戻ってるよォォォ!!!
「そんなに叫ばないで。地獄の門番が現れる」
地獄の門番…あぁ、マンションの管理人か。
「これが泣かずにいられますか…儚い夢だったなぁ…」
男だった僅かな時間を思い出し、俺は天井のほうを見ながら涙が頬を零れないように静かに泣いた。
「人に夢と書いて『儚』」
「うるさいよ」
男だった俺はクリーム色セミロングの背の低い美少女に戻り、クリーム色のロングヘアーの背の高い美少女だったキリカは、ブラックのショートヘアーの背の低い眼帯美少女に戻った。
引っ越して間もないというからやっぱりドアを開けるとダンボールの山。その山の谷間を俺達は山を崩さないように身長に部屋の奥へと進んでいく。
「すっげぇ…」
まず最初に目に入ったのは部屋に広げられている魔法陣。
「この魔方陣からオルトロスを召喚した」
「へぇ〜…ところでその猫はどこで拾ってきたの?」
「この魔方陣からオルトロスを召喚した」
「はい、すいません…っていうか召喚とかもできるの?」
「できる」
「時空のドロイドバスターの能力も使えるってこと?」
「…う…」
「なーんだ、できないじゃーん」
俺は人差し指2本を悔しがるキリカの顔に指す。
せっかくだから俺が本場の『召喚』を見せてやるか。
「あたしが召喚してあげるよォ」
「!!」
「はぁッ!!口寄せの…術!!」
魔法陣から黒い渦に包まれてニュニュっとMapBookAirが登場する。美しいフォルムと軽量・この薄さを前に感動しているのかキリカは。ふっ…また一人Mapple製品が人を魅了してしまった。
「凄い!!!かっこいい!!!」
「ふっふっふっふ…」
と、俺がドヤ顔で笑ってMapBookAirを開いて見せるとどうやら「かっこいい」が言いたかったのはMapple製品ではなく召喚のほうだったらしい。興奮気味にキリカはガサゴソとダンボールの中から何かを取り出して、「ちょっと手伝って!これ!これを召喚してみせて!」と言う。
なんだか分厚い古臭い本を俺の目の前に置く。
「これをどうすんの?」
「召喚!!」
ひとまず俺は本をキミカ部屋(異空間)に吸い込む。
「いい?それじゃ、召喚するよ」
「待って!待って!!ちゃんと魔法とかエフェクトとかかけるから!台詞もちょっと考えるから!!」
「え〜!!」
面倒くさいなぁ…。
すると…またあの教室でキリカが転校して来た時のようにどこからともなく叫び声のようなものが聞こえる。今度は黒い上半身だけの人?のようなものが魔法陣の周囲に…これはキリカのドロイドバスターの能力なのだろうか…。
「この世界に存在してはならない死者の書物…ネクロノミカンを召喚する時が来てしまうとは…ククク…この私も随分と人間どもにナメられたものだ。少し実力を見せてやらねばならない…」
はいはい…。
「生と死を司る暗黒の経典…ネクロノミカンをここに召喚す!」
そう言ってキリカは手と手の間に真っ黒の煙を放つ何かを持って、そこから赤黒い光を輝かせる…。これも演出か。
「(キミカ、そろそろお願い)」
「…」
キミカ部屋から魔法陣の中心に本を召喚(テレポート)させる。
「クックックック…世界を我が手に…」
「…」
俺は再びネクロノミカンと呼ばれた汚らしい英語の本をキミカ部屋にテレポートさせた。
「ちょっ、キミカぁ!何するんだよぉ!!」
「ごめん、やっぱり世界はみんなのものだから…」
「…(睨」