128 真・初デート 2

茶店を出る俺とキリカ。
ちなみに俺は男の時の『俺』であり、キリカは眼帯少女ではなく、クリームロングヘアーの美少女である。
「教団の使いの姿を確認した?」
クリームロングの美少女が俺に言う。
「ん?別に普通のおっさん、おばさんだったよ」
「あれは仮の姿…連中はその邪悪な力を表に出さぬように封印し、あのように人間界に溶け込み裏で支配している…。警察、政治家、医者、教師…様々な役職についている。魔力を持たぬ者に彼等を見極めるのは難しい。しかし、方法がないわけではない…服にバッチがついていたでしょう?」
「そういえば…議員がつけるようなバッチがあったような」
「あれが教団の者である証」
「ほほぅ…」
「とりあえずしばらく様子を見る事にする…。完全に尾行が解けているのならパラダイムシフトを解除してもいい」
「え?俺はこのままでもいいよ?」
「それはダメ。今、こうしている間にも物質と概念の齟齬が世界に影響を与え続けている。それはなるべく最小に抑えなければならない」
「ちぇ…」
「それで、今からどうする?」
「どうするって、このまましばらく様子を見るんだよね?」
「う、うん…そうだけど、その、なんていうか…」
モジモジし始めるキリカ。
こ、これはなんだ?!俺は今まで様々な女子を『女の子』という存在から見てきたが、今この瞬間、男である俺の前で見せるこの仕草はなんなんだ?!見たことがないぞ!
「えっと、セックスがしたいのか?」
俺は時を止める能力が自分に備わっているのではないかと錯覚した。まさに時が止まったのだ。俺の一言でキリカが固まった。
しかし解除された。
時は動き出す…。
「いや、だから…そういうのじゃなくて…キミカは今日暇なの?」
と俺の顔を見ずに言うキリカ。
「え?ん…まぁ、暇だぞ。っていうか、様子を見る事にするっていうから、このままずっと一緒にいるって話なんだよね?」
「ん…。うん」
「んじゃ、どっかで時間を潰すか。周囲に何か変化があったら教えてくれよ。俺が何とかするからさ」
「え?」
「ふっ…女の子一人守るぐらいどうってことないさ」
「キミカ…それはきっと無理」
「えー!!!」
「ドロイドバスターになるということは私が書き換えた概念を壊すってこと。その時点でパラダイムシフトの一部は解除される」
「ふむふむ…」
「もちろん、ドロイドバスターの能力を使うことも同様」
「なるほどなるほど…つまり、俺は今、普通の男ってことか」
「うん」
「だめじゃん?」
「別にいい」
「あぁ…そう」
よくわかんないけど俺の力を頼りにしてるわけでもないのか。
暇つぶしにと、ゲームセンターにでも行こうという事になった。…さっきとは違ってキリカのほうから俺の手を掴んできて、手を繋いで歩く。と、その時だった。
俺は商店街の向こうからとんでもない人物と出くわしてしまったのだ。何がとんでもないかって、それはさっき店を金を払わずに出ていって結局俺が全部払うことになったということだ。じゃなくて…その金を払わずに出ていった糞野郎の一人、ユウカが居たのだ。
「ゆうk」
俺が言いかけると向こうはまるでとんでもないものに出くわしたみたいな顔で俺のほうをみたのだ。
いや、実際、とんでもないものだった。
男の俺はもう死んでいる事になっている。
葬式もあげたし、葬式で遺体もみんな見た。火葬だってしている。その俺が生前の姿で今ここにいる、それが『とんでもない』。
自分が今は男であることにギリギリの段階で気づいて途中で言葉を飲み込んだ。そのままユウカから目を逸らす。
キリカのほうを見る。
キリカはもうこういうのは慣れているのか、今は別の人間になっているという設定は確実に厳守して、ユウカのほうは向かずにスタスタと歩いていく。俺もそれに勇気づけられるように手を引かれ商店街を歩いて行く。
ユウカとすれ違った。
普通ならすれ違う人が自分と面識がないのならまじまじと見るわけがない。だけど、ユウカはそんな事を気にする風でもなく、俺の顔を見てる。ガン見してる。生前の俺の姿が目の前にあるのだから幽霊でも見てるような気持ちになるだろう。
あ…ぶねぇ…。
話し掛けられるかと思った。
どう答えていいか。っていうか、声ももちろん同じなんだから…いやいやいや、待てよ?おかしいだろう?
ユウカとは幼馴染だけど小学校以来だったよな?
なんで高校生の俺の姿を見てついぞ最近会ったみたいな顔になってんだ?小学校以来見てないのなら、顔とかは記憶の中では曖昧になってそれとマッチングさせてもヒット率少ないだろうに。
ユウカと随分距離を離した後にキリカが言う。
「キミカぁ…危ないってば」
「す、すまん。つい声を掛けてしまいそうになったよ」
背中の方に目があるわけじゃないからわからないけれども、ユウカは立ち尽くしてずーっと俺のほうを見てるような気がした。
わからないけれども…。