128 真・初デート 1

「今、重要な事に気づいてしまったんだけど」
と俺はキリカに話し始める。
キリカは頬杖をついてクリーム色の髪を弄りながら俺を見ている。
「俺は、その…えっと…初めて、女の子と…こういうところに来ている事になるのかな…その…男として」
こいつ何言ってんのという顔でキリカが、いや、クリーム色のロングヘアーの美少女が俺を見ている。
「いや、改めてそう思うとなんだか…その、なんていうかさ、緊張してきた。俺、女の子とデートするのは初めてなんだよね」
それを聞いてキリカは意外にも、
「そ、そ、そんな事を言い出すから、こっちも緊張してきた…」
と顔を赤らめてモジモジし始める。
「えっと、それで、こうしてるのはいつまで?」
「教団の人間が私達をマークしなくなるまで…教団は魔力によって私たちの位置を割り出して目星をつけて部下を潜入させてくる…しかし、私のパラダイムシフトは魔力サーチの前には無力だけれど、人の目は誤魔化せる。今までこれで切り抜けてきた。ただ、普通に一緒にいるだけではちょっと概念として弱すぎるから『恋人』を演じたほうがいいような気はする」
「ここ、こここここここ、ここここここここここ、こここここここ、ここここここここここ、こここここここ、ここここここここここ、こここここここ、ここここここここ」
と、俺は「こいつ鶏なんじゃねーの?」って誰かに呆れられるぐらいに「こ」を連呼した後に、
「恋人ォォ?!」
と叫んだ。
「少しの間だけ」
そのクリームロングヘアーの美少女(キリカ)は俺に顔を近づけてから、囁くようにそう言った。
「こ、恋人っていうのなら、その、アレだな。アレをしなきゃな。アレだよ、アレ。恋人同士がするアレ、『き』…」
「き?」
「キ…」
「キ…?」
「キスってやつ…」
「き、ききき、ききききききききききき、ききき、ききききききききききき、ききき、ききききききききききき、ききき、ききききききききききき、ききき、ききききききききききき、きききき、ききき、きききききききき、ききき、きききき」
と、キリカは「こいつ樹木希林なんじゃねーの?」って誰かに呆れられるぐらいに「き」を連呼した後に、
「キスぅ?!」
と叫んだ。
オープンテラスで「恋人」だの「キス」だのを自分達の声で発してから自分達が顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている奇妙なカップル風の男女を見て、周囲の人達は不思議そうなものでも見るような半笑いの表情で視線を集めてくる。
目立っているぞ。
目立っているぞォ!!
「ここからでたほうがいい」
キリカは真面目な顔でじっと俺を見つめてそう言った。
「わ、わかった」
俺も席を立つ。
席を立ったのだ。
席を立ったたら何が起きるか。
そう、俺は男の時は180センチは届くであろう身長だったのだ。それが今、復活している。140センチか150センチぐらいのチビな女の子だったはずなのに、今、俺は180センチ近い身長で…うぉぉぉおぉぉぉ!!世界が広い!!
キリカも身長は前よりは高くはなっているがそれでも160センチかそこらだ。しかしそれぐらいの身長でも女の子の状態の俺からすると巨人だからな!!やべぇぇぇ!!!160センチぐらいのキリカが俺よりも小さいぞォォ!!やべぇぇぇぇぇ!!!
「よし、手を、…手を繋ごう」
「へ?」
「手を繋ぐのが…恋人だぜ」
きょとんとしているキリカ(クリームロングヘアーの美少女)を前にして俺が恥ずかしそうにそう言った。
「う、うん…」
そっとキリカの手が俺の手の中に収まる。
なんて小さい手なんだ!!
女の子の手ってこんなに小さかったんだ!!今まで俺の手は小さかったから、同じ大きさの手だから全然小さく感じなかったけど、なんだこれは!!なんなんだこの握ったらへし折れそうな指は!!
手を繋いだまま店内を移動し、レジの前に。
「釣りは…いらないッ!!」
俺は財布の中から2千円札を取り出してレジのテーブルの上に叩きつけた。ひゅー!かっこいー!!
「すいません、あと200円ほど足りません」
なにィ?!
って、これユウカとナノカの分も入ってんじゃねーか!!どうなってんだよこれは!!!糞ッったれガァァァァァ!!
すると隣のキリカがごそごそと財布を出して小金を探す。
クッ…女の子の前で情けないッ!!
俺は財布から迷わず札を出してレジのテーブルに叩きつけ、
「釣りは…いらないッ!!」
と格好をつける。
「あ、やべ」
5000円札を出していたよ。
慌ててそれを引っ込めて200円を払っ…
クッソォォ!!!
ジャストで払ってしまった…
くそぅ!!なんて辱めをッ!!
釣りはいらないとか豪語しておいて最後はジャストかよ!!
「プッ」
店員が笑ってるゥゥ!!!この野郎ゥ…。