127 魂と英知のドロイドバスター 4

しばらくすると俺達が注文した『フルーツパフェ・こし餡ミックス』が届く。
これこれ、これだよ。美味しいんだよねぇ。こし餡のところにまで練乳が侵食してるぞぉ…ティヒヒヒ…。
「ンンン!!!ほぃしぃぃいい!(美味しい)」
ナノカが歓喜の叫び。
そうだろう、美味しいだろう。
「あら、意外とあんこってクリームとかとあうのね」
ユウカは一口食べてからそう言った。それから二口、三口と食べていくとナノカと同じような反応をする。
キリカは眼帯をしていないようの目をキラキラと輝かせながらフルーツパフェ・こし餡ミックスを口に流しこむ。それから、
「美味しい…美味しいよぉ…」
と興奮気味に言う。
「人の世界にも美味しい物があるでしょ?」
そう俺が言うと、
「魔界で食したパフェの味を懐かしい…」
などと思い出したように中二病設定を取り戻して返した。
そうか魔界にもパフェがあるのか…そうかそうか。
しかし、あっちゅうまにそのパフェを平らげた。キリカはスプーンを口に咥えて残念そうな顔で目の前の残り少ないパフェの残骸を見つめながら俺に向かって言うのだ。
「キミカぁ…また連れてきて…」
「え〜…そんなに行きたきゃ一人で行けばいいじゃん」
また俺が連れていくのとか面倒クセェ…。
「ちょっ、あんたねぇ。キリカはアンタと違ってボッチでこういう店に入れないのよ。察しなさいよ」
ユウカが言う。
「ちょっ、ぼ、ぼぼぼぼ、ボッチちゃうわ!」
「ボッチじゃないの?」
「『お一人様』なの!ボッチじゃないよ!」
「同じ意味じゃないのよ?」
「違うよ!!」
そんなふうに興奮気味に俺がユウカに反論してるとナノカが言う。
「キミカっち、この店に普段は一人で行くんだよね…。一人で入店してテーブル席を独占してパフェ食べてるキミカっちを想像したら…うぅ…中二病なキリカっちとは別の意味で痛いよォ…」
やめろ…。
やめろォォォォ!!
っていうか俺以外にもこの店には『お一人様』で入店して楽しんでるご女中がいるんだからそういう事を言うのは…ほら、案の定、今の話を聞いてた隣の席の『お一人様』がピクッと反応するじゃないか!
しかしユウカはまったくそんな空気を気づかず、
「キミカはまだ顔がいいからいいわよ。それほど顔が大したことない人とか太ってる人とかがこういう店に入って一人でテーブル席独占してパフェ食べてたらねぇ…ま、このお店は男性客居ないからいいけど、男性客居たら相当痛い目で見られるわよね」
まぁ、俺、男性客ですけどね。
確かにデブのブスがパフェ一人で食べてるのを見たことあるけど、あぁ、終わってんなぁこの人、恥も外聞もない人なんだなぁ…って目で俺は見てたよ。ごめんなさい。人の事言えないですよね。
…って!
そういう事じゃないんだよ!
いいからその話題から離れろ!!
隣のOL風の30代ぐらいの女子(笑)で『顔が大したことない人』の『お一人様』が複雑な表情で俺達の会話を聞いてるじゃないか!
クソッ!俺も『お一人様』の一人としてこの話を刺を残さぬようにフォローをしなければならないのか。
「そういう事を言ってられるのは学生のうちだよ。将来、仕事をするようになったら友達とも疎遠になるし、結婚だってしてないかも知れないし、そんな状態になって『一人で入店するのは恥ずかしいからー』って入らないようにしてたら本当にコンビニぐらいでしか一人で入店できないようになるよ?」
「はぁ?あんただって学生じゃないの?」
「そういう人を見てるから想像つくの!」
「いやいや、ありえないってば。友達と疎遠になるっていうのは確かにあるとは思うけどいい年して結婚してなくて、それでいてボッチでこういう店にくるなんてありえないわよ」
ちょっ、お前がありえねーよ!!なんて事言ってんだよ!!!
言い方が違うだけで『いい年して結婚してない奴はボッチでこういう店に入るなんてしてはならない』って言ってるのと同じだぞおい!
俺達のテーブルの隣の席には隣のOL風の30代ぐらいの女子(笑)で『顔が大したことない人』の『お一人様』でしかも結婚はまだっぽい人が深刻な表情で俺達の会話を聞いてるじゃないか!
「あ、あのさぁ。ユウカみたいな体育会系にはわからないかもしれないけど、文化系の女子って友達とかそもそも少ないし、学校以外では殆どが一人で行動してるもんなんだよ?自分がいる世界が全てだと思い込んでるのは甚だ自己中心的だと思うなぁ」
「はぁ?」
「大体こういう喫茶店とか居酒屋とかにしても、一人で入店出来ないとか子供じゃないんだからさぁー」と俺が言うと、肩身を狭くしてキリカが「はぅぅ…」と悲しい声をあげる。
それを見たユウカ、
「あんたと一緒にしないでよ、キリカだってアンタみたいに図太い神経してないんだから」
「な…」
「図太いじゃないのよ。こういう店に一人で入店して本来なら友達同士で座るはずのテーブル席を一人で独占してさー。そういうのを図太いって言わないでなんて言うのよ?」
おいおいおいおいおいおい!!
俺達のテーブルの隣の席には隣のOL風の30代ぐらいの女子(笑)で『顔が大したことない人』の『お一人様』でしかも結婚はまだっぽくて神経も図太い人が下唇をフルフルと震わせながら手に持ったスプーンも震わせながら今にも泣きそうな顔で俺達の話を聞いてるじゃないか!どうすんだよこれ!!
(カチャン…)
隣の席からわざとらしくも大きな音を立ててスプーンをテーブルの上に放り投げるような仕草をする『お一人様』が。
バッグを持って無言でレジへと向かっていった。
まだパフェは残ってるのに…。
その様子を見てからユウカは初めて今までの話、全部を隣の『お一人様』が聞いていた事を知ったようだ。
俺やナノカの顔をチラチラと見ながらユウカは恐る恐る、
「え、なに?私が悪いの?」
と小声で言う。
「さっきからずーっと聞いてたよ、あの人」
と俺はユウカを睨みながら言う。
「言ってくれてもいいじゃないのよ?!」
「途中で言ったらこっちが意識してるって相手にわかってそれはそれで変な空気になるじゃん!っていうかあたしが何度も話をやめるようにフォローしてたのに気づいてよね!!」
「やばいよ、やばいよ、私もユウカっちの乗っかってたぁ…体育系系じゃないのに、どうしよう、狙われるよォ…」
あたふたとしているナノカ。
「周囲をよく確認してからそういう話をしてよねー。本当、空気が読めてない人だなぁ…見てよほら、他にもボッチで入店してる人いるじゃんか」と俺は首を回してから周囲を見ないように目玉だけを動かして状況を把握した。同じようにユウカも周りを見る。
ボッチの女子()は沢山いるようだし、しかも、今の話を全部聞いていたっぽいのだ。ユウカをチラッと睨む人もいた。
さっきのOLっぽい人もレジで会計を済ませてから店から離れるさいに、ジロッとユウカのほうを見てから離れた。
「ちょっ、ちょっと、私、用事思い出したかも?」
慌てて帰る仕度をするユウカ。
「私も!帰ろう帰ろう!夜道に気をつけて帰ろう!」
同じようにそそくさと帰り仕度をするナノカ。
二人は会計を済ませて店から出ていってしまった。
俺と中二病を残して…。