127 魂と英知のドロイドバスター 3

マコトとナツコ、俺、そして新たに『ドロイドバスター部』への入部が決定したキリカは下校した。
とても長い一日だったような気がする。
なんだか疲れた。
家に帰ったらフリスクとコーラを飲もう。
と、俺が一人で家に帰ろうと、いや、帰宅部の強化訓練を開始しようとした時だった。
「あら?あんた達、部活は決まったの?」
とどこかで聞いたことが聞こえた。
そのマヌケな声の主はユウカだった。
隣にはナノカがいる。
「もう決まったからいいよ。ほっといてよ。シッシッ」と、犬でも追い払うかのように俺は手を振ってユウカにシッシッした。
「せっかくなんだから交流を深めるためにも一緒に帰ればいいのに。どっかに寄り道とかしてさ」
うわぁ…。
こういう奴が上司になると意味も無く飲み会とかバンバン開いてコミュ障な部下たちが悲惨な目にあうんだよなぁ。未来の残念な映像が見えてきたよ。俺はこういう体育会系なのが大嫌いだよ。
「それじゃ、あたし以外の人で交流を深めたい人は行って」
「おい」
ユウカは思いっきり俺の腕を掴んで、あまりの力に俺の腕は壊死寸前になりつつも、気が付けば商店街のオープンテラスタイプのカフェに来ていたのだった…。
ちなみに、マコトは食材を買わないと行けないので途中で別れた。ナツコは言うまでもないが人混みがあまり好きではないので先に家に帰ると言って帰った。友達と一緒でもパニック症候群は威力を抑えられないらしい。
「はぁ…やっと血流が戻った」
「キミカっち!!手が真っ青だよ?!」
「う、うん…ユウカが怪力で掴むから」
「あ゛ぁ゛?!」
ま、このカフェは俺のおすすめのカフェなんだけどもね。
ただ、ここは通信状況が少し悪くてMapBookAirを広げても悲惨なネット通信環境にうんざりするし、客層はやたらと女子が多い。女子っていうのは本当に女子って呼べる年齢の女子と、自称『女子』の2つ。だからこれといってぼっちで入店する分には面白い場所ではない。
そんなところでどうして俺が『オススメ』と言うのか。
着飾ったフレンチやらイタリアンのソレとは違って店主は明らかに味で勝負をかけてきて、そのひたむきな味に対する追求が俺にはストレートに理解できるから好きだ。それに加えて、甘いものならなんでも食べれる、胃は甘いもの用と甘くないもの用に分かれてる、という女子達の鈍感な舌では分からないだろうが、男の俺がその敏感な舌で微妙な味の違いを把握できる。
ここは明らかに別格である。
しかし、本来なら朝の時間に来るべきだった。
この時間帯は女子高生で店内が埋め尽くされていた。
幸いにも俺達の座る場所はオープンテラスで空いており寒いけど、冷たいものが溶けないからよしとしよう。
「何にしようかなぁ?私はここにくるの初めてだよ」
とユウカがメニューを見てから、
「コーヒーにする」
と言い出す。
いるんだよなー、こういう奴。
甘味がオススメの店でコーヒーしか頼まないで後で「あそこのコーヒーはあんまり美味しくないね」とか言い出す奴。
いや、マジで。
フランス料理の店に行ってからメニューの隅っこにあるイタリア料理を注文するとかカレー屋でカレー頼まずにハヤシライス頼むとか。屋台で酒だけ飲んで帰る奴とか。
俺はなんかムカついて爪楊枝を一本取るとユウカの腕に突き刺そうとしていた。瞬時に回避するユウカ。
「なにすんのよ!!」
「ここは甘味が美味しいんだよ!コーヒーだけ注文するとか愚の骨頂!!相変わらずユウカは人生損してるね!」
「私が何を注文しようと私の勝手でしょ?!」
おいおいおい、俺が用事があるから帰るって言ってるのに無理やり腕を壊死寸前まで掴んで連れてきたお前が言う台詞がそれなのか?
おぉぁぁ?!
「ったくそんなんだから見た目が素敵だからーってすっからかんの腐ったおせち料理を高い金払って買って損するんだよ」
「それは関係ないでしょうが!」
そこに間に割って入るナノカ。
「まぁまぁ、キミカっちの言うとおり、ここって甘いモノが美味しいって話で結構人気がある店なんだよ。せっかく来たんだからこのお店オススメのものを注文していこうよ」
そうだよ、うん。そうなんだ。それなんだよ。大切なのは。北海道旅行に言った奴が北海道のナクドナルドで照り焼きバーガー食べるのがあまりにも馬鹿らしいように、その場その場には一番適したいいものがあるはずなんだ。
というわけで、俺はフルーツパフェ・こし餡ミックスを注文してみた。アイスクリームとこし餡とフルーツが絶妙なバランスで口の中でオリエントするというまさに『和』食の一品。
「私もキミカと同じ物にする」
キリカがそう言う。
「んじゃ、あたしもキミカっちのオススメにしょうかな?」
「私はホットケーキで」
「…」
「ホットケーキ」
「…」
俺は無言でつまようじを取るとユウカの腕に突き刺そうとした。しかし奴は凄まじい反射神経でそれを回避した。
「なによ!!ホットケーキいいじゃないのよ?!」
「あーもう!どうして空気読めないかなぁ?!ホットケーキは味付けが殆ど同じなんだよ!どこのお店も極端に不味いか普通かのどっちかなの!!例えば和食の味の良さ悪さを決めるのにお刺身を食べて『この人の料理は美味しいね』って言えるの?!お刺身は新鮮なほうがいいけど、それが料理の腕には直結しないんだよ!!」
「私はホットケーキが食べたいの!ホットケーキも甘味じゃない?」
甘味じゃねぇよォ…ホットケーキが甘味だったらパンもピザも生クリームが乗ってない状態のケーキも甘味になるのかァオォァァ?!
「ったく、しょうがないわねぇ…わかったわよ、わかった。キミカとおんなじ物をお願いするわ」
本当にどうしようもないぐらい劣悪選択をするなぁ。