126 中二病でも愛してる 9

放課後。
文化系の部活は俺はよくわかんないのでナツコにお願いする。
俺とマコトは後ろを着いて行くだけだ。
最初に向かった先は化学部。ちなみに顧問は何故かキサラらしいのだが殆どと言っていいほど顧問らしき行動はとらないらしい。そりゃそうだよ、あの人、ドロイドバスター部の顧問もやってるからな。そういえば俺もドロイドバスター部の出席率も幽霊部員並だな…。
部室(と言っても化学準備室)に入ると数名の部員らしき人達がいる。男子が2名と女子が1名…女子はこれまた根暗を絵に描いたような風の女子だな。
化学部女子部員は藻が生えて中身が殆ど見えない水槽の中に向かってミミズの残骸のようなものをピンセットで摘んで手を突っ込んでいる。一体何をしてるんだろ?
「何してるの?」
俺は恐る恐る聞いてみる。
その化学部女子は決して俺と目を合わせることなく、水槽から視線を外さずに「化学部で飼育しているウーパールーパーに餌をあげてるの」と早口で言った。
ウーパールーパー…どこにいるんだろう?
どこにいるかはわからないけどピンセットで餌を摘んで突っ込んでたらそれを啄んで食べてくれるのかな?
「キリカ、餌あげをさせてもらいなよ」
「え…」
身体をピクリとピクつかせるキリカ。
「どしたの?」
「その…水槽の中に…手をいれるの…?」
「そうやって餌をあげるらしいよ」
「…」
「どしたの?」
キリカは眼帯をしているほうの目を押さえて唸り出す。
「目が…目がぁぁぁぁ…!!」
それは都合が悪い時にお腹が痛くなるのと同じ系統の行動なのか。
その時、化学部女子部員の表情が少しだけ変わった。
「きた」
そう一言だけ言う。
そして手をゆっくりと濁った水槽の中から引き上げる。そこにはピンセットに齧りついているウーパールーパーがいた。
…。
キモイ…。
「よ、よし、次いこー!次!」
俺はそう言って拳を上に振り上げた。
次は軽音部。
ガールズバンドっていうのが流行り始めてからは殆どの高校では軽音部が産まれ、ここアンダルシア学園についても他と同様にすぐさま軽音部が作られた。
どこかのアニメでは女の子がお茶会よろしく放課後の音楽室でまったり過ごすだけでいつの間にかコンサートも開けるレベルになるという間違った知識が流行してしまって、自分も同じように楽しい高校生活ができると思い込んだ女子達が軽音部に入部したが、ギターやベースが高校生になった途端にできるわけでもなく、キーを覚える前に殆どの部員は辞めていくか幽霊となっていた。
「おじゃましま…ぁ…す」
ゆっくりと音楽準備室の扉を開ける俺。
やっぱりいつものように女子がお茶会などを開いていた。いったい彼女らはいつになったらバンド活動を行うのだろうか…。
「ミスアンダルシア!!」
一年っぽい女子が俺の顔を見るなりそう叫んで駆け寄ってくる。俺は驚いてすぐさま音楽準備室の扉を閉めた。
しかし、興奮しているのか一年っぽい軽音部の女子達は思いっきり扉を開けたかと思うと俺の手を掴んで中に引っ張り込もうとする。
「ちょっ、なんだよぉ!!」
「先輩!ぜひ!!軽音部に!!入部して!!」
「ちょっ、まって、待ってってば!嫌!嫌ですー!」
「せーんーぱーいー!!はいろー!!!」
「助けて!マコト!!」
反対方向からマコトが俺の手を掴んで引っ張る。キリカやナツコも俺の手を掴む。もう綱引きのロープになった気分だ。
グラビティコントロールで音楽準備室のドアを締める俺。それでもまだ掴んでる一年女子。しかし「いてててて!!」と叫んだ後にドアの中へと手が引っ込んで俺は初めて解放された。
「な、何が起きていますの…」
ナツコが目を白黒させて言う。
「し、知らない…とにかくここには近づかないほうが、」
と俺が言いかけた瞬間、音楽室準備室の扉が再び開き、扉から開いた複数の手に身体を掴まれて中へと引き込まれそうになる。ゾンビ映画も真っ青である。
「うわぁぁあああぁぁぁぁぁ!!!」
「キミカちゃん!ボクの手を離さないで!」
「助けt」
キリカがもう一回扉を押して締めると一年軽音部女子は再び痛がって「痛い痛い痛い!」と叫びながら手を扉の中へと引っ込ませた。
…。
「ひぃぃいぃぃぃぃい!!」
俺は廊下に座ったままの状態で器用に後ろへと下がった。
髪は乱れて服は剥ぎ取られる寸前でブラも片方だけ紐が外れ、胸の谷間が露出している…それが今の俺だった。
「魔物がいる…」
キリカがドアを見てそう言った。
…さてと…次は。
「ろくな所がないじゃんかよ!」
俺はナツコに怒鳴る。
「キミカさんは文化系の女子に人気がありますわね」
人ごとだと思って。
「次はどこなの?」
「美術部とかはいかが?」
「…全裸モデルになるっていう嫌なオチが浮かんできたよ」
「さすがにそれは問題ありますわ」
音楽準備室の中に引き摺り込まれるのは問題ないのかよ。
美術部の扉を開けると…そこではみなさん絵を描いている。何かを見て描いてるのかと思えばそうではなく、想像したものを描いているみたいだ。こういった描き方もあるんだろうな。
「あら、石見さんじゃないの」
「こんにちは先輩。新入部員候補を連れてきましたよ」
ナツコの知り合いなのか。メガネを掛けて後ろで髪をくくった大人しそうな女子が話し掛けてくる。
「まだ色々見て回っているところです」
「それじゃ、体験入部してみたら?」
という二人の会話でキリカだけじゃなく俺とマコトまで体験入部することになった。