122 ハード・ターゲット 6

俺とバトウは取調室に突入した。
すぐさま制圧しようとしたのをトズサが制止する。
「やめろ!」
俺達に向かってそう言う。
どうしてそう言ったのか、俺は岸田が持っているものを見てわかった。普通、こういう時にはハンドガンなんぞを持って銃口をミサカさんの頭に向けて人質として威嚇するものだ。しかし岸田が持っているのは『スイッチらしきもの』。もうこれだけで何を意味するところなのか、カンが鋭い俺はわかった。
これは何かを起爆させるためのものだ。
しかも、ちゃんと人質をとっている。
起爆させるものがどこにあるのかは、人質が近くにいることから岸田本人か人質となっているミサカさんのどちらかであろう。
光学スキャンで岸田の服を透けて見てみると、まずオバサンの情けない体型があらわになり…まぁこれは今は置いといて、内臓やらを見てみると…あった。あった。胃の中によくわかんないビー玉みたいなのが沢山。これが爆発するのか?
「早まった真似をしないで!まだやり直せるわ!」
などと言うのはミサカさんだ。
「早まった真似?何を早まってるっていうの?今の状況は最初ッから計画のうちに入っているわよ?」
「恋人を殺されたことで自暴自棄になってるんじゃないの?!」
「あははははは!!恋人ォ?あれはただの道具のうちの一つよ?」
それを聞いてからミサカさんは口を開かなかった。
「トズサ!あんたの奥さんを殺してからあんたを殺そうと思ってたけど、残念ね!あいつ失敗しやがって!でもまぁいいわ、ここであんたも死ぬから!!」
あいつ?リウのことか。
「もう十分殺しただろう?無関係な人間までも沢山。それにここで俺を殺すってことは、あんたも死ぬってことだぞ?」
「それは私のお腹の中にあるパイプ爆弾が破裂したらの話よね?大丈夫、アンタがここで自殺したらみんなを殺さないでおいてあげる。さぁ、選択肢は2つ。アンタがここで自殺するか、それともここにいる全員が死ぬか!!さぁ!どうすんの?!決めなさいよ!」
俺はブレードを構える。
こいつがスイッチを押す前に腕を斬り落とせばこっちの勝ちだからだ。しかし、俺がピクリと動いたのを見ていやがった。岸田はにんまりと笑ってから、
「ドロイドバスター・キミカだっけ?あんたが動いても爆発させるわよ?あと、私の手に持っているスイッチ以外にも爆発する条件があるから、腕を斬り落とせばいいって思ってるなら間違いね。これはね、あくまで『絵』なのよ。トズサに自殺させるための『絵』を見せているのよ?どう?張り詰めた空気になってるでしょ?」
脳の中で指示をだせば爆発するのか、それともこいつが死ねば爆発するのか、どっちにしても俺がブレードで奴の腕を切り落とすよりも爆発のほうが早そうだ。
「ほらほら、どうしたの?たしかバリアがあるから防げるのはキミカだけでしたっけェ?ねぇ?その真っ黒い刀でパイプ爆弾の破裂と対決してみる?四方八方に飛び散る破片を全部防ぎきれるかなぁ?」
ぐぬぬ…」
「黒幕は女だって?女は卑怯で狡猾であと、なんだっけ?自分のことしか考えない、自分の手を汚さない?今の状況はなんなの?ねぇ?アンタ、さんざん女をコケにしてたけど、どうなの?あたしが自分の命押しさに跪いて許しを乞うとでも?あたしは組織を潰した連中全部を地獄に送ろうと思って今まで生きてきたんだよ!!このあたしの恨みの執念をナメんな!小娘が!!」
「わかったわかった。わかったよ、女は狡猾で卑怯で自分のことしか考えない、自分の手は汚さない、執念深くてどうしようもない反社会的な行動を起こすクソッタレってのも追加しとくよ」
「あははは!随分余裕ねぇ?」
間にバトウが入る。
「キミカ!相手をむやみに挑発するな…今はハッタリは通用しねぇぞ!この女は本気(マジ)だ!!」
「あたしとバトウの会話を盗聴してたのは褒めてあげるよ。どこで盗聴器仕掛けたのかわかんないや。それはどうでもいいんだよ。あんたはアタシの作戦を盗み聞きしただけであって、まだ奥の手があるってことがバレたわけじゃないからね。あ、今、バラしちゃったー(俺は手で口を抑えて)どうしましょー!」
と慌てふためいてみせる。
「おい、だから今はそういうのは通用しないって」
バトウがいつものバトウと違うな。
「はッ?奥の手?ハッタリは通用しないわよ?」
「アンタはあたしの事を単なる『女』嫌いな小娘だと勝手に思ってるでしょうけど、それだけじゃぁないし小娘でもないし、奥の手があるのもハッタリなんかじゃない。あたしは昔から、女のそういう『表面しか見ないところ』が大嫌いなんだよ。アンタがテロリストを日本に呼んで手引きした時点であたしの中じゃアンタの死刑は確定してんの。でも法的にはもっと軽い刑になるから残念で仕方なかった。そこで馬鹿なアンタは今、自分の罪を公にして、あろうことか殺人を犯すことをと公言している。これで何にも縛られずにアンタを死刑にすることができるよ!!馬鹿丸出しだよ!!さぁ!選択肢は2つ。アンタがここでアタシの前で土下座して泣きながら命乞いするか、それともアンタが死ぬか!!決めなさい!」
さすがに俺の挑発には岸田だけじゃなくバトウやトズサですら死刑宣告されたかのように戦慄している。おそらく爆発すると一番被害が酷いであろうミサカさんは今にも倒れそうになっている。
そんな中で岸田はマジキレ状態だ。
震える手でスイッチに手を掛ける。
0.00012秒。
爆発が起き、俺の動体視力ではパイプ爆弾の破裂する様子が見える。やっぱり奴の胃の中に入っていたと思われるビー玉みたいなのが全部パイプ爆弾だったらしい。
0.00031秒。
奴の言うとおり、本当に四方八方に破片が飛び散る。俺は一方方向からならブレードで防ぎきれるがこれはさすがに無理だった。
0.00045秒。
俺は今まで練習段階で使ったことがなかった「ブラックホール・ディフレクター」を発動させた。
俺がブレード以外の方法で攻撃を防ぐのに使っていたのは体術と組み合わせた「グラビティ・ディフレクター」。グラビティコントロールの作用を局所的に集中させて、敵の作用をプラマイゼロにすることで攻撃を無効化している。しかし、それはグラビティコントロールよりも上回る力で責められると防ぎきれない。例えばビームとか。
ブラックホール・ディフレクターはどんな物質も、エネルギーも、全てを吸い取って無にするブラックホールだ。
それを前にしては奴のパイプ爆弾の破裂なんぞ屁でもない。ただ、加減を間違えると奴の爆発や奴の身体どころか隣にいるミサカさんまで見境なく吸い込んでしまう。
ミサカさんをミサカいなく…か、これは中々面白いな。
0.00076秒。
パイプ爆弾の爆発よりも早くブラックホールディフレクターが作動して、周囲のエネルギーも物質も全部を吸い込んだ。このタイミングでなんとかこのブラックホールをドロイドバスターの力で消し去る。
0.00089秒。
奴の手足と頭だけがその場に残った。
一瞬だったのでトズサもバトウも何が起きたのかさっぱり理解してないようで、ミサカさんに至っては今まで自分を捕まえて吠えていた岸田が手足と頭だけになっているのだ、しかもまだ自分がその状態になったことに気づいておらず、キョロキョロと目玉が俺達を見ているのだから、失神フラグはオンにならざるえない。その場に倒れた。
「な、なにが、起きたんだ?」
トズサが言う。
「すげぇ…奥の手があったんじゃねーか」
バトウがぽかんと開け放った口からそんな事を言った。
「本当の奥の手は味方にも話さないもんなんだよ」
そう言って俺はしばらく目玉をキョロキョロさせていた岸田の頭にブレードを突き刺してトドメを刺した。