122 ハード・ターゲット 4

「確かこのあたりだったよな?お前の家は?」
マンションが沢山並んいる地域の一画。
バトウがトズサに聞く。
しかしトズサは上の空になっていた。
「トズサ!!」
「あ、あぁ、ここだ。ここだよ。あんた、何回か俺の家に来たんだろう?場所、まだ覚えてないのか?」
「いや、お前金回りが良くなったって言ってたじゃねーか。マンション売って他に移ったのかと思ってたぜ」
「いや…」
その時、突然トズサのガラケーが鳴った。
トズサがそれに出る。
「あぁ、うん。大丈夫か?ん?…警察?」
トズサは電話をしながらもバトウの顔を訝しげに見る。
「どうした?」
バトウがトズサに聞く。
「俺の家に警察官が来たらしいんだけど…」
「何人だ?」
「一人…」
バトウの顔が険しくなる。
「絶対にそいつを入れるな!!俺が回した警察官は3人だ!!一人だけで来るなんてあり得ない!!」
すぐさまトズサはガラケーで、
「絶対にソイツを入れるな!今からいくからな!」
その電話はトズサは切らなかった。
バトウもトズサも俺のほうをみている。
「キミカちゃん、俺の部屋は5階の512号室だ…頼む」
「わかった」
俺は車のドアを蹴り開けて道路に飛び出た。140㌔も出している車から出るとそれだけで普通の人は肉塊になるが、タイミングよく俺はグラビティコントロールで地面から飛び上がったから全くの無傷だ。そのまま空高く飛び上がると、トズサが言っていたマンションの5階めがけて急降下する。
すぐに分かった。
俺達が追っているターゲットはあからさまにハンドガンらしきものを取り出して今にもマンションのドアノブに向けて撃とうとしていたから、人様のマンションの部屋の前でハンドガンを持っているような人間はそうそう日本には居ない。
ひとつだけ、懸念事項がある。
もしソイツ(リウ)が狡猾にも人質としてトズサの奥さんをとったら?もし目的重視の奴で、自分の身を守るよりもトズサの奥さんを殺す事を優先したら?
しかし、俺の予測は9割9分、ソイツは自分の身を守ろうとする。ソイツは熱しやすく冷めやすい性格で、欲望に忠実で、短絡的思考の持ち主だ。獣とおんなじ。
俺はブレードを抜いてリウと思わしきハンドガンを持った男に近づく。男は躊躇なく俺に向かってハンドガンを撃ちまくる。
正解だ。
俺の予想が当たった。
こいつは熱しやすく冷めやすい性格で、欲望に忠実で、短絡的思考の持ち主だ。獣とおんなじ。
マガジン内の弾を全部撃ち切ってからことの重大さに気づいたようだ。そう、自分を守るためのものがもう何もない。
その瞬間、俺のブレードはリウの身体を真っ二つにして手足をバラバラに分解させた。
身体をサイボーグ化されているので、丁寧に斬っておかないと後で復活されても困るからな。
頭だけになったリウは俺の方を見て、まるで恐ろしいものが目の前にいるかのような顔になっている。そんなに怖がらなくても、お前のほうが今まで十分な恐怖を人に与えてきただろうに、なんで今さら自分が死ぬ時になって恐れるのか?
あぁ、そうか。
熱しやすく冷めやすい性格…
欲望に忠実で…
短絡的思考の持ち主…
昔のことなんて覚えているわけがない。
人の痛みなんて知るわけがない。
俺が浅はかだった。
俺の価値観を押し付けてもしょうがない。
まだ生命維持が行われているリウの頭部をグラビティコントロールで持ち上げると、そのまま圧力を掛けて、ぺしゃんこにした。
遅れてトズサとバトウが現場にやってきた。
感動の再会…ってやつなのか。
トズサは持っていたガラケーを廊下にぽいと放り投げて、ありきたりな「あぁ神様、よかった…」と泣きそうな声で、きょとんとして玄関から出てきた妻に抱きついた。
バトウが俺に言う。
「リウは…殺ったか」
「だって銃を撃ってきたんだもーん」
「ま、しょうがないな」
バトウはそう言ってそこら中に散らばっているサイボーグの欠片などを足でけつッた。そして、
「一件落着かぁ?」
などと言ってみせる。
「まだだよ。手引きした奴はちゃんと罰せられなきゃ」
俺はそう言った。
「キミカちゃん…女の子なんだからわかるでしょう?(って俺は女の子じゃないって…)恋をする人は周りが見えなくなるものなのよ。情状酌量の余地はあると思うわ」
まだ言ってるよ…。